第171話 竜退治(とあるハイエルフ視点)
人間が現れた翌日。
私は早速調査に乗り出していた。
森の中を進み、小隊を率いる。
そのうち魔物とも遭遇した。
魔物と遭遇することは計算内だ。
槍で抵抗し、私に接近しようとする魔物は扇子ではたいた。
私は指揮はそれなりに得意なつもりだった。
王族ということもあるのだろうか?
魔法などの便利な力が使えない代わりに、こんな才能はあったのだ。
私のいうことを信じてくれるエルフたち。
その行動に迷いはなく、機転がきく行動力によって、ゴブリンの群れも倒した。
ゴブリンなんて大したことないと思われるかもしれないが、最近のこの森の魔物は急増するだけでなく、強化されてきている。
ゴブリンはさらに素早くなり、エルフの兵士と同等だ。
風魔法を使ってそれに対処すれば、問題ないからゴブリンはなんとかなった。
しかし、そこから先が問題だった。
一瞬にして、曇る。
森の中とはいえ、朝の太陽光が私たちを照らしていた。
それが暗くなり、なんだろうと思って上を向いたときには遅かった。
「撤退!竜よ!」
私の叫んだ声を理解したエルフたちは、一気に顔を青ざめさせる。
そして、なかなか動こうとしない私を引っ張り、撤退しようとする。
だが、
「私は動かないわ」
「ハイエルフ様!?」
「いいから、先に逃げなさい!」
「ですが……」
「これは命令よ!」
「!」
ようやく兵士が逃げる。
(まあ、逃げたところで、どうせ見つかるだけだからね)
竜に見つかったらおしまい。
その時点で詰んでいるのだ。
物語なら、ここで私が返り討ちにしたりするのかもしれないが、生憎ここは現実。
王族としての力を持たない私は、抵抗することすらままならない。
なら、いっそのこと……。
「最後まで……王族らしく」
ハイエルフとして、恥を晒すわけにはいかない。
逃げる姿を、エルフたちには見せたくない。
私は、誇り高く散ってやるのよ。
竜が私に向かって接近してくる。
その速度はとてつもなく早く、私はすぐに目を瞑った。
——だが、感じるはずの痛みや、苦しみが私に襲いかかることはなかった。
「?」
疑問に思ったわ私は目を開ける。
そこには、信じがたい光景が映っていた。
「あなた、ハイエルフだったのね」
「!?」
「さすがに、目の前で死なれたら胸糞が悪いからね」
そう言った少女には見覚えがあった。
つい、昨日のこと、エルフの森に訪れた黒髪の少女だ。
相変わらず、瞳は濁りきっている。
(なんで、こんなところに?)
だが、今はそんなことよりも驚くべきことが視界内に映っている。
「ちょっと!口を開こうとしないでよ!抑えるのって大変なのよ?」
竜の行動に文句をつける少女。
少女は、片手で竜を掴んでいたのだ。
竜が口を開くことすらできずに、その場に停止している。
私にとっては異様な光景だった。
そして、少女は足に力を入れている様子が見えた。
その瞬間、少女は足を上に放ち、竜の顔面めがけて攻撃する。
「これでおしまいっと!」
竜は一瞬のことすぎて理解できなかったかもしれないが、キョトンとして、声すらあげる暇もなく、少女の蹴りによって吹き飛ばされてしまった。
「大丈夫?」
少女はそう聞いてくる。
私にはもうわからなくなっていた。
なんで人間が私を助けたの?
忌子なのに、なぜこんなに優しくするの?
人間はここまで強いの?
他の従者二人はこれ以上に強いの?
疑問は絶えない。
しかし、
「触らないで」
私が差し出された手を受け取ることはない。
手を払い除けて、私は立ち上がる。
「……怪我はないのね」
「人間に心配される筋合いはない。竜を追い払ってくれたことには感謝してる、だけど、それだけ」
一回助けられたぐらいで信用するわけがない。
一度私たちを滅ぼそうとした相手をたった一回で信用することはないのだ。
「それは残念ね……」
本気で落ち込んだような表情をする少女。
私にはわからない。
そのうち他の従者二人がここまでやってきて、
「ご主人様!スカートがめくれてますよ!」
「ん?まあいいじゃない。どうせローブの中なんだから」
「ダメですー!僕たちの精神衛生上よろしくありません!」
「えー!」
いきなり、この悪い空気感が吹き飛び、今度は明るい雰囲気に変わってしまった。
その中で私はただ呆然と警戒だけをしておく。
「あなた、名前なんて言うの?」
「……教えるわけないでしょ」
私はハイエルフ。
下賤な人間に教える名など持っていない。
例え、落ちこぼれだったとしてもだ。
「ふぅん。じゃあ、こっちは勝手に名乗らせてもらうわね」
「!」
「私はベアトリス、こっちがレオで、こっちのうるさいのがユーリ」
「聞こえてますよ、ご主人様!」
ご主人様……か。
やはりここは主従関係にあるのか。
「人間を信用することはできない。ただ、助けたことには感謝をしよう」
そう言って私は森の奥に進む。
「帰らないの?」
「……なんの成果も無しに、帰ることはできない。例え、私一人であったとしてもだ」
何か手がかりを見つけないと……。
私はさらに森の奥に入って進もうとしたとき、後ろから声が聞こえた。
「じゃあ、私たちもついていくわ」
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