第158話 ハズレ

「支配?」


「そう!すべてを自分のものにする最高の力よ!」


 なんだそれ、反則級じゃないか……。

 性質の強さによって、その本人の実力も大きく左右される。


 支配なんていうとんでもない能力があるなら、私にできることはあるのか?


(やるだけやるしかない)


 気合を入れ直したところで、少女がとんでもないことを言った。


「まあ、元々の私の力じゃないんだけれどね」


「は?」


 どういうこと?

 性質というのは、生まれつきのもので、元々は他人の力というのはあり得ない。


「完璧には扱えない。だけれどね——」


 再び、姿が消えた。

 だが、すぐに同じ場所に再度現れる。


「この空間を『支配』することは可能よ」


「空間を?」


「この屋敷の中はすでに私の支配下なの。だから、あなたたちがいくら攻撃しても、当たることはほとんどない、それに私がやろうと思えば、空間ごと葬れるのよね」


「私が棒立ちだったら、流石に当たるけどね」と、付け足した少女。

 だが、もちろんのことながら、戦闘中に棒立ちするバカはいないわけで……。


 要するに絶対勝てないってわけか……。


 は?


「嘘でしょ……」


「まあ、頑張りなさいな」


 会話が切られ再び始まる猛攻。

 結果を先に言ってしまえば、平行線だ。


 私たちの攻撃が当たることはなく、少女も私たちを本気で殺そうとしなかった。


「つまんないわ、もう少し頑張ってよ」


「こっちは本気だよ、こんちくしょーが!」


 少女は余裕の表情を崩さず、私の攻撃をすべて躱す。

 空間を支配……統治下においているからわかるのだろうか?


「おらぁ!」


「見えてる」


 不意打ちの一撃……同時攻撃のすべてが、止められてしまった。


「ああもう!どうしろっていうのよ!」


「やっぱりまだ弱いわね。せめて職業補正がかかればまともにはなるんでしょうけど……」


「チッ!」


 職業を持っていない私は、職業の補正を受けられない。

 スキル自体は使用が可能だが、力が安定せずに連発できないし、反対に体力を消耗するだけのものなのだ。


 私はもう十歳。

 ほんとだったら職業を手に入れていたはずなのに……。


 思い出すのは教会の一室。

 少し広い部屋に子供たちが集められて、オーブに手をかざし職業を得る。


 それを神官たちに教えてもらうのだ。


(せめて、ここにフォーマがいたら……)


 私たち二人と同等の力を有する彼女がいれば、少なくとも逃げ出すことはできるだろうに……。


 そんな想像を膨らませていた時だった。


「?私の性質に干渉?」


 そう、少女が疑問符を浮かべる。

 次の瞬間には、私もその気配を感じとる。


 それは、さっきも会ったばかりの人物の気配だった。

 転移魔法で現れた人物。


「フォーマ!」


「戻った」


「あら?狂信嬢じゃない。あんた生きてたの?」


「ん、一応」


 やはり、この二人は知り合いだったのか……。

 なんとなく思っていたが、フォーマが元々所属していた組織と、この少女はなんらかの関わりがあるのでは?と、思っていたのだ。


 私のことをどうやら殺したがっているようだしね。


「それと、手に入れてきた」


「何を……って!?」


 フォーマはいつもの白装束を着ている。

 だが、いつもと違う部分があった。


 手に小さめの袋を握っている。

 フォーマがここにきてから一度も見たことがない袋だった。


 そこに手を突っ込み、それを取り出す。


「水晶……職業鑑定のオーブ?」


「それ」


「な、なんで!?」


「忘れた?私は教会所属」


「あ……!」


 そうだった!

 この人元々教会の人間だった!


 白装束等不気味な格好も、よくよく見れば、神官が来ていそうな服だ。

 少し特殊だが……。


「狂信嬢。あんた何やってんの?」


「主人に尽くす」


「は?お前が?」


「……………」


 睨み合いが数秒間続き、


「いつまで教義に従ってるのよ!人間の異端審問官風情が、調子に乗るな!」


 色々と聞きたいことが山ほどできた。

 教義の内容や、異端審問官というワードも。


 だが、今は……。


「フォーマ!鑑定!」


「ん」


「させないわ!」


 流石に、フォーマと私、それにレオ君と同時に戦うのは面倒だと思ったのか、それを阻止しようとしてくる。


 だが、


「キュン!」


「!?この獣……どけ!」


 ユーリが少女の腕に噛み付いた。

 そして、その噛んだ部分からは血が流れていた。


(すごい……ユーリ。私たちじゃ擦り傷を与える程度だったのに……)


 しかも、少女の性質の力を聞く限り、わざとくらったと考えた方がいいだろう。

 私たちは擦り傷も満足に与えられなかったのだ。


 それを考えると、ユーリって、私たちよりも強いのかもしれない。

 そう思って、自信をなくしそうになるが、私は急いで鑑定をしてもらう。


「きみは神の前に立つ。かくて、十歳になりしためしをここに宣言せり。神はきみ認め、褒美に生業を与ふ。それを受け入れよ」


 珍しく、饒舌になったフォーマがそう呪文を唱える。

 前世でも、聞いたことがある呪文だった。


(これで、戻ってくるのね)


 過去、前世で手に入れた職業。

 それが今手元『完全』に戻ってきた。


 愕然とした変化は訪れない。

 魔力が膨大化することもなければ、謎の力が現れて、覚醒したかのような気分にはならない。


 だが、それはしっかりと私の体の中に入ってくるのを感じた。


 それと同時にユーリが振り落とされた。


(ごめんユーリ。後でちゃんと治してあげるから)


 心の中で謝罪を述べて、


『止まれ』


「!?」


 突然、少女の体が動かなくなった。

 しかし、脳機能などは正常に動いているため、死んだわけではない。


「くっ!……こんなの支配、すれ、ば!」


「やっぱりそう簡単にはいかないか……」


 パリンと何かがはじけて、少女の体が再び動き始める。


「はあ、はあ……何をしたの!?」


 まともに自分の動きを制限されたことに驚いたのか、少女が声を荒げる。


「職業の恩恵よ」


「何よそれ!そんな力聞いたことない!」


 勇者を筆頭に、聖女、剣聖、賢者と呼ばれる人たちの職業スキルには、私のような力を持つスキルは存在しないだろう。


「知らなくても、当然よ。だって、ハズレだもの」


「ハズレですって……?」


 ——そう、この職業は私の前世で、『ハズレ』と呼ばれていた。

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