第121話 昔の組織(傀儡視点)
「一人目……」
八年前のことだった。
俺は一人路地の裏で嗤う。
ようやく動き出した。
我々黒薔薇の計画が……。
「メアリが死んだ今、俺たちに恐れるものはない」
ベアトリスという少女が生まれた次の日。
ベアトリスがどのように成長するのかは未知数だが、問題はないだろう。
勇者も死んだし、勇者パーティはそこまで脅威じゃない。
だったら、問題となるのはメアリただ一人だった。
魔族側についていた吸血鬼一族を北に追いやり、勇者と協力して、前線を押し上げた英雄。
世間一般ではそうだろう。
実際、そうなんだから。
ただ、俺にとってはそういうわけにはいかない。
俺にとって彼女は悪役のほか何者でもない。
その話はいいとして……。
障害だったメアリを転落死させたことで、状況、戦況は変わった。
ここで、我々はさらなる戦力増強を行う必要性は薄くなったが、念のためだ。
勧誘にでも行こう。
♦︎♢♦︎♢♦︎
まず向かったのは、教会だった。
王都にある教会。
とある女神を信仰する教会だったのだが、その中に所属する一人の女性に目が止まる。
「お前は……」
「神の御前、口を慎め」
白い衣装を見に纏い、目元を隠した少女がいた。
俺が教会に侵入したことにいち早く気づき、俺に警告をしてきた。
欲しい人材だ。
「ガキが、大人を舐めちゃいかんよ」
「神の前で無礼を働く者。死んで詫びろ」
簡潔な言葉遣い。
無駄を削ぎ落とした会話。
そして……。
「あなたたちは邪魔です」
「!?」
周りにいた教会内部の取り巻きたちを彼女の手自身で殺したその残虐性。
彼女の取り巻きたちは、彼女自身の手によって亡き者にされた。
「神への供物、まだ足りません。あなたも死になさい」
「はは!こりゃいいや!」
一瞬覗いた冷徹な瞳が、俺を刺してくる。
荒れ狂う魔力の波。
その波動と俺がぶつかりあう。
ただし、残念ながら俺よりかは弱かった。
所詮は、人間だ。
それなりに鍛えているようだが、俺にはまだ及ばない。
俺はそいつの記憶を操作した。
後からわかったことなのだが、彼女は異端審問官と呼ばれる教会内部でも屈指の実力者たちを統括する者、異端審問官の筆頭を任せれていたようだ。
その記憶を残すのは、俺らにとって利益をもたらすと同時に不利益ももたらすだろう。
故に上書きした。
俺の魔力の性質は“操作“だ。
全てを操作することができる。
文字通りなんでも……。
だから、その力を使って、メアリという存在がこの世にいなかったように上書きしたんだ。
そうしなければ、あらぬ捜索の手がこちらにまで伸びかねないからな。
その力と同様にこの少女も改竄する。
自分はただの教会の僧侶にすぎないと……。
そして、名前を聞いていなかったことに気づく。
どうしようか?
流石に呼び名は必要だな。
彼女はなんでも見通す目を持っているようだった。
その目の力はとても厄介で、視界内の攻撃は全て見切られた。
監視でも任せることが今後多くなりそうだ。
情報収集にも……。
情報……インフォメーションか。
フォーマでいいかな。
なんか語呂がいいし。
でも、名前を決めたところであまり意味はないかも。
うちの組織で上位に位置する人物たちは、二つ名を名乗る。
狂った忠誠心を神に注ぐ者……。
同じ仲間すら殺めてまで、俺を排除しようとしたお嬢さん。
“狂信嬢“かな。
狂った信仰心を持つ少女。
それが彼女の二つ名となった。
人員は確保した。
次だ。
♦︎♢♦︎♢♦︎
「やはり魔王は……」
魔族領にきて、知った。
魔王は生きていると。
簡単な話、魔王が自分の攻撃で自滅するわけないとのこと。
だが、なぜ死んだことになっている。
一体どうして、一部の魔族たちは魔王“様“が死んだと思っているのだ?
その答えはすぐにわかった。
「私がやったのよ」
「誰だ?」
一人の少女が現れた。
その少女は俺の独り言を聞いていたのか、そう言葉を返す。
「弱っていて、それなりに手駒に使えそうだったから私が“支配“しようとしたのよ——」
俺は彼女が話している間に、背後に周り斬りつける。
だが、
「若造が……私を舐めるな」
そう言って、一発パンチを叩き込まれた。
俺は腕を掴まれていたため、吹き飛びはしなかったものの、かなりのダメージを負った。
「ゲフ……なんで、だ?」
「単純にあんたが弱いのよ」
そう少女は告げた。
俺が弱いのだと、初めて知った。
人間たちと比べたら、敵なし……メアリを除いて……と思っていたのに、この完敗である。
俺は素直に話を聞くことにした。
曰く、彼女は手駒を欲していてちょうどよく弱っていた手駒を見つけ“支配“しようとしたものの、抵抗され失敗。
逃すものかと、呪いをかけたが、何処かへと逃走したとの話だった。
「魔王様に何してんだよ」
軽口を叩けるまでに回復魔法をかけてもらった俺。
少女は無言でそれを受け流す。
「あんたもなんか話しなさいよ」
情報を提示したのだから、そっちも出せとのことらしい。
何も話すことがなかったので、俺は自分の所属してる組織の最終目標だけ話した。
それだけならば、話しても問題ないと踏んでだ。
すると、
「あら、楽しそうね」
そう言って、彼女は協力してあげると言ってきた。
それはあくまで協力。
所属するわけではない。
そうして仲間になった彼女は俺の部下をこき使いながら、優雅に仕事を手伝うようになった。
本当に協力する気があるのかはさておいて……流れでもう一人仲間になったのは重畳だ。
♦︎♢♦︎♢♦︎
黒薔薇は簡単に言ってしまえば、悪の組織だ。
そんな組織には裏工作が必須となってくる。
裏工作なしで、表を操ろうとしても無駄だ。
だから手回しをする。
その手は隣国の獣王国まで届くことになった。
ある一人の貴族がいた。
猫の貴族。
今代の王は人間に甘い。
だから、人間を嫌いになるように仕向けてくれ。
そう取引を持ちかける。
結果的に次代の王が人間嫌いになるように……。
もちろんその代わりにこちらでもある仕事を引き受けることになる。
鬼人族の殲滅だ。
獣人の中で唯一嫌われる種族鬼人。
圧倒的力と、凶暴性を持ち合わせている。
その普段の振る舞いから、獣人たちは彼らを軽蔑していた。
俺はそいつらの殲滅を請け負った。
絶滅させるのはそんなに難しいことじゃない。
ただ、みんなの記憶から鬼人の存在を忘れさせ、寝静まった後に、殺せばいいだけ。
それだけで、終わる。
新たに勧誘した狂信嬢と、協力者とともに殲滅を行い、結果……。
一晩で仕事は完了した。
一応念のため、鬼人で一番偉い男と、その娘は捕虜として、猫の貴族に提出した。
そうすると、
「こいつは俺がもらう」
そう言って鬼人の娘を何処かへ連れて行く。
戻ってきたときにはもうそこには娘はおらず、残った鬼人の族長は処刑した。
これで鬼人の生き残りは一人となった。
ただし、そのまま鬼人として生活させるわけにもいかない。
そこで、俺は、協力者の力を借り、彼女に魔法をかけた。
猫獣人となる魔法だ。
「これで、誰にもバレずに生活できると思うよ」
「……感謝する」
それで、ようやく計画の第一段階が完了した。
「こいつは俺が好きに使っていいな?」
「もちろん」
俺には関係のないことだ。
「今日から俺のために働け、小娘」
「はい……わかりました。おいら頑張ります」
その様子を見届けて俺は帰宅する。
これで、計画は一歩前進した。
これからも俺は“傀儡“として、組織を導いていこう。
そう決意しなおした瞬間だった。
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