第101話 スパイする

 目を覚ます。


(ん?私は今までなにを……)


 体の感覚が戻ってくる。

 その感覚を頼りに私は、寝てしまっていたことを察する。


(そっか、お風呂に入ったんだった……)


 でも、それにしても寒い。

 そして、痛い。


 待って?

 腕の辺りめっちゃ痛いんだけど……。


 なにが起きたのか、私は目を開けて確認する。


「あれ?引きずってる?」


 正確にいえば、私が引きずられている?


 なにがどうなってるんだ?


 若干の痛みを感じる右腕を見ると、そこには、


「キュン!」


「あぁ、ユーリか……」


 私が起きたのを確認すると、ユーリは鳴き声を上げて、顔を擦り付けてくる。


「そうか!私、お風呂で寝ちゃったんだ……」


「キュン!」


「あれ?もしかして私って溺れてた?」


 確かお風呂で寝るのは失神することと同義だとかなんとか……。

 いや、それはいいとして、お風呂で寝ちゃったら……。


 その先を想像すると、怖くて寝れなくなりそうなのでやめておく。

 もう寝ちゃったわけだけどね!


「ユーリが助けてくれたってわけか……」


「キュン!」


「ありがとね!ユーリ!」


 マジでうちの子有能だ!


 抱き寄せて、そのままベットに連れて行く。


「!?!?」


「ん?どうしたの?」


 バタバタと暴れるユーリ。

 ペチペチ叩かれてちょっと痛い。


「いった……」


 右腕のあたりを叩かれた。


「キュン!?」


「あ、大丈夫だからね?つい声に出ちゃっただけだから、安心して」


 ユーリは心配性なのでね。


 ユーリの性格といえば、恥ずかしがり屋な心配性。


 あと、基本的に私以外には懐かない。

 その分だけ、私に懐いてくれる。


 だから、今もペロペロと私の腕の傷を舐めてくれている。


 なんで怪我をしているかと聞かれれば、きっとユーリが引っ張るときに腕を噛んだのだろう。


 っていうか、こんなちっさな体でよく私のことを噛んで運べたな!?

 さすがうちの子……。


 だとしても、普通じゃないでしょ。


「あ……ユーリ?もう平気だから」


「キュン?」


「そ、もう平気よ」


「キュン!」


 ユーリってば、大丈夫だとわかったらすぐどっか行ってしまった。

 部屋の中を駆け回って行く。


「……服……着るか……」


 私は服を取ってきて、着る。


「でもなぁ、さっきまで寝ちゃったみたいだし……」


 寝られるか心配である。


「ん?……げ!今真夜中!?」


 私がお風呂に入ったのは部屋に入ってすぐ。

 そして、お風呂に入ったのは、まだ空がオレンジ色だった時のことだったと記憶している。


「もしかして、数時間寝てた?」


 ユーリが引っ張ってこれたのは、数時間の時間をかけたからか……。


 納得がいきつつも、軽く絶望する。


「え?夜の間私はなにをしてればいいのよ?」


 お風呂が気持ち良すぎて寝てしまいましたと。

 そしたら、眠気が取れて目が冴えてしまったと……。


「………ユーリも起きてるみたいだし、私はどっかでかけてみるか……」


 ユーリは一旦置いていこう。

 きっと疲れただろうし、一応ここって敵国になるかもしれない国の帝城……王国でいう王城だからなぁ。


 ユーリが出歩くのと、私が出歩くのでは危険度に差があるってわけだ。


 ただのキツネにはここの探索は荷が重い。



「私がついてきた理由……帝国の偵察、スパイ……」


 しょうがないか。

 ここまできてスパイ活動してきませんでしたとか言ったら、国王に怒られそうだし。


(お風呂に入ったから、あんま男装はしたくない……)


 あれ、髪の毛がべっチャベチャになるから嫌なのだ……。


「というわけで、ベアトリス(女)の復活よ!」


 私は意気揚々と外に出るのだった。



 ♦︎♢♦︎♢♦︎↓フォーマ視点↓



 どうも、フォーマです。


 することがありません。


 ベアトリスという話し相手と、ユーリという喧嘩相手がいなくなったので。

 二人がいなくなって一ヶ月。


 辛い日々の繰り返し。


 つまらないので、ずっと部屋の隅で体育座りをしています。

 狂信嬢と謳われていた頃は、傀儡を馬鹿にすることが生きがいでした。


 他の幹部たちは狂ってるので、からかうとなにしてくるかわからないので、それが唯一の楽しみでした。


 ここでの生活に不満はそんなにありません。


 話し相手がいないことは置いといて、食料は勝手に盗んでいます。

 人間はお腹が空くのです。


 そのくらいはしょうがないのです。

 たまに掃除にくるメイドにも注意が必要です。


 ミサリーという名前のメイドなんですが、狂ったように『お嬢様お嬢様』と呟いていて怖いです。


 曰く、学院に行っている間、会えない日々が続いたのに、今度は遠征へ出向かれるなんて……、お嬢様が成分が不足する、らしいです。


 なんでベアトリスの周りにも狂っている人がいるのでしょうか……。

 狂信嬢として、私も狂っているとよく言われますが、私は比較的一般人です。


 ぶつぶつと独り言を言いながら、掃除機をかけているメイドよりも……。

 ベアトリスもなかなかに狂ってはいますが……。


 ベアトリスは普通に強いです。

 だから、発想の仕方が頭悪い時もあります。


 力任せな作戦を企てているようで……。


 その作戦を知ったのは、本人から教えてもらったわけではありません。


 見てしまったのです。


 絶対に開けないで、と言われたわけではないですが、メイドが一段だけ開けようとしなかった三段目の引き出し。


 そこを私が開けてみれば、約百枚近くの紙が出てきました。


 家出するらしいです。


 百枚に書かれた内容をまとめるとそういうことです。

 それだけ、内容が薄いのです。


 本人には申し訳ないですが、こんなに書く必要ないと思います。


 それよりも、むしろその後のことを考えたほうがいいと思います。


 一人旅をするって、資金はどうするのか?


 どこへ旅するのか?


 追手がきたらどうするのか?


 旅の目的は何か?


 何歳まで旅をするのか?


 そもそもどのタイミングで家出をするのか?


 家出したとして、それはどんな意味があるのか?


 考えればたくさん浮かんできます。

 資金は家から借りパクするとして、どこに向けて旅をするのかとかよくわかりません。


 家出して、結局なにがしたいのでしょうか?


 私には到底理解できません。


 おっと、メイドがまた掃除に来たようです。

 今日のところは大人しく隠れることにしましょうか。


 では、また。

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