第100話 見つけた……

「もう、ほんとどこ行ったのよ……」


 体力が徐々に回復していき、魔力も元に戻ってきた。

 だから、魔法を使って、調べてみた。


 探知してみた結果、近くにはいないそうで……。


「マジでどこ!?」


 ちなみに、気持ち悪くなりかけるのを我慢しながら、転移しまくって探した。


 一応道中を探してみた。


 帝国内に入ってすぐの最初の街からその先約一ヶ月分全部転移で探った。


「いない……」


 唯一印象に残ったのは、なぜか最初に訪れた街が観光地化していたことだけ。

 小動物が大量にいたからもしかしたらと期待したら、全然違った。


「どこにいるのよ!」


 そう思っていた。


 ら、すぐに見つかりました。


「キュン!」


「!?」


 帝都の入り口部分、検問所まで戻ってきたら、どこからともなく私に飛びついてくる。


「ユーリ!?」


「キュン!」


 抱きついてきたユーリの頭を撫でてあげた。


「おーよしよし!もう!心配したんだからね!」


 そう言ってずっと頭を撫でていた時、


「おーい!ベアトリス!」


「ん?って、トーヤじゃん」


「やっぱり、探してたんだな」


 そう言って駆け寄ってくる。

 非常に目立つのでやめてほしい。


 なぜならここは帝国内。

 帝国内において、勇者というのは自国が召喚した英雄なのだ。


 そんな英雄と親しくしている子供とキツネってめちゃめちゃ目立つんだよね。


「探してたって、何を?」


「ユーリちゃんに決まってんだろ」


「うぇ!?どこにいたんだ!?」


「森の中。しかも一匹で歩きまわってたよ」


「そ、そんなところに!?」


 ユーリの顔を眺める。

 うるうるとした瞳が見えた。


 ただし、なんとなく嘘っぱちに見えたので問いただしてみる。


「ねえ、ユーリ?本当のことを話しなさい?」


「キュン!?」


「ベアトリス……話せるわけないと思うんだけど。キツネだぞ?」


「正直なところ何があったの?」


「キュン……」


 なんだその、『いや、べ、別にー?』みたいな表情。

 意味わからん。


 真面目に人間味が増してきたな、このキツネ。


「まあいいよ。こうして生きてたんだからね」


「キュン!」


「よしよし、よかったよかった」


 肩の上に乗せる。

 そしてトーヤと向き直る。


「で、何か成果があったわけ?」


「成果があったかと聞かれると答えようがないよね。それと、ベアトリスもアレ感じたか?物凄い魔力の波がこっちまで伝わってるはずだけど……」


「何それ?」


「はぁ?」


 ユーリを探すのに夢中で何一つとして気づかんかった。

 もしかしたら、遠くまで転移していたから感じなかったのかも、って今はそれはいいのだ。


「魔力の波って、あんた何やらかしたんだよ」


「俺は何もしてないよ!だけど、魔力の中心に……」


 指を指す。


「ユーリがいたのは確かだよね」


「は?」


「キュン?」


 もう、何がどうなのかわからない。


「その話はまた後ほど……。ってなわけで、宿はどこ?」


「は?おま!宿知らないで、一人残ったのかよ!」


「しょうがないだろ!だって、馬車の中じゃほとんど寝てたんだから」


「あれ寝言だったのかよ……『わかったわかった』って!」


「え!?そんなこと言ってた!?」


 ちょっと掘り下げると、私の怠慢とか言われそうなのでやめておこう……。


「とりあえず、連れてって頂戴な」


「全く……じゃ、いったんついて来てな」


 私は勇者の誘導の元、泊まる部屋まで向かうのだった。



 ♦︎♢♦︎♢♦︎



「待って待って……予想外なんだが!?」


 用意された部屋は金ピカだった。

 白と金で誇張されたその部屋は、まさしく貴族……王族が住むような場所だった。


「なんで、帝城なんかに通されたんだよ……」


 さて!


 今どこにいるのかといえば、帝城の来賓者用の部屋である!


 つまり、私が貸してもらった部屋というわけだ。

 ひどい話だ。


 私がホイホイと勇者について行ったばっかりに、こんなところにやってきてしまった。


「あーなんかめんどくさくなりそうだなー」


 私は考えるのをやめて、ベットにつくのだった。


「も、マジだるいわー」


 ユーリを離して、自由に遊ばせておく。


「とりあえず、何をするべきか……」


 することがなくなってしまった。

 今日一日はずっとユーリを探しまくっていたため、ほとんど無駄にしてしまった。


 いや、無駄ではなかったんだろうけどさ。

 結局はユーリの方からやってきてもらっちゃって、保護者として不甲斐ない。


 こういう時は、


「お風呂入って忘れよう!」


 というわけで、部屋に付属してるお風呂に入ることにしました。

 ちょうど、男装して疲れてた頃なのだ!


 髪も帽子に入れっぱなしで蒸れて蒸れてしょうがなかった。

 これで、解放されるぞ!


 服を脱ぐ。

 服は、適当に投げ入れちゃおっと……。


 脱衣所にあるカゴに入れて、お風呂へダイブ!

 の前に、シャワーを浴びる。


 シャワーと呼ばれる魔道具!

 これすげー!


 蛇口?をひねると水が出てくるんだ!


「これ画期的だな〜!」


 うちにも欲しい!


 構造はそんなに複雑なものじゃないみたいだ。


 蛇口をひねると、魔力が流れて、中に埋め込まれてる魔石が反応する。

 それだけ……。


「すっごいなー」


 シャワーは辺りに撒き散らす。


「うわー!こんなこともできるのか!」


 虹が生まれる。

 綺麗にうっすら輝いている七色の道が見える。


 白い壁だからこそはっきり見えるのだ。


「おお!すんごい!」


 面白いほどに虹がたくさんできる。


「あはは!これ楽しい!」


 そうくるくると回っていると、


「あ」


「キュン!?」


 いつの間にか、少しだけ開いていた扉から何かに水をかけてしまった。


「ユーリ?」


「キュ!?」


「何覗いてんの?」


 思春期の男子かよ!


 でも、


 扉を前足二つでプルプルと震えながら掴む様子、めっちゃかわ!

 おまけに涙目ですか?


 そんなの許すに決まってるじゃないっすか!


 みんな考えてもご覧なさい。


 思春期男子のようにお風呂覗きにきて、四十センチくらいの高さにまで背伸びして、前足で扉をつかんでいる様子をさ。


 可愛いかよ!


「ほら、ユーリも」


「キュン!?」


 震えてたんで、とりあえず引っ張る。


「今日は真冬だしなー。そりゃ寒いわ」


 森の中にいたらしいから、そりゃ風邪でも引いたんだろう。


「私とお風呂入ったことなかったなー。そういえば」


 体を洗ってあげたことはある。

 だけど、私が一緒にこうして入ることは少ない、というかない。


「キュン……」


 たまにはこういうのもあり……かな?

 いやぁ、家族と風呂入るのっていつまで経っても幸せなもんだな。


 いなくなった時はマジでびびったけど、見つかったしよかったわ……。

 どっちかというと、ユーリに見つけてもらっただけだけどね、私が。


 そんなことがありながらも、のんびりお風呂タイム……!


 前世ではそんなことしなかった分、今世は存分に楽しもう。

 こういう時間を……。


 私はゆっくりと目を閉じるのだった。

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