第98話 操り人形(×××視点)

「えっと、つまりどういうこと?」


 狂信嬢の部下である魔人の娘、“激熱の魔人“と組織で称される人物の一人。

 熱量を操る魔人の娘と思えばいいだろう。


「あの、とんでもない光が放たれたと思ったら、消えてしまったんです!」


「ふ〜ん、死んだんだ」


「淡白だねぇ〜。少しは悲しみなよ」


 相変わらず、興味ないことには反応をあまり示さない少女。


「あの、狂信嬢様は……本当に死んだと思われますか?」


「自分で言ったんでしょ?」


「おいおい、少しは考えてやれよな。俺としては、二人ともいなくなったんならまだわからないと思うよ。その場には誰がいたんだい?」


「えと、まず、狂信嬢様はいらっしゃらなかったです。それと……」


「それと?」


「フードをかぶった人物は目撃しました。ちょうど……戦っていた少女と同じくらいの身長の……」


「ふん!確定ね!」


 少女はいう。


「死んだんでしょ?決まりじゃない、そんなの」


「そ、そんな!そんな……」


「さすが私のベアトリス!」


「もう、黙れよお前は……魔人が泣いちまったじゃん」


 こいつには人の心がなさすぎる。

 だからこんな組織に協力してるんだろうけど……。


「とりあえず、狂信嬢は負けたってこと?でも死んだかもしれないってだけだからさ。激熱は一旦下がってもらえる」


「はい……」


 ドアを閉め、魔人を部屋から出す。


「狂信嬢死んだのか……」


「あの女が攻撃喰らうとは信じられないけどね」


「攻撃を当てる方法はあるんだけどな」


 回避不能の絶対の攻撃。

 とんでもない光というのだからきっと光魔法なのだろう。


「ベアトリスのことだから、“魂滅の光“とか使ってそうだなぁ」


「そんなの使おうと思うのは、君ぐらいだよ……」


 それだったら、死体も残るはずだ。


「何かしらの方法だろうけど、とりあえず狂信嬢は行方不明ということで」


「そうだね、この件はそれだ片付けよう。後任はこちらで決めようか」


「ああ、それなら、私に考えがあるわ。一人だけ適任なのがいるわ」


「俺の知ってる人?」


「めっちゃ知ってる人。そのうち来ると思うから」


 じゃあ、それはいいとして、俺は新たな任務について話す。


「次のミッションなんだけど、今回は結構な難題だよ」


「そうなの?次は私も出れそう?出撃許可は出るの?」


「出ないに決まってるだろ?お前が出ると世界が終わりそうだし」


「そ」


 一瞬にして興味をなくす。


 まじでこいつ協力者なのか?


「おっほん!で、任務の内容は人物の捜索だよ」


「そんなの簡単じゃない。探知魔法を使えば一発よ」


「それがそう簡単じゃないんだよな」


 今回の人探しは、組織の計画において、最重要なものとなる。


「メアリが生きてる」


「は?」


「その捜索だよ」


「ちょちょちょ!ちょっと待ってよ!そんなわけないでしょ!メアリは死んだんだから!」


「それが生きてるんだよ」


 確認できたのは、狂信嬢が行方不明になったとき、つまり今日である。


「十二人の狂信嬢の部下。そのうちの一人が目撃したっぽいんだ」


「なんであんたが知ってんのよ」


「俺が操ってたからさ。まあ、無事にベアトリスにボコされたんだけどね。俺の意識が介入してない隙に勝手に逃げ出してたっぽいんだよね」


「それで、見つけたと……」


 森の中に逃げ込んだ一人が見つけ、俺が記憶を読み取った。

 その結果、俺の記憶に残るメアリという女性と一致したというわけだ。


「メアリがねぇ……災害認定と唯一人の身で倒す化け物。生身で落下させても生きたってこと?」


「血を流して動かなくなったところまでは確認したんだけどね。どうやら生きてたっぽいよ」


 人類最強の聖騎士。

 それがメアリ。


 かつての彼女は、竜を同時に相手どり、その全てを滅ぼしてみせるほどの実力者。


 そして、吸血鬼一族を北の地まで追いやったのも彼女だ。

 人々が吸血鬼に恐怖する日々。


 それを終わらせるために立ち上がった彼女は、聖なる法力で吸血鬼を洗い出した。


 そして、北の地まで追いやり、幻術をかけた。

 人々が完全に吸血鬼を忘れて生きていけるようにと……。


「魔王軍側であり、魔王の直属配下の吸血鬼まで滅ぼした彼女の実力はNo.2。当時最強の勇者とほぼ互角の実力者。だから妊娠時を狙ったんだけどね」


「気味が悪いわね。メアリの子供も化け物だなんて……それに、ベアトリスの上の兄弟たちもそれぞれ才能あるんでしょ?」


 一番目の兄は、どうやら監視の目を掻い潜っているようで発見できていない。

 二番目の兄は、知識に長けている。

 三番目の兄は、剣術に長けている。


 それぞれが、メアリの才能を受け継ぎ、開花させつつある。


「我々の目を掻い潜るほどの長男。知識には並ぶものがいない次男。剣術大会で優勝経験もある三男。ほんと恐ろしい家系だね……」


「あの家は早く始末した方がいいわね。ただ、メアリの始末はあなたに任せるわ」


「どうしてだい?君ならしたいとか言い出すかと思ったのに……」


「私が負けたって言いたいの?っは!あれはズルされただけよ。妨害魔術結界……メアリほどの実力だと、あれってもはや無効化だよね。あれを使われたら私の強みがなくなるじゃん」


「まあいいけど……大賢者はどうしてる?」


「私の分身を発見したみたいね。魔族領の……。滅ぼされたわ」


 もちろん少女が弱いわけじゃない。

 相手が人類屈指の脅威だったというだけである。


 今を生きる英雄級の人物は数人いる。


 大賢者、大聖女、剣聖、勇者、聖騎士メアリ、そしてベアトリス。


 残念ながら、先代勇者メンバーは一名死亡した。

 病死だった。


 裏社会メンバーは俺たち幹部と、ボス、そしてこの少女とその姉たち。


「ま、やるだけやってみようか」


 それが全てだった。

 結局はこの戦いは人類同士の争い。


 実力はお互い拮抗してる。

 全てはどちらが先手を取れるかにかかっている。


「面白くなってきたじゃない。私はベアトリスの監視と、大賢者の捜索。傀儡、あんたはメアリの殺害が任務ってわけね」


「そういう認識でいてくれたら嬉しいよ。それと後任の話に戻るんだけど……」


 狂信嬢が行方不明になって、あいた幹部の席そこに誰を入れるかという問題があった。


 正直、自分ほどの実力者はあまりいないので、実力に関しては期待していない。

 情報取集できればそれでいい。


「あ、きたみたいね」


 ドアがトントンとノックされる。


 そこから現れたのは、


「失礼します」


。こっちにきなさい」


 聖女候補であり、傀儡こと俺が人形に変えたオリビアがそこに立っていた。


「ちょっと!俺の人形なんだけど?」


「いいのよ、もうこの子は私の物になったの」


「はぁ?」


「前わね、かなり抵抗されたのよ。慣らしに、体を乗っ取ったら、廊下のあたりで水魔法をぶっかけられたわ。でもね、彼女の思考はもう、“止めた“もの」


 嫌がらせ事件の一部の犯人はこの少女であり、オリビアでもある。

 文字を書く練習をしようと、少女が体を操作し、机に書こうとする。


 オリビアは抵抗し、聖女候補の仲間に言われた陰口の記憶が漏れ出てしまった結果があの落書きである。


 水をどこからともなくかけられたのは、抵抗した結果。

 ベアトリスが、錬金術でオリビアの顔が浮かんだのはそういう理由である。


 ベアトリスとともに、魔物に立ち向かった時のあの翼も、抵抗した結果、少女の本性が漏れ出たものだった。


 オリビアの抵抗は虚しく、何一つとしてうまくいかなかったが……。

 一連の嫌がらせは全て……


 本人が全てやったことだから。


「君の魔力の性質はなんとも恐ろしいね……」


「何よ、意のままに操るようなあなたに言われたくないわね」


「そういうことにしといてやるよ」


「聖女候補としてオリビアは顔が広い。情報もたくさん舞い込む。肉体能力、魔法的能力にも優れている。思考も止めてある。これなら問題ないでしょ?」


「ああ、完璧だね。オリビアは大聖女の捜索だ。勇者の動向の調査もよろしく」


「かしこまりました。傀儡様」


 表情のないオリビアはお辞儀をする。

 抜け落ちた表情はどことなく怒りに満ちていた。


(深層心理は怒り浸透ってか?)


 残念ながら、その心が表に出ることはない。

 オリビアの命運はここで尽きたのだから……。

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