第94話 再び始まる非日常

 八歳の誕生日を迎え、私は成長した。


 体も心もすっかり大人な気分だ。

 身長は……130くらいだけど……。


 低いと思った奴は、紐なしで崖から飛んでもらう……!


 と、体はいいとして、心が一番成長した気がする!


 いやぁ、今世は色々あったなぁ!

 前世とは比べものにならないほどの経験をした。


 少なくとも、一般人が経験するようなものではない。

 ひどい思い出もあれば、新たな出会いもあった。


 前世ではレイと会わずに過ごしたし、オリビアさんと関わったことはなかったし、ターニャとも出会わなかった。


 なので、ある意味では素晴らしい日々を暮らしている。

 誘拐されたり、暗殺されかけたり、勇者にちょっかいかけられたり、強襲かけられたりすることを除いて……。


 私、死にかけること多くない?


 死にかけると言っても、軽傷を負っただけだけどね。

 それでも、前世では箱入りとして育てられていたので、怪我することがまずなかった。


 いい経験と捉えて……いいのかな?


 そんなこんなで、私は後悔していることがある。


「ん、おかえりベアトリス」


「あ、うん……。っていうか、フォーマ!いつまで私の家にいるつもり!?」


 そう


 七歳になったある時、白装束が特徴的なフォーマが住み始めてしまったのだ。

 確かに私の部屋は自由に使っていいよとはいったよ?


 だけど、こんな長い期間住み着くなんて考えてなかったんだよ!


 というわけで、我が家に新たにフォーマという地縛霊(生きてる)が住み着くようになったとさ。


 そのお陰もあったか、ユーリと時々喧嘩してるのが目に入る。


「ユーリ、いつもベアトリスにベタベタ」


「キュン!?」


「性別知らないけど、ダサい」


「キュ……キュン!」


「やる?殺るの?私は歓迎」


「ちょっとちょっと!そこ喧嘩しない!」


 こんな風に……。


 もうやることが多すぎる!

 逆に言えば、退屈することが全くないということでもあるが……。


(あぁ、早く家を出て行きたいのに……)


 私の計画にはフォーマや、ユーリの存在は全く考えてなかった。

 だからか、計画の修正が余儀なくされた。


 というわけで、計画実行が遅れているわけである。


 なので、ゆっくりと考えることにしよう。

 この二人は連れて行くかどうかとか。


(ま、こんな感じでまったり過ごしていたいなぁ)



 ♦︎♢♦︎♢♦︎



 と、思っていた時期が私にもありました。


「ベアトリスには、東への勇者の遠征について行って欲しいのだ」


 そう父様が告げる。


 概要を説明すると、


 勇者の各地へ巡る旅。

 その旅では当たり前だが、危険なこともある。


 今回の東に向かう遠征では、召喚された勇者が暮らしていた本国、帝国のついてのことだった。


 帝国付近の森の中にかつての大洞窟が存在し、そこに金銀財宝が眠っているという噂がある。


 その噂の真偽を確かめるために、西へ遠征中だった勇者一行……つまり、我が王国の方まで足を運んでいた勇者が呼び戻されることになったのだ。


 私がその中に混ざる目的は、帝国から情報を収集すること。

 簡単に言えば、戦争準備をしているかどうか、魔王についての情報を手にしたのかどうか。


 そして、勇者を利用しているのかどうか……。


 つまり、堂々とスパイ活動である!


 これらを調査するために選ばれたのが、


「私……なんで、私なんですか!?父様!」


 私こと、ベアトリスなのでした☆


「うむ、私も反対はしたんだがな。勇者一行の仲間としてついて行くのであれば、帝国本土に入ることもあり得るだろう?皇帝との面会もあり得るかもしれない。そんな時に、実力が勇者一行と不釣り合いだったり不自然だろう?」


「確かにそうですけど……」


「それに比べれば、勇者と大差ない実力を保持しているベアは、疑われることもないだろうし、子供だからとスパイの可能性も疑われまい」


 なんという、非道な!

 父様は前世とだいぶ性格が変わったな。


 私への扱いが特に……。


「でも、もし顔が割れていたらどうするんです!?私のことを知っていて、王国貴族の娘だとわかれば、早々に遠征同行の意味がなくなりますよ!」


「そこは安心してくれ」


「な……どういうことですか?」


「ベア……遠征をするときは変装をしてくれないか?」


「へ?」


 変装する……だと?


 ターニャと無理やり着替えさせられた記憶が蘇る。


「そうだ、変装すれば気づかれることはないだろう?それに、いざとなったら魔法を使えばいいのだよ。リュース辺境伯も絶賛するほどだったのだ。どうにかなるだろう、ベアのことだからな」


 なんだ?

 私だから、きっとこいつどうにかするだろうって思ってんのか?


 私は小説の主人公じゃねえよ!

 小説のように、なんかやったらうまくいったみたいなことはないんだよ!


 全部努力の賜物に過ぎないんだよ!


「国王陛下はすでに命令を下している」


「はい?」


「この話も国王……我が兄がしだしたことでな。ほぼ全て決定事項なのだ」


「はい!?」


「すまぬな。兄には逆らえんのだ」


 そりゃ、家族といえど、反対すれば反逆罪とかで周りから非難されるだろうけど。


 ってか、捕まって処刑されるかもしんないけど……。


「そんなのってないよ……」


 というわけで、再び訪れた波乱万丈な生活の予感。

 私はいつになったら、公爵家をお暇し、自由気ままな一人旅ができるのだろうか。


 先はまだまだ長そうである……。

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