第80話 勧誘を受ける
学校が始まって何回かの休日がやってきた。
正直に言ってしまうと、別にやりたいことなど存在しないため、暇である。
何をしようにも、やる気が出ないのだ。
だからずっと部屋にこもっていようかとも思ったが、オリビアさんの一件もあるし、動かないと体が鈍ると思い、学校の本校で散歩をすることにした。
結局事件があれ以降起こっていないため、そんなに心配するべきものでもなくなってきているはずだ。
オリビアさんのことが好きな男の子がいたずらで……とかだったらいいんだけどねぇ?
まあそんな簡単な話ではないのである。
だが、今は休日。
そんなことは気にせず、私は散歩を続けるのだった。
曲がり角を曲がろうとした次の瞬間、
「ベアトリスさん、ですよね?」
肩に手を置かれ、私の動きを停止させてくる。
「なんですか?」
冷静に言葉を返し、振り返った先には、
「少しお話ししたいことがありまして」
どこか見覚えのあるような男子がいた。
(あー、どっかで見たことあるかも……)
それがどこかは忘れてしまったが……。
「自己紹介が遅れましたね」
私の戸惑いに気づいたのか、一歩離れてお辞儀をしてくる。
「ロイ・フォン・アステルナと申します」
「え?」
アステルナは、レイと同じ家名である
もしかしなくても……。
「あの……!」
「なんですか?」
「レイ……レイナのお兄ちゃんですか?」
「レイナ?レイナは、うちの家族ですけど……」
「やっぱり!」
いやぁ、こんなところで会うとは奇遇ですねぇ!
ちょうどいいので、この機にご挨拶させていただこう。
「ベアトリス・フォン・アナトレスと申します!レイの友達をやらせてもらってます!」
「レイナの友達?あいつはずっと家に引きこもってるんじゃ……」
「いいえ?もう病気は治ってしまったので、今では元気いっぱいですよ!」
「なんだと?」
治ったというか、進行を止めたというか……。
結果的に元気になっているのだから、よしとしよう。
「そういうことか……」
「はい!この学院でも楽しくやってるみたいですよ?」
「その病気を治したのは君なのか?」
「へ?まあ、ある意味では私が治したとも言えなくはないですが……」
「なら、なおさらいい」
改めて一歩近付かれ、
「是非とも生徒会に入ってほしい」
そう言われた。
♦︎♢♦︎♢♦︎
「それで、なんで私が生徒会に入らなければいけないのですか?」
呼び止められた私は、そのまま生徒会へと連行されていった。
どういうわけか、私が生徒会に入れということになっている。
「理由は明らかでしょ?」
「いや、分からないのですけど?」
「そこからの説明か……」
スンません!
ほんとにわからんのです!
だから説明してください!
「まず、大前提として、生徒会メンバーがお前に敗れた」
「そうだったんですか?」
「人ごとじゃないからな?言っておくけど」
そう言えば、体育の時間でそんなことがあったようななかったような……。
「で、そこに噂の真偽が露わになる」
「噂ってなんですか?」
「勇者に引き分けたという噂だ。まあ、それが真実だということが判明したんだよ」
勇者……。
何を暴露しまくってるんだ……。
こちとら、お前のせいで迷惑被ってるんだぞ?
慰謝料を請求したいくらいだよ、全く。
「なんで真偽が判明したんですか?」
「我々は貴族の子供。上層部とつながりがあっても何も不思議ではない」
つまりは、勇者と会う機会があってもおかしくはないということだ。
その時にでも、噂の真実を確かめたのだろう。
誰の親かはこの際聞かない。
「それで、噂が本当だったとわかった。だが、何か不正をしたかもしれない。まだ信用するには情報が足りないだろ?」
「まあ、そうですね」
証拠不十分で、その話には真実味がない。
「そこで、うちの生徒会メンバーが目撃した情報と照らし合わせたんだ」
「どんな情報ですか?」
「目にも留まらぬ速さで戦っていた、と」
「ああ、レイとの試合ですか」
「妹との試合?」
あ、そう言えば、この人はレイの兄貴なんだった。
「ただ、素早く動いただけですからご安心を」
「それでも安心できやしないのだがな」
そりゃそうだ。
目に見えない速度で動ける公爵家令嬢なんて恐怖以外の何ものでもないだろう。
それはなんとなく自分でもわかった。
「そして、最後に“神童“という二つ名だ」
「それは……」
「二つ名を持つなんて普通はあり得ない。だが、直々に神童と王家の方から呼ばれているのであれば、それは真実となる」
すみません、めちゃめちゃ呼ばれてます。
「だが、そこについて聞く気はない」
「ありが——」
「どうせ、真実なのだろうからな」
そういうことかい!
てっきり、そんなことは気にしないから、って言ってんのかと思ったよ!
若干喜んじまったじゃねえか!
「そんなこんなで、素晴らしい人材であることはわかっている。だからこその勧誘だ」
「なるほどです」
「理解してもらって嬉しいよ」
理解はしてないけど、納得はしてない。
そこだけは間違わないように!
「それで、どうするのだ?」
「何がです?」
「我が生徒会に入るのか入らないのか」
いや、こんなの決めようがないでしょ。
ほぼ脅しだよ、こんなの……。
引き分けの件も、知らない人の方が多いだろうし、バラされたら困る。
そして、そんな私が選択した答えは、
「私は——」
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