第74話 逃がさないよ?

「次の時間は体育ですので、皆さんグラウンドに出るようにと、グルード先生がおっしゃってましたよ」


「「「はーい」」」


 元気がいいようで何より。


 私?


 最悪だよ。

 なんでいきなり注目を集めなくちゃいけないの?


 私は目立つことに関して慣れているのでいい。

 だけど、こんな形で初授業を望みたくなかった。


 その旨をレイに伝えたところ、


「寝ている方が悪いんですよー!w」


 間違いなく赤の他人だったら、冤罪かけてすりつぶしてたわ。

 友達であることに感謝するのだ!


 まあ、非情モードではないのでそんなことはしない。

 勝手に呼んでいるだけ、本来はなんていうんだろう?


 やる気スイッチ?


 殺る気スイッチ?


 それは、怖すぎるな。


「ベアちゃん、今度はねちゃダメだよ?」


「寝るわけないでしょ。次の時間は体育なんだから」


 逆にどうやれば寝れるのだ。

 それを問いたい。


 この初参加の授業の一件があったため、私はだらしないやつだという認識に変わってくれたら嬉しい。


 流石にいつまでも誰も話しかけにこないと、レイに申し訳ない……。

 せっかくの整った顔立ちをしているのに、私のせいで青春(七歳)を無駄にするのは惜しいだろう?


「女子は女子更衣室で着替えるんだって。早くいくよ!」


「わかったってば!」


 女子の一部はまだ部屋にいるようだ。

 ここ、男子が着替えますけど?


 若干顔が赤くなっている様子の女子生徒みなさま。(一部を除く)


 一般校と違って、しっかりと知識を持っている貴族家の娘どもよ。

 さっさと去るがいい!


 確かに異性の事が気になるのはわかるが、もう少し大人になってから考えろや、ボケなす!


 え?


 なんでそんなに怒っているのかって?


 非リア充なんで。

 逆にどうしたら、自由にのびのびしていられるかってんだ!


 公爵家だって貴族だ。

 堅苦しいしきたりとかあるに決まってるだろ!


 だから、私は家出をする。

 この堅苦しい貴族社会からおさらばするのだ!


 ニヤッと笑みを漏らす。


「ベアちゃん?顔がおかしいよ?」


「馬鹿にしてんの?」


「そうじゃない!」


 そして私は連行されていき、その後は普通に着替えをするのだった。



 ♦︎♢♦︎♢♦︎



「今日の授業だが、トーナメント形式で戦ってもらう」


「「「おお!」」」


 みんな嬉しそうだが、これ……結構荒れそうだけど大丈夫?


 私は見てきた。


 試合の結果によってライバルになったり、本機の喧嘩に発展したり、何かの因縁かなんかで、真剣勝負を始める馬鹿がいたりした。


 でも、それは中等部とかでの話なので、きっと初等部は和やかな雰囲気なはず——


「ぜってーぶっ飛ばす!」


「私の勝てると思ってんの?」


「今日こそは、あなたを倒してやるんだから!」


「無理だろw」


 荒れてんねぇー。

 早速ライバル同士と思しき者たちが睨み合いを始める始末。


 悲報 中等部よりも初等部の方が荒れてる。


 これは誤算だったなぁ。

 私は穏便に生き残ろうかと考えていたが、


「これは乗るしかないわね!」


 この波に乗って因縁を一つ晴らしてやる!


「レイ?」


「な、なんでしょうか?」


 引きつった笑顔が丸わかりだ。

 レイもきっとなにを言われるか理解しているのだろう。


「もちろん、私の相手はレイよね?私たち仲良しだもんねぇ?」


「あ、はは。たまにはベアトリス様もお友達を作っては、ど、どうでしょうか?」


「逃さないわよ?」


 しれっとUターンしようとするレイを片手で止める。


「ふっふっふ、せいぜい生き残って私に倒されるがいいわ!」


「もう、最悪だぁ」



 ♦︎♢♦︎♢♦︎



 一回戦、最初の試合はオリビアの試合だった。

 片方は男子生徒。


 名前は知らん。


 まあ、この程度だったら、オリビアなら余裕だろうよ。

 魔力の最大値を私はのぞきながらそんなことを考える。


 ちなみにルールだが、使っていいのは魔法と拳。

 場外、気絶、降参で勝負が決まる。


 至って単純だ。

 ただの筋肉馬鹿みたいなやつも一筋縄では生き残れない寸法だ。


 体と魔法、同時に鍛えなければ……!


 オリビアの一戦目。


 案の定、圧勝だった。


 聖女候補というだけあって、その技術は凄かった。

 人を癒す力を行使できるのであれば、それを反転させた、つまり傷つける術も持ち合わせているに違いないと思ってはいたが、予想は正しかった。


『再生リバース』


 って感じ?

『再生』を反転させた結果って感じ。


 思いっきり致死量の血がドバッと出たわけではなく、たくさんの擦り傷、切り傷をつけて、相手を混乱させたって感じ。


 魔法一つで、相手を倒すあたりは勇者と同類な匂いがする。

 あいつは剣を振っただけでなぎ倒せるって感じ?


 結局は同じ生き物ということだ。


「ナイスです!オリビアさん!」


「ありがとう、レイナちゃん」


 コミュ強やめろや!


 ハイタッチすんなし!

 まあ、二人とも輝いて見えるので、大変眼福なのは認めるとも!


 男子たちの視線釘付けだよ!


 試合を見ろ男子ども!


 その私の思いが伝わった……わけではないだろうけど、女子たちが一致団結して、二人の周りを囲んでいく。


「全く、男子ってばこれだから……」


 そう呟くのは学級委員っぽそうなメガネ女子。


「いろいろと苦労しそうね」


「ベアトリスさんも大変そうね」


 独り言のつもりで呟いた声はメガネ女子にも聞こえてたらしく、二人でため息をつく。


「って、なんで私に話しかけたの?美少女二人が横にいるのにさ」


「確かに目は怖いけど……最初の授業で面白いことしてたでしょ?それでみんな怖い人じゃないってことは伝わってるから」


「な、なんていい人……!」


 ちなみに、メガネ女子は着替える時、速攻で更衣室に向かったいい子ちゃんである!

 この時点で好感は持てる。


「私のことはルーネア……ルーネって呼んで」


「じゃあ、私のことはベアって呼んで」


「うふふ、いいわ」


 謎の友情が芽生えた瞬間だった。

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