第53話 探検する

「どちら様ですか?」


「しがない、老婆だよ」


 路地の中に入ってみれば、変なおばさんがいた。

 おばあちゃんの方があってんのかな?


 どっちでもいいけど、今はそんな場合じゃない。


「何もないなら、戻らせてもらいますね」


 アレンを現在待たせているのだ。

 流石に、路地裏は今ではいい思い出となった『誘拐事件』が思い出されるから入りたくないのはよくわかる。


 私は気にしないけどね!


「まあ、待てれ。いいことを教えてやろう」


「いいことですか?」


「ふっふっふ、お主らは鍛冶屋を探しておるじゃろ?」


「………なんでそれを?」


「神は全てをみているのじゃよ」


 このおばあちゃん一体何者だよ?

 正直いって気持ち悪いほどにあたってるんだが?


「それのどこがいい話とつながるんですか?」


「いい鍛冶屋の場所を教えてやろう」


「え?」


「その代わりに一つ頼みがあってな」


「………なんですか?」


 こういう場合って大抵いいことじゃないので、一応警戒しておく。


「そう警戒するでない。新たな勇者が誕生したそうじゃな?名前はなんというのだ?」


「なんですかその質問は?」


「老体の身、なかなか聞く機会がなくてな。教えてくれぬか?」


「まあ、いいですけど。トーヤ・アキジマだった気がしますね」


「トーヤ……違ったか……」


「何がです?」


「気にせんでええ。それよりも、鍛冶屋の場所だったな」


「あ、はい」


「この公爵領の端の端。森の中に一軒鍛冶屋があった。そこの鍛治師の腕は一流だった」


「確かなんですか?」


 おばあちゃんだからなぁ?

 本当の話か心配だよ。


「ああ、確かじゃ」


「本当に大丈夫なんですかね?」


「ふぁっふぁ!老獪の記憶力をなめるでないぞ!」


「わかりましたよ!じゃ、失礼しました」


 なんだったんだ?

 あの人?


 まあ、いいや。

 いいこと教えてもらっちゃった!


「どうだったんだ?」


「う〜ん、鍛冶屋のある場所教えてもらっちゃった!」


「本当にそれだけだったのか?」


「何にもされてないよ〜」


「いや、その喋ってた人は生きてんのか?」


「私のことなんだと思ってんの?」


「人外」


「失礼な!」


 全く、最近は失礼な子供が多いな!


「ほら、そんなのはいいから早く行くよ!」


「わーったよ」



 ♦︎♢♦︎♢♦︎



「ようし!この辺りでいいかな?」


「うぇ………吐きそう」


「ちょっとちょっと大丈夫?」


「走るの早いんだって………うっ!」


 ああ〜と、とりあえずアレンは放置で。


「多分この辺りじゃない?」


 森って周囲を囲むようにあるから、その鍛冶屋とやらがどこにあるかわからない。


 もっと詳しく聴いてくればよかったな。

 正直にあのおばさんみたいなのちょっと怖いから、できれば早く離れたかった。


 その感情が少なからず、出ちゃったのかな?


「で、なんでこっち方面に来たんだよ……う」


「え?普通に魔物が少ないからだよ?」


「どういうこと?」


「魔物があんまりいないってことは、定期的に誰かが討伐している可能性があるでしょ?魔物の討伐の報告例はここ最近聞いてないし、冒険者は魔物が少ないこんなところに来るわけないからね。誰かいるとしたらここだろうと思ってさ」


「頭いいのか悪いのかわからないな」


 否定できないのが悔しい……。


 それはそうとして、やってきたはいいものの、こっからどうやって探そうか。


 生命反応を検知しようものなら、魔物の生体反応も拾ってしまうため、結局意味ないんだ。


 だったら、地道に探した方が早いかな?


「立てる?」


「ああ、もう平気」


 アレンの吐き気も治ったみたいだし、ぼちぼち探索しますかねぇ〜。


「ん?なんか音がしない?」


「アレン、何か感じるの?」


「音の流れが、こっちに伝わってきてる」


「それ、どっちから!?」


「え?向こうのほうだけど?」


 指差した方向に意識を向ける。


(そうだ!忘れてた!アレンは魔力を感じ取れるんだった!だったら、それを辿っていけば、もしかしたらたどり着けるかも!)


 鍛治スキルだって、魔力……体力を消費するのだ。

 鍛冶師には鍛冶師専用のスキルがあり、そのスキルを使用するには魔力を消費する。


 それは、他の職業でも言えたことだ。

 だけど、これだけじゃ決定打が足りない気もするが、今はそんなの気にしている暇はなさそうだ。


「誰か、戦ってる」


「え?」


「人かはちょっとわからないけど、何かが戦闘を行なっているみたいだよ。魔力の波が結構乱れてる」


「じゃあ、行く場所はとりあえず決まったんだな」


「行ってみよう!」


 再び、走り出す。

 アレンも存外子供ではないよね。


 改めて思うが、鍛えている私よりかは劣るものの、十分に早いのだ、足が。

 私のことを人外とかいっているけど、アレンも大概だよねって話。


 そんなことを考えているうちに目的地に到着する。


「あ!」


「あれなんの魔物か知ってる?」


「それ、私に聞く?まあ、知ってるけど。サンドワームっていうんだけどさ。おかしいんだよね」


「何がおかしいんだ?」


「サンドワームって名前の通り、砂漠にしかいないんだよね。なんでこんなところにいるんだろう?」


 まあ、今となってはそれはいいんだよ。


「あの戦ってる人なんなの?」


「俺に聞くなよ」


 戦ってるのは、人だった。

 正確に言えば、ドワーフだった。


 鍛冶師の代名詞とも言えるような亜人種、ドワーフ。


 戦闘職の人が生まれにくい種族として不遇をされているが、実際街に数人はいて欲しい人材。


 っていうか、我が領地にもっとこいや!


 と思うほど、私的には思ってる。

 もしかして、この人が鍛冶屋さんの人か!?


「これって加勢した方がいいのかな?」


「俺ら必要そう?」


「もう一体現れたら、必要に——」


 瞬間、目の前の大地の一部が崩れる。


 小さい体格のドワーフさんは後ろの飛び退く。

 サンドワームとの間から出てきたのは、またサンドワームだった。


「これは……」


「ぼちぼち加勢しますかね!」


 私たち二人は目の前のサンドワームに向かって飛び込んでいく。


 アレンって戦えるの?


 と思ったのは内緒である。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る