第52話 武器に頼ろう

「今年も暑いわね……」


 年月はすぐに経つもんですなぁ。

 去年に起きた、『王城お泊まり会事件』から約一年が経過しました。


 また忌々しい夏がやってきた!


 夏は本当嫌い。

 梅雨なんて特にそうだ。


 髪の毛がもうほんっとウネウネするし、いくらセットしてもグチャるんだ。

 男子にはわからんだろ。


 女子はなぁ、雨の日に外に出ようなんておもわねぇんだよ!

 いつでもフローラルな香り撒き散らして、優雅に歩いてるわけねぇんだよ、夢見過ぎだ!


 まあ、梅雨はもう終わったんだけどね。

 でも普通に暑いのなんの。


 気温を私独自で測定したんだけど、四十度近くだよ?

 体温が三十五度後半の私にとって、地獄のような環境だよ?


 なのになんで、男子ときたら……。

 外で遊ぶのはそんなに楽しいもんか?


 家に篭れよ。

 私なんて絶賛引きこもり中だし。


 え?


 元から家に篭ってるだろって?


 黙れよ。


 まあ、そんなのはいいんだ。

 今大事なのは、七歳になったことにより、そろそろ去年聞かされたことが実現化してしまいそうだということだ。


 なんの話かと言えば、勇者の件である。

 もう、秋嶋とかいう馬鹿勇者は私のことを指名してくださりやがったらしい。


 正確には一番若いから弱いだろうとのこと。

 なんだよ、わたしゃ弱いんだよ!


 ちょっと魔法が使えて、剣とかの扱いにも慣れていて、普段から鍛えているだけの淑女だよ!


 そんな私が、世界に通用するとでも?

 馬鹿馬鹿しい。


 んなわけない。

 だから、私は速攻で勇者に敗北必須なんだけど……。


「負けるのは癪に触るんよな」


 は?


 なんで私が負けないといけないわけ?

 なめてんの?


 極度の負けず嫌いの私。

 その私がすんなり敗北を認めるとでも?


 そんなの嫌すぎる。

 それにね、公爵家の名に泥を塗るわけにもいかんのよ。


 だからね、私にとって負けられるような戦いじゃないわけよ。

 勇者と戦うことになったけど、日程がまだ決まっていないのが不幸中の幸いだ。


「というわけで、それまで私は何をするか!」


 鍛えるだけじゃ飽きたらん!

 鍛えるだけでは本物には勝てへんのや!


 勇者ってそういうもんでしょ?

 召喚されてから一年。


 勇者も鍛えに鍛えまくっていることだろう。

 去年の時点では私が強くても多分すでに逆転されている。


 私だって寝る間を惜しんで訓練に勤しんでいるが、それだけではどうしても埋められない差が存在するのだ。


 私の職業(予定)は戦闘職じゃないし、戦闘職筆頭のような勇者に私が鍛えても勝てないのはわかっているとも。


 だからこそ、私は武・器・に・頼・る・!


 どうしてこういう結論に至ったかと言えば、ある伝承を知っていたからだナ。


 神器と呼ばれる武具を装着したものは世界でも屈指の実力が得られるとかなんとかいっちゃって〜!


 まあ、伝承で聴いた程度だったら、私だって信じやしないさ。

 でもさ、実際に勇者のもつ剣って勇者にしか扱えなくて、効果はわからないけど、力が増すらしい。


 さらに言えば、実際に勇者の剣ではないが、私が手に持っていて、体が軽くなったと感じたことがあるからだ。


 公爵家に伝わる至宝、『夜の導』っていう、盾があるんだけど、その盾を持った途端に体が軽くなって強靭化したんだよね。


 あ、ちゃんと許可をとってから触ったからね!?


 まあ、そんなわけなんですわー。

 私が体を極限まで鍛え抜いたんなら、武器も一流のものにしたくなるんよ。


 っていうかそうしないと対抗できない……。


「というわけで作りに行こう!」



 ♦︎♢♦︎♢♦︎



 さぁ、やって参りました!

 公爵領が誇る街並みに!


「さぁて!どこへ行こうかな!」


 安定の授業を抜け出して、やってきたわけだけど、一体どこへいけばいいんだろうか?


 こういう時は、やっぱりあいつに聞くんだな!


 それが一番だ!


「っていうわけで、いい店教えて!」


「どういうわけだよ!」


 現在アレンがちょうど歩いてたのを捕まえて尋問を行なっているわけであります!


「いいでしょ〜別に減るもんじゃないんだしぃ〜」


「言い方が変なんだよなぁ〜もう……」


 今思えば、アレンもだいぶ背が高くなった。

 私と比べてもちょっと高いし。


 体鍛えているから、私も身長には自信があったんだけど、あっさり抜かれてもうたわ。


 これが、子の成長!?


「何を考えてるのか大体分かるのが余計腹立たしいな」


「わかるの!?」


「めっちゃわかる」


「おっほん!んで、何かいい店知ってる?」


 もちろん勇者あのことは話していない。

 っていうか、そもそもアレンは私が公爵家の人間だって知ってんのかな?


 ま、なんでもいいんだけど。


「えぇ、俺も知らないんだけどな」


「う〜ん、そっか。じゃあ一緒に探して!」


「え?なんで俺が……」


「久しぶりに会ったんだから、たまにはいいでしょ!」


「まあ、いいけど」


 よっしゃ、ゲットだぜ!


「じゃあ、いこ!」


「おう」


 まあ、なんやかんやあって、一緒に行くことにはなったものの、結局どこなのかわからないというね。


 なんのヒントもなしなので、聞き込みをするしかないのだな〜これが。


 とりあえず、食材屋のおばさんに聞いてみた。


「う〜ん、ちょっとわからないねぇ。鍛冶屋といっても、そんな大層なものがある店はないね」


「そうですか……」


「役に立てなくてごめんね」


「いえ、全然大丈夫です!ありがとうございました!」


 大したもの、そこなんだよ。

 すっごい剣を作ってもらわなくてはならないのだ。


 それじゃなきゃ意味がない。


 再び歩き出す。

 もはや当てずっぽうで歩いているだけなので、ちょっとどこにいるのかわからなくなりかけている。


「なあなあ、どうする気なんだ?」


「そう言われてもなぁ」


「普通の店でもいいんじゃないのか?」


「それはダメだよ、相手に対抗できなくなっちゃう」


 剣が折れた時点で私の負けは確定するんだ。

 強度が高いものを必要とするのは当たり前だろう?


 と、そんなことで悩んでいた時のこと……。


「もし、そこのお嬢さんや」


「え?私、ですか?」


 路地の方で声がし、私は足を止めるのだった。

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