第42話 よっわ


「というわけで、我々第三騎士団、近衛騎士隊がお相手させていただきます」


 謁見の後、騎士様についていってやってきたのは訓練場。


「は、はぁどうもこちらこそ」


 最悪な状況は免れた。

 というのも、国王さん(悪魔)に急用が入ってしまい、私の訓練を見に来れなくなったという、なんとも言えない………嬉しいような、ザマァというような?


 結局言いたいのは状況は芳しくないということである。

 本人が見れなくなっただけで、記録する方法はいくらでもある。


 例えるなら私の記録用の魔法など。

 アーカイブを残しておくことができるので、似たような魔法が使われたら終わりである。


 もし、それを私が解除しようとするものなら、反逆罪とかその他もろもろの罪の疑惑が湧いてしまう。


 まあ、今更感半端ないけどね。

 私ってば、かなり法律に違反している。


 普通に民家破壊しまくっているんだけどさ、これは悪の組織的なやつを潰すつもりでやったわけで、普通に人殺っちゃってるんだよね。


 特に何か感じるわけでもないけどね?

 そう考えると私ってめちゃめちゃ怖い?


 え?

 私ってやばい人?


 でもさ、非情モード状態だからさ、前世の私の感覚だってだけ。

 つまり、非難するのであれば、私の前世を否定しなさい。


 いいですね?


 って、そんなことはどうでもいいんじゃ〜!

 騎士団の面々が今この場にいるわけなんだけど。


(なんだか圧がすごいんだが?)


 いやぁ、ほぼ全員が屈強な男たちであるため、か弱い女の子(六歳)がこんなところにいると、周りの熱気が半端ないのだ。


 筋肉がつかない私からしてみれば羨ましいことこの上ないのだが、流石にここまでの筋肉はいらないかな?


「それで、まずは誰がお相手いたしましょう?」


「え?う〜ん、誰でもいいけど、無理してやらなくてもいいんだよ?」


「いえ、これは私たち騎士団も成長できるいい機会だと思っておりますので、ご遠慮なさらずに」


 いやいや、成長とかもう十分なんじゃない?

 だってさ、この人たちって近衛騎士隊っていう精鋭なわけじゃん?


 騎士団の中にも“隊“が存在するらしい。

 その隊はいくつかあり、その中でも近衛騎士隊って王より直接選ばれた選りすぐりの精鋭であって、いくつかある騎士団の中でも、いくつかある隊の中でも最強に近いってわけ。


 強いからこそ、近衛なのだ。

 だから、私よりも絶対に強いじゃん!


 というわけで、別に戦ってもいいんだ。

 だって、私が負けるんだから。


 だけどさ、それを見られるのはそれで嫌なのだ。

 なんで、負けないといけないわけ!?


 私、負けたくはないのだ。

 でも、勝ったらそれはそれでやばい。


 んなわけでーー


 私は引き分けを目指して頑張ります!


「よろしくお願いします」


「こちらこそ、よろしくお願いします」


 あ、思わず挨拶したけど、結局誰と戦うの?


「一人目は誰ですか?」


「では、最近所属したものから順に戦ってもらいますね」


 つまり、所属年数が若い人から順ってことだよね。

 了解いたしましたー!


「というわけで、自分がお相手させていただきまっす!」


 若い男の人が、ヒョイとさっきまで話してた人の後ろから出てくる。


「はい、よろしくお願いします!」


 返事をして、了解の意を示す。

 他の全員が訓練場の隅まで移動していく。


 アリーナ状になっているそれには、座る席なんかもあるので、各々が好きな場所に腰を下ろしているようだ。


(あれ?武器持ってない………)


 武器の渡し忘れなんてよくあることだ。

 しょうがないから私が作るとしよう。


 訓練だから木刀でいいかな?


 私は魔法を使おうとするがーー


(あれ?発動しない?)


「すみません!木刀を渡すの忘れていました!」


「え?あ、ありがとうございます」


 魔法が使えない……………。


 あ


(しまったー!私、自分で魔法の絶対遮断の結界張ったんだったー!)


 え?

 ってことは何?


 私本気出せないってこと?

 魔法が使えない私って雑魚ってレベルじゃないでしょ!


 もはや道端のゴミレベルだからね?


 そんなことになるんだったら、結界張らんければよかったわ!

 今日だけで私、何回墓穴を掘るんだ?


「では始めますね?」


「あ、はい」


 目の前の騎士が構えたため、私も構える。


「それでは、試合………はじめ!」


 審判役の人が始まりの合図を出す。


 っていうか、これ、模擬戦形式なんだね。


 そんなことを考えていると、目の前にいる騎士が襲いかかってくる。


「ふん!」


 攻撃は………上段。


 だがーー


「よっわ」


「え!?」


「あ、すみません。つい心の声が」


「それはそれでひどくないっすか!?」


 いやねえ、上段の構えの割には威力がそんなになかったものだから、ついつい………。


 でも、実際そんなに威力ないんだよね。

 やっぱり新米だからこんなものってことかな?


 ちょっとだけ、本気でやるか。

 魔法抜きで私の本気と言ったら、脚力全開で高速斬撃!


 私の木刀が騎士の連撃を弾いたと同時に、カウンターで木刀を振るう。

 速度的には騎士よりかは速い程度に。


「のわ!?」


「うふふ、すごいですねー」


「なんか棒読みじゃないっすか?」


「いえ、お気になさらず」


 まあ、結果全部防がれた………否。


 全て木刀に攻撃を当てたというのが正解である。

 木刀が折れれば、この試合は終わるのだ。


 武器がないのにどうやって戦うのって話よね。

 というわけでーー


「ふん!」


 木刀のかけらが飛んでいく。

 それと同時に私の木刀も地面に叩きつけて折る。


 誰にも見えないように高速で………。


「あれま、折れてしまいましたね」


「あ、えぇとこれはどっちが勝ったんですか?」


 審判の方を向くが、未だ困惑している様子なのでーー


「実質引き分けですね!」


「そうなるんですか?」


「はい!」


 というわけっで見事引き分けましたぁー!


 よし、これで終わりだ!

 この調子で、残りの人たち引き分ければいいんじゃね?


 と、そこまで考えたところでーー


「あの!アドバイスもらってもいいですか?」


「え?アドバイス、ですか?」


「はいはい!とっても強かったんで、是非ともアドバイスが欲しいと思いまして!」


 えぇ、どうすればいいのこれ?


 審判役の人に視線を向けると、目だけでお辞儀をしているようだ。


 え?


 アドバイスしてやれってこと?


 私のアドバイスなんて大したことないが、まあ、うん。


「えっと、普通に力が足りません」


「力?」


「あ、はい。皆さんよりも筋肉量が少ないというか、腕っ節が弱い方だと思うんですよ」


「うぐっ!」


 なんか攻撃くらってる………まあ、それは置いといて。


「だから筋肉をもっとつければ、皆さんとおんなじくらい強くなれると思いますよ!」


「そ、そうですか。だったら筋トレするしかないっすね!」


 これでよかったんだろうか?

 っていうか、ほんとにそうなんだよね。


 技術というか剣術は普通に型にハマっていてお手本みたいなんだけどね。

 純粋に攻撃力がないのだ。


 だから、私のアドバイスはある意味あっているのである。


「えぇと、これでよかったですか?」


「はい!いつかベアトリスお嬢様のように強くなってみせます!」


「あ、はい」


 なんか初戦終っちゃたけど、結局何がなんだったのかわからなかったんだが?


 私はため息を吐くのだった。

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