第25話 吹っ切れる
「今日はここでキャンプですかね?」
「そうですね。あ、お嬢様は馬車の中で寝てもらいますからご安心を」
何を安心すればいいのかはわからないが、とりあえず、今日はここでキャンプ………つまりはここで寝ることとしたらしい。
見晴らしのいい平原の真ん中という危険地帯ではないが、森の近くというちょっぴり危ないような場所だ。
まあ、もちろん結界とか張ってくれるのだろうから大丈夫だろう。
もしもの場合は、私が森ごと破壊するけど………。
流石にそんなことにはならないと思う。
一応はかなりの人数いるんだから、近く魔物なんてないだろう。
「よし!じゃあ、ちょっくらいってきます!」
「ヴェールさん、いってらっしゃい」
ミサリーが手を振り、おそらくテントを張りにいったヴェールさんを見送る。
「今日はどうでした?お嬢様」
「えっと、普通だけど?」
「そうですか。まあ、色々と楽しかったですね!」
「うん!」
会話を交わした後、ミサリーも手伝ってくるといって、馬車を出る。
私は一人になってすることがなくなった。
「う〜ん、手伝うべきかな?」
でも、勝手に動いていいのかな?
ミサリーは私の安全優先で動いてもらっているのに、こちらから約束を守るのはなんかいけない気がする。
というわけで、私はこの隙間時間を有効活用しようと思ったわけである!
「ジャジャーン!殿下からの手紙!」
私は異空間から、書きかけの手紙を取り出す。
ナチュラルに異空間とかいってるけど、普通に考えたらおかしいよね?
異空間って、私どうやって作ったっていうんだ………。
いつの間にかできていたので、なんの疑問も持たなかったけど、これは側から見たらおかしいだろう。
というか、謎の空間に殿下からの手紙を放り込むとか、私は一体何を考えているん!
まあ、取り出せるから良かったけどさー。
差し詰め、“アイテムボックス“というのが、この空間には合っている気がする。
「と、そろそろ書かなくちゃ」
ペンも一緒に取り出し、手紙を書く。
特に話したい内容があるわけではないため、私は今日あった出来事などを書くことにした。
今日あったことといえば、馬車に乗ったことくらいだろうか?
……………やっぱり思いつかない!
書きたいことがないので、文章がどうしても短くなってしまう。
だが、それだと失礼なのでもう少し何か書かなければ!
(うむむ………適当に冒険者チーム紹介しておこう………)
私たちを今回護衛してくれている冒険者パーティ“緑光“を紹介しておくとしよう。
なぜそんな名前なのかは知らない。
パーティ名はチームの自由であるため、深く聞かなかったが、まあいいでしょう。
(是非、会って見てください…………っと、これでいいかな?)
「ふぁ〜」
久しぶりに眠気が襲ってくる。
「ま、もう寝ても誰も文句は言わないよね」
そういえば、夜を食べていないが、お腹は空いていないのでよしとしよう。
じゃ、おやすみ〜。
♦︎♢♦︎♢♦︎
「お嬢様?起きてくださーい!」
「ふえ?」
「あ、やっと起きましたね?もうそろそろ到着しますよ?というか、ほぼ到着したも同然ですが………」
「え!?今何時!」
私は勢いよく飛び起きる。
その時、馬車が動いて、体のバランスを崩してこけてしまったのはいうまでもない。
「ちょっと、笑わないでよ!」
「あはは!ごめんなお嬢さん!面白くてさ!」
いつの間にか、またさん付けに戻っているあたり、仲良くなれたと喜ぶべきなのか、これは如何に………。
「師匠、お笑いできるの?」
「私はツッコミ役でもボケ担当でもありません!」
昨日の氷漬け事件(被害者は魔物)が起きた後、レイナは私のことを“師匠“と呼ぶようになってしまった。
(どうしてこうなった?)
「お嬢様、あの後ぐっすり眠っておられたので、起こさずにそのまま目的地に向かわせて頂きました」
「あ、そういうことね。なんだか久しぶりにぐっすり寝れた気がする〜!」
伸びをして、体を起こす私に、ミサリーがとんでも発言をーー
「ええ、昨日のうちに魔力を出し切ったらそうなりますよね〜」
………………聞かなかったことにしよう。
(私、昨日魔力出しっぱだった?)
そういえば、“アイテムボックス“閉じた覚えがないような………………。
ま、いっか!
「あ!そろそろですよ!」
ミサリーの言葉で私は前を向く。
進む方向に見えたのは、もうかなり近づいていたのか、かなりデカく見える外壁がそこにあった。
よく見ると、前に止まっている馬車の奥に入り口らしきものが見えた。
「よし、次の馬車!」
検問の警備兵が、私達の馬車を止める。
「む?この馬車は………」
「あ、少々いいですか?私達はこういうものでして」
ミサリーが持たされている公爵家の紋章をその警備兵に見せる。
「こ、こここ、公爵家!?の!?」
めちゃめちゃ噛んでるのは、この際聞かなかったことにしよう。
「し、失礼しました!どうぞ、お通りください!」
「はい、ありがとうございます」
すんなり通れてしまった。
続いて、父様達が乗っている方の馬車も、すぐに通された。
「公爵家………恐るべし」
「お嬢様、あなたも公爵家の一員なのですが?」
「いやまあ、そうなんだけど」
そう言われても、流石に民たちにここまで優遇してもらえるというか、尊敬と畏怖の念を向けられたことがあんまりなかったから、驚いてもしょうがないと言えるだろう。
前世は“畏怖“じゃなくて、“恐怖“だったしね。
「で、何しにきたんだっけ?」
「お嬢様………」
なんか呆れられた?
ため息を吐くミサリーに早くと急かす。
「旦那様の仕事の関係で、辺境伯である、リュース伯爵領までやってきたわけですよ。お嬢様がついて行きたいっていったのでは?」
「あ、そうだった!」
とりあえずは、辺境伯さんの屋敷まで行くってことかな?
「じゃあ、つまりはそれまで私、することないってこと?」
「ま、まあそうなりますね」
「じゃあ、また起こして」
「え!?」
そうして私は再び、眠りにつく。
だって、疲れたんだもん!
♦︎♢♦︎♢♦︎
「はじめまして、アナトレス公爵家が長女、ベアトリス・フォン・アナトレスです。どうぞ、お見知り置きを………」
「こちらこそ、ベアトリス様」
リュース辺境伯に挨拶をして、私は自己紹介を終える。
「ベア、今からするのは大人の話だから、外で遊んできなさい」
「え?それじゃあ、私がきた意味が無いのでは?」
「………自主学習はいいことだが、ここは私の顔を立ててくれ」
「は、はぁ。わかりました」
そうして私は追い出される。
(え?どういうこと?)
私がここにきた理由はこれから起こりうる“ある未来“について予習をしておくという目的だった。
まあ、私が処刑される前に起こる大惨事だと思ってくれればいい。
それはもちろん我が公爵家も飛び火を受けるわけで………。
それを回避したいがため、私が今のうちから領地の治める方法などを知るためにここまでやってきたわけなんだけど?
「あ、そうですか私はお邪魔ですか」
一人になった廊下で私は愚痴を吐く。
「いいもん!いいもん!私のこと仲間外れにするんだったら、この街で遊んでやるんだもん!」
私は一人泣きながら廊下を駆け抜ける。
♦︎♢♦︎♢♦︎
初めてみる、自分の公爵領以外の領はどことなく、綺麗に見えた。
見れば見るほど、なんとなく賑やかに見える。
道ゆく人は皆笑顔で生き生きしているように思える。
(まあ、私の領も負けてはいないけどね!)
前世では犯罪が絶えなく起きていたけど、今世ではすでに原因を根絶したため、犯罪数は激減したのだ。
「よーし!思う存分遊ぶんだから!」
私は子供のように走っていく。
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