第22話 お供を探す

 五歳になったとしても私の日常生活はそんなに変わらない。

 四歳にしても、五歳にしても、結局はまだ子供だからである。


 だから、毎日授業を受けるだけの日々だった。

 だが、今日は特に何もないが、明日は少しだけいつもとは違うことがある。


 それはーー


(他の領に行くことになりましたー!)


 意味わかんないと思うから簡単にいうとね?

 父様の仕事で私もそれに付き添っていくことになったわけであります。


 今時女でも仕事はできないといけないので私がお願いしたのだ。

 というわけで、今回はお供さんを探しに行きます!


 ちょうど衛兵はなんかの調査をしているそうだ。

 なんの調査かは教えてもらえなかったが………。


(いやーなんか誕生日ぶりの非日常感!最高です!)


 あ!あとね、あの後私の使ったスキルについて問い詰められはしなかったんだ!

 後は黒い服の奴……屋根の上にいたやつもいなくなってたけどね。


 そんなことを考えているとーー


「お嬢様、失礼します」


「どうぞ」


 ドアが開けられいつも通り、ミサリーの顔がそこにあった。


「どうしたの?出発はもうちょっと先………というか明日よ?」


「ええ、そのことではなくてですね。こちらをご覧ください」


「ん?」


 そこには封筒があった。

 まあ、誕生日が終わった後からは見慣れたものとなったが………。


「ああ、殿下からの手紙か!」


 最近は手紙のやり取りが増えた。

 そうすることで、他の公爵家よりも権力闘争に有利に働くのだ。


 というのは建前で、普通の友達になるためである。

 友達になってどんなメリットがあるのかといえば、いくつかあげられると思う。


 第一に私の自己満足っていうものね。

 前世のことはさほど恨んでなんかいない。


 信じてもらえなかったということは普段の生活から仲良くできてなかったからだろう。


 だからこそ、今世では仲良くなりたい。

 純粋に一度は好きになった人だしね。


 流石に、二人で一緒に暮らしたい!

 とかは、絶対に嫌だと思うようになった反面、誰かと一緒にいるのであれば、さほど怖くないため、程々の関係でいたいというのが本音だ。


 それに、友達になることで、婚約するという選択肢は消えると思ったのだ。

 国王陛下も殿下を“友達“と婚約させようとは思わないだろう。


 二人の仲を引き裂きかねないと考えてくれればなお良い。


「手紙の返事は書くとして………お供は見つかった?」


「いえ、手の空いている衛兵はなかなかおらず………すみません」


「いいよいいよ、ってことは、どっかから人材拾ってくるしかないかぁ」


 となると、結構限られてくるんだよね。


「冒険者ギルドにいく?」


「ギルドですか?確かに、いい人材は多そうですけど………」


 ミサリーの目が若干泳ぐ。

 え?なんかあんの?


「案内お願いできる?“ミサリー“」


「あ、はい!わかりました、“ミサリー“頑張ります!」


 案外単純なのだ、ミサリーは。

 名前を直接読んであげたら、ものすごく喜んでくれるため、お願いしたい時にのみ使用することが多いのだ、この手法は。


 何があるかはわからないが、とりあえず、元冒険者のミサリーを確保したのだ。

 低ランクの冒険者だったのかもしれないが、流石に同業者にちょっかいをかけてくるような輩はギルド内にはいないはずだ。



 ♦︎♢♦︎♢♦︎



 そう思っていた時期が私にもありました。


 冒険者ギルドまで、やってきて、中に入った直後のこと………。


「はは!女がこんなところに来るもんじゃねぇぞ!しかも、ガキ連れてるなんて、舐めてんじゃねぇのか?」


 うわぁ………。


 なんかやばい人出てきたよ。

 何?冒険者ギルドってこういう奴しかいないの?


 服装は冒険者っぽいから、やっぱりそうなのだろう。


「あなたに構っている暇はございませんので」


「ああぁ?」


 ちょっと煽らないでミサリー!

 結構お怒りなんだけど!?


 めっちゃ相手顔歪ませてますけど!?


「このアマ…………!」


 あ、なんか喧嘩始まりそうな雰囲気が………。


 ーーと、そこまで状況を眺めていて気付く。


(なんか、あのパーティ私たちに近づいてきてない?)


 四人の女性の方がこちらの喧嘩を険しい表情で眺めている。

 その目線は主に男に向けて………。


 確かにこの男は女は入るな的なことを言っていたため、それにお怒りなのだろう。


 きっとあの人たちも、まるっきしの初心者パーティではなさそうだからね。

 そこそこお高そうな装備をつけて剣士、プリースト………僧侶だな………それに、戦士もいるし、魔術師もいるようだ。


 パーティバランスもしっかりしていることからも、やはり初心者とは形容し難い、


 そして、そのパーティが私たちに近づいていることすなわちーー


(助けてくれるの?)


 人差しの希望が浮かんだ。

 これで誰も怪我することなく終わるかもしれないと思ったら、自然と緊張感が薄れていく。


 そしてーー


「ちょーー」


 剣士の女性が話しかけようとしたその時ーー


「邪魔です」


「グボォォ!?」


 思いっきり、ミサリーが相手の男を殴り飛ばした。

 その男は数メートル吹き飛んで、後ろのテーブルにぶつかる。


 そこの席に座っていた別パーティが彼にカンカンな様子だが、こちらは関係ないと、気にしないようにする他なかった。


「ん?何か御用でしょうか?」


 ミサリーが、明らか戦士の面構えで女性パーティに問うている。


「いや、助ける必要はなかったみたいで、何よりだ」


「助けてくれようとしていたんですか?失礼しました。てっきり、また邪魔が増えたのかと思いまして………」


 なんかミサリー、いつもより殺気立ってない?

 気のせいだろうか?


「いやいや、小さい子供がいるのに、警戒しない方がおかしいというもの。こちらこそ険しい表情で見てすまなかったな、お嬢さん」


「え、あ、はい。大丈夫ですよ?」


「ふふ、ありがとう。して、あなたたちはどうしてこんなところに来たんだ?見たところ、冒険者ではなさそうだが………」


 私は子供で、ミサリーはメイド服、そう見えるのが当たり前だろう。

 っていうか、実際そうだし………。


「ええ、少し依頼をしようかと思っていたところでして」


「依頼か?う〜ん、それは難しいと思うぞ?」


「どうしてですか?」


「ここ最近は、やけに魔物の出現率が高くてな。みんな殺気立っているようなんだ。殺気だっていなかったとしても、忙しいからまともに受けられる人はいないと思う」


「う〜ん。そうですか………」


 他に手段を考えるべきか?

 行きたくはないが、傭兵の方にも顔出して、お願いしてみるか?


「おっと、ちょっと待ってくれ!」


「なんですか?」


「手が空いていないのは、優秀な男性パーティであって、優秀な女性パーティは手が空いているぞ?」


 くいくいと手を自分の方向に指し示す。


「なぜ、手が空いているんですか?」


「魔物の発生率がやけに高いのに、そこに女性を送り込むのは倫理的にどうなのかって、お偉いさんがストップかけたんだよ。おかげで仕事がなくなったわ!」


 むすっとする剣士を僧侶が慰める。

 魔術師は我関せず、本を読みふけり、戦士の子は強そうな男を探して腕相撲をしようとしている。


 まともなのは剣士と僧侶だけか………まあ、二人もいるからこのパーティが成り立っているのか。


「では、依頼を受けてくださいますか?」


「もちろんだ!」


「ありがとうございます!いいですか?」


 ミサリーが私に同意を求めてくる。


「うん!もちろん!」


 女性パーティを見つけられたのは運が良かっただろう。男と同じ馬車にいるのはなんか汗臭そうで嫌だったのだ。


 それに女性となら気軽に話せそうだし!


「じゃあ、自己紹介してもらっていいですか?」


「剣士の私はヴェールだ!発音が難しかったらベールでいいからな、お嬢さん!」


「あ、えっと僧侶のラネルです。よ、よろしくお願いします!」

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