第10話 抜け出す

(今日は何をしようかな?お兄様たちどちらかのところに遊びに行く?でもな〜)


 お兄様たちの邪魔をしたら申し訳ないため即座に考えを否定する。

 特にコルト兄様とはつい最近仲良くなったばかりなのに嫌われるのはまずい。 


 私は昼間の授業を抜け出してそんなことを考えていた。


(いや、決してつまらないからとかではないからね!?)


 って、誰に向かって訂正しているんだか………。

 純粋に授業の進行速度がクソってほどに遅いのである。


 淑女なりに言葉を選んだつもりだが、下品な言葉が出てしまうほどに遅い……。

 毎回、授業で教えられるのは私が既に事前学習で終わらせた内容ばかりなのである。


 まあ、それは当たり前のことだろう。

 事前学習の後に授業を受けるということこそが普通なのだが、私の感覚からしていわせて貰えば、これは単なる事後学習なのだ。


 前世で既に習った既習事項をもう一度やらされていることほどにつまらないものはないだろう?


(算数って、いつの話をしているんだか)


 せめて数学を教えてほしい……。

 それだったら私も不安の部分があるので、十分楽しく授業を受けられると言うものを………。


(まあ、こればっかりはしょうがないか)


 と言う感じで開き直り、私は今現在授業を抜け出したわけである。

 特には予定もないので、これからどうするかは悩みどころかな……。


(どうせだったら、私にも利益があるような行動をしたいよね)


 だったら何をするべきだろう。

 別に効率を重視しているわけではないが、時間は多いながらに有限でもある。


 今のうちに私が自由に過ごせるような環境を作り上げなくては……。


(潰すか、犯罪組織)


 もうそれぐらいしか思い当たらない。

 というか、父様は遅すぎ!


 兵を集めているのかは知らないが、それだったら私が直接潰しに行った方が早いわ!


(というわけで、行ってきまーす!)



 ♦︎♢♦︎♢♦︎



(ちょっとやりすぎたかな〜?)


 数分前ーー


(ここが犯罪組織か)


 探知の魔法で向かった先には、犯罪組織のものと思われる、少々汚い外装をしている家が並んでいた。


(ここは数年前にスラム化したはず……いまだに生命反応があるって言うのはそう言うこと?)


 スラムに住む人は基本野外で活動している。

 なぜなら、そうしないと、そもそもとして彼らは食料にありつけないからだ。


 外に出ないと食料が見つからない………つまり生きていけないのである。

 家などに住むと、面倒なことの方が多いみたい。


 家に住めばなぜか取り合いが起き、争いが始まる。

 少しでも優越感に浸りたいという感情に負けてしまえば、さらなる厄災が降り注ぐってわけ。


(と、その前にここは立ち入りがない地域なんだよね〜)


 スラムにも住みやすい場所、住みにくい場所が分かれている。

 ここは住みにくい。


 だからここに一人でも住もうとする人はいないのだ。

 近場の水飲み場は汚れきっていて、汚水と化していて、食料が捨ててあることもないのだ。


 まあ、表通りで言うと、ここは市場でも何でもないからね。

 そもそも食料が捨てられていること自体私は許せないのだが?


 そんなことは置いておいて、早速潰すとしよう。


(魔法は何にしようかな?)


 ちなみに今は『浮遊』の魔法を使っている。

 これは風と雷と少しばかりの重力をちょいと混ぜた結果、なんかできた。


 簡単に言うと、三属性の魔力を同時放出して足下に流してそれを常に操作するって感じ?


 前世だったらやろうとは思わなかっただろうけど、今は魔法使うのが楽しすぎて、存外に悪くはない。


(これも訓練よ!)


 魔法の同時発動の実験というわけだ。


(使う魔法は重力系でいいかな?)


 何を使えばいいのかはわからないが、とりあえずこれに決めた。


「『物理崩壊フィジカルコラプス』」


 瞬間磁場が歪む。

 実際は重力によって物理的に地面そのものが歪んでいるわけだが。


 すぐに、その建物は崩壊を始める。

 この魔法の恐ろしいことは、地面が崩壊する前にその上にあるものをすべて押しつぶしてしまうことだ。


 まあ、地面が圧によって下がるのであれば、ワンチャン………自らにかかる圧力が減るかもしれないが、その地面が下がる前に急激に圧をかけられることで、一種のブラックホール状態になる。


 ブラックホールというのは、すべてを飲み込む暗闇?らしい。

 どっかの偉い科学者が言っていたのを覚えている。


 そして現在ーー


 地面には大穴が生まれ、建物の上半分が完全に消滅、下半分は瓦礫とかした。


(ブラックホールがあまり持続し切れていないわね)


 まだまだ修行が足りないな……。

 これでは、魔力の波が荒いということが証明されてしまったわけだ……。


(よし、次に切り替えよう!幸いにもまだ組織はあるんだし!)


 今潰したのはほんの一部分に過ぎない。

 練・習・相・手・としては十分だろう。


 私は早速次の場所に向かうのだった。


 ーーなお、この国の王が文官から告げられた『ベアトリスが犯罪組織を潰した』という話が比喩表現ではなく、物理的にだったことを知るのはもう少し先のことーー



 ♦︎♢♦︎♢♦︎



(ちょっと休憩……)


 大体の犯罪組織を潰し終えた私は、近場の森まで、足を……体?を運んでいた。


 ここは、獣王国と我が王国との国境あたりにある森だ。

 まあ、まだ国境は超えていないから国際問題にはならないだろう。


 というか、ここまで飛ぶのにもかなりの時間がかかったんだが?

 何でこんなところにあるかな〜犯罪組織さんや。


 見つからない場所に作るのは当然として、めんどくさいんだけど、潰しに行くの………。


(まあいいや、さっさと休憩できそうな………そうね。平原でもあったらいいな)


 近場の平原……できれば日当たりが良いところ……。


 私は飛行しながらそんなことを考える。


 そして、少し進んだ先に開けた場所が見えてきた。


(あそこは結構良さそう。よし、あそこにしよーっと!)


 私は魔法を解除し、勢いよく急降下する。

 落ちる寸前で魔法を使って減速したのち、ゆっくりと着地した。


 ここのあたりだけ、光が差し込んでいて、それでいて綺麗な草も生えている。

 草に綺麗とかあるのかはわからないが、何となくそう思った。


(ここだったら一人で寝ても平気そうだな〜)


 ちょっとだけお昼寝をしよう。

 それが終わったら帰って地理の勉強でもしようかな………。


 そうして私は眠りに落ちる。



 ♦︎♢♦︎♢♦︎



 私は報告書に目を通していた。


「ん?ここの侵入者と言う部分だが……」


「ああ、そちらですね。明確に言えば侵入などでは全然なかったのですが、一応国境に通行書なしで立ち入ったのでそう記載しました」


「年齢が推定三歳から五歳とはどう言うことだい?」


「ええ、ちょうど王国と我が国との国境を超えている平原のあたり、あそこにいたらしいんですよ。お昼寝?か何かをしていたんでしょうね」


「それはまた……面白い侵入者さんだね」


「そうでしょうか?私は少々気分が優れませんが」


 この国では人間は嫌われている部類に入る。

 この国、獣王国の亜人が人間たちによって奴隷にされていたということが多々あったからだ。


 まあ、その話もだいぶ昔のことで、基本的には奴隷にされているということはここ最近では聞いたことすらない。


 それも、私が王になってから法律を一部改変したおかげ………とまではいかないが、だいぶ人間とも友好的になれてきていると思う。


「まあ、気にしないのが吉だろうね。これでもしその子が、王国の重鎮の子供だったして、国際問題になっても困るからね」


「そうですね、逆にその子に返り討ちにされると言うこともーー」


 部下が興味深い話を始める。


「それはどう言うことだい?」


「つい最近に、我々の国との境にある公爵家の領の娘が誘拐されたらしいんですが、その娘が何とですね!」


 興奮気味に告げる部下。


「自力で逃げ出してきたんです!しかも、その組織の人間をめったうちにして!」


「そ、そうかい」


 あまりの興奮に多少は驚くが、強さを追求する獣人ならではの特徴と思えば不思議な話ではなかった。


 強い方が……言い方はアレだが、モテるのだ。

 強ければいいと言うわけでもないが、優遇されるのは確かである。


「で、侵入者とはどう言う関係があるんだい?」


「ええ、その子の特徴が誘拐されたこの特徴とかなり酷似しているらしいんですね〜これが」


 楽しそうに告げる部下に微笑を浮かべながら答える。


「それは楽しそうだね。強さを求める獣人としては、是非ともうちの子と結婚して欲しいものだ」


 自分の息子もまた四歳と、年齢は近しいだろう。


「留学させるんですか?王国に」


「ふふ、悪くはないかもね」


 十五歳から大人になるこの世の中では、成人してから通う学校というものも存在する。


 学院に通わせるのもまた一興か……。

 尻尾を機嫌よく揺らす。


「まあ、気長に待つとしようかな」


 公爵令嬢殿の面白い話が届くことを期待しながら、私は仕事に戻るのだった。

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