第9話 人生の振り返り(国王視点)
「おお!ついに生まれたとな!」
「はい、アナトレス公爵家の遣いの者からの報告ですので、間違いありません」
「それは僥倖!私の子もそろそろ生まれそうだったな?」
「はい」
私付きの文官がそう答える。
公爵家………私の親戚のようなもの………から子供が生まれたのは、とても喜ばしい事だ。
何しろ、弟の子供ということにもなるからだ。
公爵家が私の弟、これつまり、私はそれよりも上の立場にあるという意味だ。
弟と私の遺伝子を比べると、腹違いの兄弟であるため、全くと言っていいほどの別物になるが………。
公爵家の遣いの者が来たという話から大体の人は察することができるだろう?
何を隠そう、私こそがこの国の王なのだから……。
そして、自分の弟の子供が生まれるという話を聞き、大変喜んだ。
出来が良かった、私の………俺の弟の子供なんだ。
一体どんな逸材が生まれてくるのかとても楽しみで仕方がない。
「どんな子に育つんでしょね」
「ああ」
ちょうど、自分が考えていたことと同じことを言われ、簡単に返事をする。
「王弟様のお子様なんですから、きっと才色兼備でしょうね!」
「ふ、あいつは私よりも………って、いいか。俺よりも出来がいいからな」
「そんなことはないと思いますが?」
「いいや、事実だ。あいつは昔からとにかく強かった。剣の修行では敵なしの猛者だったな。対して俺は多少頭が回る程度だ」
「国王には強さも必要ですが、一番重要なのは『頭』だと私は思いますよ」
「そんなものかな」
ははっ、と笑いながら、成長を楽しみに待つ。
「そう言えば、俺の子は何月を予定しているのだ?」
「はい、今から三月目です」
「そうか、楽しみなものだな」
「そうですね」
「もしかしたら、とんでもない才能を持っているかもですね」
「期待させるなよ。違った時が悲しくなるだろ?」
「ふふ、失礼しました」
この時は、まだアナトレス公爵家に生まれた、ベアトリスなる者の逸話を知るものはいない。
これから起こるのだから………。
♦︎♢♦︎♢♦︎
ベアトリス、一歳
「言語を習得した、だと?」
「いえ、正確には文字を完璧に覚えたの方が正しいですね」
「どっちも一緒ではないか!」
「そう言われましても………」
去年もここでこの文官と会話をしただろうか。
今はそんなのはどうでもよくなっていた。
「それにしても、文字を覚えただと?うちの子供は………いや、他の家庭だったとしても、同じだろう。文字を覚えられる一歳児の話なんて俺が生まれてから一度も聞いていないぞ?」
「それはそうでしょうね……。私も知りませんし」
「はぁ〜」
軽くため息を吐く。
「まあ、でも。嬉しいことと考えれば大した話でもない。それに噂とは、過大になるものだからな」
「おっしゃる通りかと」
「だが、頭がいいんだろうな。ベアトリス嬢は。きっと適正職は『学者』かな?」
「う〜ん。私的には『指揮官』など軍部を指揮してくれると助かりますね現在人手が不足していますし」
「それをいうなよ……。仕事がなかなか回ってこなくて、退職するというなんとも言えない事件が起こってたなんて、俺の知るところじゃないぞ?」
「確かに軍部を指揮するものが一番熟知しているはずですが、あなたは一国の王なんですよ?それぐらいわかっておかないと」
「ぐぬぬ」
それをいわれてはグーの音も出ない。
(そうだな〜。俺は一国の王なんだから、もっとしっかりしようかな)
自分では、一生懸命に尽くしている気はするのだが、どうにも努力がまだ足りていないらしい。
より一層、働かなくてはな……。
「ところで、陛下のお子様はどうなさっているのですか?」
「今は、俺の所有している宮殿で遊ばさせているぞ。かなりのヤンチャでな?すぐに備品を壊すんだよ。だから、壊されてもどうでもいいものが置いてある宮殿で妻とメイドたち、護衛を置いている」
「それはまた厳重な警備ですね」
「それぐらいしないと、子供は守れないと思ってな」
「……そうですね」
文官は俺の笑顔に微笑でもってかえす。
♦︎♢♦︎♢♦︎
ベアトリス、二歳
「料理を作った?流石にそれは嘘ではないか?」
「あ、でもしっかりといつも通りの手順で報告されているので、嘘の可能性は限りなく低いと思いますよ?」
「だが、だからといって、真実味は全くないのだが?」
「私にいわれても困りますよ………」
確かにその通りだと思い、俺は少々の驚きを沈める。
「それで、どんな料理を作ったのかな?」
俺は思考を切り替え、もはや何かの芸だと思う事にした。
何気にこのベアトリスという幼女の存在を面白く感じるようになってきた。
一年に一回は面白い話題作っているのだ。
流石に、子供を問題視するようなクズでは俺はないため、純粋にそう感じる事にした。
「シチューだとそうです」
「シチューか?確かに美味しいとは思うがどうしてそれなんだ?」
「シチューが好きだからだそうですよ?」
「はっはは!子供らしくていいじゃないか!」
流石は私の弟の子だな。
天才のもとには天才が生まれるって話だ。
俺の方が頭は回ると言った記憶があるような気がするので、訂正する。
弟は俺と並ぶ頭の良さを持っている。
自分のことを天才という気はないが、文武両道の弟は天才で間違いないだろう。
「これは適正職業は『料理人』ですかね?」
「まあ、何にせよだ。適当な職業に就こうが就かまいが、構わないのだ。できれば、違う職についてもらいたいものだな」
「まあ、料理人は十分足りていますもんね」
苦笑いしてくる文官。
「だが、こればっかりはしょうがないか………。ベアトリス嬢は弟の子だからな。だからと言っても、あいつに選択権はないが………俺らがどうこういう話でもないだろう?」
「ま、そうですね!」
「最近は仕事が多いからな。そんなことを考えている暇があるなら、少しは仕事をしろよ?」
「わ、わかってますとも!」
文官は目を泳がせているのに気づきながらも、見て見ぬ振りをして、今年もこの話題を乗り切る。
♦︎♢♦︎♢♦︎
ベアトリス、三歳
「えっと、今年ですがーー」
「待て待て!何もいうな!今年は俺が当ててやろう」
手で制したのちに、考え込み、答えを導き出したので、言葉にして発する。
「あれだ、食材を一人で取ってきた!ってところか?」
「不正解です」
「む?そうか。で?何なんだ?」
「答えを言いますとですね………犯罪組織を潰したようです」
「は?」
待て!話が飛躍しすぎだろう!
「どういうことだ?」
「今月末にどうやら誘拐をされたようなのですが、そこから無事に脱出。その後、犯罪組織を全てピックアップしたのちに、そこを潰したらしいです」
「話が全くわからんのだが?」
「要するに自分が誘拐されるほど、治安が悪いと嘆いたベアトリス嬢が、犯罪組織の情報を集め、治安をよくしようと努めたという話ですね」
「適正職業は何だと思う?」
何となくで聞いてみる。
「聖女ですね」
「聖女だな」
天才的な才能を持っていて、さらには慈愛の心を持ち合わせる存在なんて、この世には聖女くらいしか考えられない。
女は勇者という職にはつけないため、これが妥当だろう。
「どうする?聖女として、取り立てる?」
「やめておきましょう。今後の成長を我々の手で止めかねませんから」
文官の言う話は正論であるため、反論はしない。
俺はそれに同意するかのように首を縦に振る。
「ったく、面白い子供のようだな。早くこの目で見て見たいところだな」
「あ、そう言えば、五歳の誕生日には公爵家主催のパーティーを開くそうですよ?」
「何?それは是非とも参加せねばな!」
「お顔が悪くなっておりますよ……」
引き気味な文官は気にせず、俺………私はそれを楽しみにするのだった。
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