第5話 誘拐される
だが、「路地裏」だったから、いけなかったのだろう。
「ぐは!?」
「「?」」
私の背後にいた私の護衛らしき人物がうめき声を上げる。
その声と同時に、男が路地裏に入ってきた。
「誰だ!?」
アレンが私の前に出て、声を上げる。
(え?アレン……かっこよ)
私は他人に守ってもらったことがなかった。
だからか、男性の行動ひとつひとつにドキドキしかねないのだが………。
(そんなことされたら惚れてまうやろ〜!)
まあ、五歳くらいであろう子供を好きになるわけないのだが………。
言うて私も三歳なんだけど。
「どけ!邪魔だ!」
男が私たちに向かって叫ぶ。
がたいがいいので、判別できたが、フードをかぶっていて、顔が見えない。
「ち、近寄るな!」
「ふん、近寄るまでもないな」
「え?」
その会話を聞いていた私は、嫌な予感がして、後ろを振り向く。
「アレン!うしろ!」
「?」
とぼけた顔で、こちらを向くアレン。
だが、遅かったーー
♦︎♢♦︎♢♦︎
「むうむー!」
アレンの唸り声?で私も目が覚める。
(ここどこ?)
かなり、汚い部屋の中で、視界にアレンが手足を結ばれて状態で寝かされているのは見えた。
その様子はさっきまでのアレンとは、打って変わって、なんだか、緊迫した様子だ。
アレンもこちらに気付いたのか、ゴロゴロと転がってこっちにやってくる。
「むうむ?」
「?」
なんて言っているのかは、わからないが、おそらく「怪我ない?」だと思う。
「むむ!(へいき!)」
私が元気そうなのを見て、安心したようにため息を漏らしている。
(それにしても、汚い)
床にはゴミが散乱していて、木材の部分が変色しているようだった。
(家の中かな?)
椅子や、テーブルが置いてあるのを見て、私は予想を立てる。
(アレンはも今起きたっぽいし、まだ五歳だからな〜。観察はまだしていないのだろうな……)
いまだに焦っている様子のアレンを見て、私はここがどこか教えようとする。
だが、口には布が巻き付けられていて、喋ることができない。
ガチャっと音がして、扉が開く。
ちょうど、誘拐犯?が帰ってきたようだ。
「起きたのか?」
「むむう!」
「うるさい!騒ぐな!」
「ふむう……」
まあ、怖いよね………。
ビビっちゃうのもわかるわ……。
まあ、私はどっちかというとビビられる側だったんだけどね。
子供の力ってすごいな〜。
まだ、子供だから、目つきが悪くてもまともに接してくれるなんて。
「はあ、今回は楽な仕事だったな〜」
椅子に座り、くつろぐ誘拐犯。
「まさか、ターゲットが先に屋敷から出てくるなんてな!」
「むむ?」
二人の視線が私に向く。
片方は面白そうに……。
片方は不思議な顔で……。
(でも、このままじゃらちがあかないな……。もう、このひもとっちゃっていいかな?)
私は手首を縛っている、ひもを見て思う。
そろそろ外して欲しいものだ。
今にもちぎれそうな紐に嫌気がさして、私は思い切って引っ張る。
両腕に負荷がかかり、それと同時に紐が優しくちぎれる。
「!?」
アレンが驚いた様子で私を見てくる。
「し〜」
口に手を当て、私は幸いにもその様子を見ていなかった誘拐犯の方にテクテクと歩いていく。
「ねえねえ?」
「ん、なんだ?って………」
数秒間その誘拐犯と見つめ合う。
やっと状況が理解できたのか、誘拐犯が思いっきり叫ぼうとする。
「お前!どうやーー」
「ほい!」
でも、そこから先を言わせる気はないのだ。
頸椎に一撃を加え、私は誘拐犯を黙らせる。
(信じるべきは拳よね!)
力は何にも裏切らない。
それを、この三年間で学んだ。
私は、アレンの拘束を外す。
「お前……どうやって?」
「う〜ん?なんのこと?」
あんまりにも驚いていたから、逆に何に対して驚いているのかがわかなくなった。
「まあ、いいや。早くここを抜け出そう!」
「うん!」
出会ったときの元気が戻ったアレンは、ゆっくりと誘拐犯が入ってきた扉に向かう。
「あれ?くらい………」
そこには、光が差し込んでおらず、石で囲まれていた。
「地下か?」
「たぶん」
地下がある家はそう珍しくなのだろう。
アレンもさほど驚いた様子を見せていない。
それに、誘拐して監禁するなら、地下っていう選択を選ぶのは妥当だ。
「とりあえず、地上に向かうぞ」
「うん」
若干声を抑えて、歩き出す。
だが、なかなか階段は見つからない。
「おっかしいな〜?ここからあいつが出てきたと思ったのに………」
アレンが呟いた。
その瞬間ーー
「お?お前ら逃げ出したのか?」
(ああ〜。なんかまためんどくさいことになりそうな予感が………)
男の声は上からした。
ということは、ここの真上に地上部分があるということだろう。
「だれ!」
強気で叫んでみた。
「威勢がいい嬢ちゃんだな!気に入ったぞ!」
上から、何かが煌くのが見えた。
それと同時に、こちらに飛来する姿が見えた。
「ふん!俺がおままごとでもしてやろうか?あっはは!」
現れたのは、片目を隠しているスキンヘッドのおじさんだった。
背中に武器らしき、大剣と、腰のあたりにも片手剣を持っている。
だが、一番に注目を集めたのはーー
「ようへい?」
「よく知っているな!」
彼の首には、プレートが下げてある。
それが、意味するものはたくさんあるが、私の知っている中では傭兵のものだった。
傭兵とは、冒険者のようなもの。
ただし、決定的に違うのは、冒険者がほとんど魔物専用の業種に対して、傭兵は人間も相手にする。
冒険者がならず者になったようなイメージだ。
「で、嬢ちゃん。逃げたいのか?」
意地悪く笑みを浮かべるスキンヘッド男。
「もちろん!」
「だったら、勝負でもするんだな!」
後ろから、物音がする。
扉が開き、さっき気絶させたはずの男がすっと現れる。
「いや〜危ねえ。一瞬後ろに下がろうとしてなかったら、完全に逝っちまってたな!」
「おい、真面目に見張れよ。報酬がもらえないぞ?」
「すいやせん」
一通り会話を終えたのか、私たちに向かって何かを投げてくる。
「けん?」
「そいつで、俺を殺して見せな!そしてら、存分に逃げてくれ!はは!」
床に落ちた剣を見ながら、私はどうするか迷う。
「そんなことお前がしなくていいからな!?」
アレンが私の様子を見て止めようとしてくる。
いや、別に私の中ではやらないという選択肢はないのだ。
(私は、このスキンヘッド男を殺すか、殺さないかで迷ってるんだよ………)
私よりも強かったら、本気で挑むだけだけど、もし、瀕死の状態でこいつが生き残ったらどうするか?
そのままとどめを刺すのもいいかもしれないが、それではアレンにトラウマを植えつけてしまうだろう。
私は剣を握る。
「あ、おい!」
アレンが私の肩をつかもうとする。
だが、私はそれよりも早く駆け出す。
「うお!?」
「えい!」
完全に油断しきっていたスキンヘッドはギリギリのところで大剣を引き抜き、私の攻撃を防ぐ。
(安直すぎたかな?)
反省し、私は背後に回る。
「く!後ろか!」
大剣を横薙ぎに奮ってくる。
私はそれをジャンプし、避けると頭に向かって振り下ろす。
だが、相手だって馬鹿じゃない。
一回転したのちに、勢いに乗ったまま攻撃を防御する。
「お前、何歳だよ……」
「さんさい!」
私は兄様の修行見ていたので、多少の剣の動かし方はわかるのだ。
手首を返し、スキンヘッドの後ろを狙う。
その動きを見ていたスキンヘッドは首を傾けて避ける。
私は、一旦後ろに下がる。
「とっとと!」
流石に子供用の剣ではないのだ。
体のバランスがうまく取れない。
それを隙と見たのか、スキンヘッドが突っ込んでくる。
横薙ぎに動く瞬間に、私の剣で攻撃を受け流す。
そして、大剣が地面に刺さったと同時に飛び上がっていた私の体が、大剣に着地する。
「つづき、やるよ!」
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