第11話 プレゼント選び

 最近若者の間で流行っているという、都会のショッピングモールにやってきた。新町さんの誕生日プレゼントを探すのなら、流行りの店が入った大型ショッピングモールに来た方が、選択肢も増えるだろうという考えだ。

 いつも通り待ち合わせ時間の20分前に着いたのだが、そこにはすでに若葉の姿があった。今までこんなことはなかったから、かなり驚いた。

「おはよー」

「よ。早いね」

「悠真はいつも来るの早いから。もっと先に来てやろう、て思ったの」

「じゃあ今度はもっと早く来る」

「キリがなくなるからやめて!」

 そう言って彼女は笑みをこぼした。

 俺たちは大きな自動ドアを潜って、クーラーの効いた店内に入った。入り口に置いてあったパンフレットを手に取った。どの店も横文字ばかりで、そもそも何のお店かもよくわからない。

「なんか当たりはつけてるの?」

「一応ネットで調べてきた。女の子へのプレゼントランキングみたいなやつ」

「で、何が上位だった?」

「財布とかカバンとかだったかな」

「あ、でも沙耶、最近財布変えたって言ってたし、バッグがいいのかも」

「ありがとう。そういう情報すごくありがたい」

「じゃあとりあえずその辺見に行く?」

「そうしよう」

 若葉は俺が広げているパンフレットを横から覗き込んだ。

「じゃあこのお店かな〜」

 彼女は1人でスタスタと歩き始めた。日曜日のショッピングモールは非常に混み合っていて、人に紛れてすぐに彼女を見失いそうだった。

「あ、ちょっと待って!」

「はぐれても知らないよ〜」

 その後、彼女が案内してくれたお店に入った。可愛らしい服や小物がたくさん並んでいて、店内は女性ばかりだった。入りずらい気持ちはもちろんあったが、若葉も隣にいるしそれほど抵抗感はない。

「一応言っておくけど、私は選ばないからね」

「え?なんで?」

「だって悠真から沙耶へのプレゼントでしょ?私はアドバイスするだけだから」

「うん、わかった」

 俺は陳列されているカバンに目を向けた。どれも特別煌びやかというわけではないが、落ち着いたデザインが大人っぽくてかっこいい。

「トートバッグとかの方がいいんじゃない?」

「と?トトバッグ?」

「トートバッグ」

「え?トイレの会社?」

「それはトートー」

 彼女は目の前にある少し大きめのカバンを手に取り、肩にかけて俺に見せた。

「これがトートバック。学校に行くときとか使えるでしょ?」

「なるほど」

「で、今私が持ってるのがショルダーバッグ。普段使いできるサイズのやつね」

「うんうん」

 見たところ、店内にはどちらも陳列されている。色やデザインも様々で、この中から1つを選ぶことの困難さを痛感した。

「あと、お店は1つじゃないからね。他のところも見てみないとダメだよ」

「まあ、そうだよね……」

 自分に買うものなら、物を入れられる機能があれば何でもいいと思えるのだが、やはり人にあげるものとなると状況は異なってくる。相手の好みや用途に合わせて買うのは至難の業と言える。

 5、6店舗ほど歩き回って、俺はようやく納得のいくものを買えた。他にも10点ほど良さげなものを見つけてはいたのだが、若葉の審査は厳しく、どれも却下された。その甲斐もあって、新町さんが必ず喜んでくれるであろう代物を手に入れることができた。

「今日はありがとう、若葉」

「よかったじゃん、いいのが買えて」

「うん。若葉のおかげだよ」

 俺が感謝を告げると、若葉は照れ臭そうに笑った。

「若葉は何か買うものないの?付き合うよ」

「え?いいの?」

 俺は黙って頷いた。若葉は相当嬉しかったのか、先ほどよりもずっと明るい表情を見せた。

「じゃあこっち見てもいい?」

「いいよ。ついていく」

 若葉のショッピングに付き合うことは今までも何回かはあったが、ショッピングモールを回るようなことは今までになかったと思う。これほどまでにテンションが高い彼女を見られる機会もそれほどない。

「これ似合ってる?」

 試着室のカーテンを開けると、彼女は俺にそう聞いた。白を基調とした可愛らしいワンピースだ。

「うん、いい感じだよ」

「さっきのやつとどっちがいい?」

「うーん、俺はこっちがいいかな」

 と言いつつも、俺にセンスがないことは若葉だって百も承知のはずだ。聞いてきたのは、きっと背中を押して欲しかったに違いない。

「じゃあこれにしよ!着替えてお会計してくるから、ちょっと待ってて」

「うん、わかった」

 お店の中を一通り探索していると、若葉が軽い足取りで近づいてきた。左手で大きな紙袋を持っている。

「買っちゃった〜」

「いい買い物だよ。よかったよかった」

「じゃあ次の店、行っても良い?」

「もちろん」

 若葉は迷いもなく進んでいく。俺は彼女をひたすら追いかけた。

「よし!」

「え?このお店?」

 若葉が入っていった店は、明らかにメンズのお店だった。男っぽいグッズが欲しいのだろうか。俺もは戸惑いながらも、黙って彼女についていった。

「これとかどうかな?」

 彼女は1枚のTシャツを手に取って、俺に見せた。

「いいと思うけど、流石にサイズ大きいんじゃない?」

「何言ってるの?私じゃなくて、悠真のだよ」

「え?俺の?」

「ほら、合わせてみて」

 若葉はそのTシャツを俺に渡した。俺は服の上からそれを合わせてみた。

「うん、いい感じ。似合う似合う」

 そう言いながら、彼女はまたハンガーラックをあさり始めた。

「若葉、自分のものはもういいの?」

「もうさっき買ったでしょ?今度は悠真の番だよ」

「まあ、そう言えばそうか」

「悠真、あんまり服に興味ないからそんなに服持ってないでしょ?」

「うん。ほとんど似たようなのしかない」

「デートに行くんだったら、私が新しいの選んであげる」

「ホントに?いいの?」

「もちろん。まだお金に余裕ある?」

「大丈夫」

「じゃあ任せて」

 若葉は俺に優しすぎるのだ。彼女が優しすぎるから、俺も自然と彼女を頼ってしまう。事故にあって障がいが残る俺を心配してくれているのだろうが、そのせいで多大な迷惑をかけてきた。本当に申し訳なく思う。

「今度はこれ。どう?」

 次に彼女が選んだのは、シンプルだがかなりお洒落なパンツだった。軽く合わせてみた。

「サイズ感はわからないけど、いいと思う。さっきのTシャツと一緒に試着してみて」

「わかった。ありがとう」

 サイズもちょうどいい感じだった。試着室のカーテンを開けて、目の前にいる若葉に見せた。

「どう?」

「うーん、悪くはないけどちょっと統一感がないかな……」

 隣にいた店員さんもそれに同意した。俺は改めて鏡を見てみたが、何のことだかさっぱりわからない。

 若葉が代わりに違うパンツを持ってきてくれた。大きな違いはないように見えたが、彼女に試着した姿を見せると大きく頷いた。

「これはモテるぞ〜」

 と、自信満々の様子だった。オシャレなどわかりっこないが、とりあえずその言葉は信じてみることにした。

「お店の前までお持ちいたします」

 会計を済ませると、店員さんがわざわざ紙袋を運んでくれた。

「お似合いなカップルですね」

「いえいえ、別に俺たち付き合ってるわけじゃないんです。ただの幼馴染です」

「あ、そうでしたか。それは失礼しました」

 昔からよく間違われる。理由はよくわからないが、やはり異性が一緒にだけで、そう見えてしまうものなのだろうか。

「今日はいい買い物したね〜」

「いや、今日は本当にありがとう。プレゼントもそうだけど、わざわざ服まで選んでもらって」

「ちゃんと成功させてよ?」

「うん。頑張る」

 結局、昼前の集合だったにも関わらず、夕方まで時間がかかってしまった。彼女を最寄り駅まで送ってから、俺も家に帰ることにした。

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