第6話 散歩

 散歩をするのに都会も田舎もない、これは俺の散歩に対する持論だ。自然が綺麗だから田舎の方が散歩に向いている、なんてことは決してない。巨大なビル群を見上げるのも、高速道路の複雑なジャンクションを眺めるのも全然悪くはない。

「ねえ、もうタメ語でよくない?同級生でしょ?」

 そう切り出してきたのは新町さんだ。大規模なショッピングモールが立ち並ぶ繁華街を、フラフラと彷徨っている。

「うん、いいよ」

「合コンの時もみんな敬語で、なんかうずうずしてたの」

「言われてみれば、確かに」

 5分ほど歩くと、四方を大きな建物に囲われた小さな公園があった。近くの自販機で飲み物を買って、公園のベンチに腰掛けた。

「悠真くんさ、若葉と幼馴染なんでしょ?」

「うん。小学校から一緒」

「若葉から聞いてるよ。めっちゃいい奴だ、って」

「まあ、それほどでも」

 俺がそう答えると、新町さんは手を叩いて笑った。

「さっきさ、散歩が趣味です、って言ってたでしょ?」

「うん」

「私、それ結構わかるんだ〜。散歩って良いよね」

「え、ホントに?」

 意外だった。この趣味は誰にもわかってもらえないだろうと思っていた。

「地方の田舎出身なの。だから自然の中をフラーって歩いているのがずっと好きだった」

 新町さんの話に耳を傾ける。

「でもある時、いつも歩いてた道で蜂に刺されたの。それでもう田舎なんか嫌い、都会に出るんだって心に決めて、やけになってこの大学に来たの。そしたら、なんかいつの間にか散歩の楽しさも忘れてた」

 彼女は突然立ち上がり、公園に立つ1本の桜の木に優しく触れた。

「夏の桜って良いよね。元気の出る鮮やかな緑が綺麗」

「うん、わかる」

 ビルから漏れる光に照らされ、桜の葉は夜空に輝いている。残念ながらその綺麗な緑を目視するには少し暗すぎたが、それでもその木からは生命を感じた。

「俺は都会に生まれて、都会で育った。だから自然の良さは知らなかったんだ。でも、修学旅行で知床五湖に行った時、自然の素晴らしさを初めて感じたんだ。そこから、俺は自然の大ファン」

「知床五湖か〜。行ったことないなぁ」

 ベンチに戻ってきた彼女は、俺の横に再び座った。その時に撮った写真を見せてあげると、目を輝かせて画面を見ていた。

「ね、連絡先交換しない?」

 彼女がそう言い出したのは、もう遅いから帰ろうかと俺がベンチから立ち上がった時だった。

「うん、もちろん」

 俺たちはlineを交換して、そのまま公園を後にした。駅まで彼女を送り、俺はその足で買い物を済ませてから、家に帰った。

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