第4話 新たな決断

 法学部の建物には今まで入ったことがなかった。そのせいで少し迷ったが、なんとか若葉が授業を受けている教室にたどり着いた。ちょうど授業の終わりを知らせるチャイムが鳴って、学生がゾロゾロと出てきた。若葉は最後の方に、友人たちと喋りながら出てきた。

「よ、若葉」

 彼女に声をかけて、肩をポンポンと叩いた。

「え?悠真?」

 彼女が驚くのも無理はない。俺の方から会いに来ることはなかなか珍しいのだ。彼女の友人たちと目があったので、軽く会釈をした。一瞬だが、気まずい空気が流れた。

「話があるんだけど。今いい?」

「う、うん。わかった」

 彼女は一緒にいた友人たちを先に行かせた。俺たちは人目の少ない場所に移動した。

「あのさ、この前のことなんだけど……」

「ごめんなさい」

 若葉は俺の言葉を遮ってそう言い、俺に向かって深々と頭を下げた。

「私、悠真に絶対言っちゃいけないこと言っちゃった。本当にごめん」

「大丈夫だよ若葉。全然気にしてないし、いや、むしろ考えさせられちゃった」

 あの時の彼女の言葉には正直驚いた。でもそれは全くショックではなくて、むしろ何かに気付かされた気分に近かった。今まで、恋愛はもう2度とできないと決めつけていた。だがそれを克服しようとは考えたことがなかった。彼女の言葉はそんな俺の固定観念を正してくれた気がする。

「どういうこと?」

 彼女は困惑した表情で俺を見つめている。

「恋愛してみたいな、って思ったんだ。俺の知らない世界を知ってみたいんだ。できるできないは今は考えないことにした」

「え?本当に?」

「うん。だからこの前誘ってくれた合コン、行ってもいいかな?」

「あ、うん、ありがとう!全然いいよ」

「どうかした?」

「いや、なんか驚いちゃって。悠真がそんなこと言い出すと思ってなかったからさ」

 彼女は苦笑いを浮かべている。俺も彼女と同じ気分だ。まさか俺がそんな風に考えるとは思いもしなかった。

「で、その合コンは誰が来るの?」

「女の子側は、私のサークル仲間。男の子は確か他大学の人だったと思う」

「そっか。知り合いが若葉しかいないのは心配だなぁ」

 普通、同性間は仲がいい、というのが合コンの原則な気がする。まあ今はあまり気にしてもいられない。

「せっかくだし、一緒になる男の子と友達になってもらったら?悠真は友達1人もいないんだからさ」

 彼女は俺を少し茶化した。

「若葉がいるじゃん」

 俺がまじめにそう答えると、彼女は声を上げて笑った。

「そうじゃなくて、男の友達!」

「うん、じゃあいない」

「ほーらね」

 話が終わると、彼女は先ほど待たせていた友人の元へと戻っていった。次の授業のある教室へと向かっていって、程なくして俺の視界からいなくなった。

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