第2話 合コンの誘い
若葉は店長さんとうまく話をつけてくれた。また後日連絡を貰う運びになった。
「悠真、店長さんに気に入られたみたいだね」
「いい店長さんで良かった。ありがとう、若葉」
「ううん。全然」
「今度は長続きするといいけど」
「大丈夫。きっと大丈夫」
初夏の日差しが容赦なく俺たちを照りつける。例年なら梅雨の季節だというのに、先週から晴れが続いている。店内が涼しかったこともあり、外はかなり蒸し暑く感じた。
「じゃ、俺帰るわ」
まだ終わっていないレポートが多く残っている。
「あ、ちょっと待って悠真」
「うん、どうした?」
「あ、いや、やっぱりいいかな……」
珍しく若葉が慌てている様子だった。彼女のこんな様子をあまり見たことがない。
「いや、そこまで言ったなら最後まで言ってよ。気になる」
俺がそう言うと、彼女は少し困った表情を見せたが、やがて何か吹っ切れたのかすぐに口を開いた。
「いや、あの、別に大した話じゃないんだけど」
「うん」
「友達にね、合コンに行かないかって誘われたんだ」
「合コン?若葉が?」
「いやあのね、別にすごく行きたいわけではないんだけど、私もそろそろ彼氏が欲しいじゃん?」
「そうか。それはよかったじゃないか若葉」
俺にはきっとわからない感情だが、きっと彼女にも恋愛をしたいとか、そういう類の気持ちは存在するのだろう。俺が恋愛できない分、彼女には純粋に頑張ってほしいと思う。俺には彼女の恋愛を応援しない理由がない。
「ありがとう。で、でもね、なんか男の子の人数が足りてないらしくてさ」
「え、そうなんだ」
「もしよかったらなんだけど、悠真はどう?」
「え?俺?」
俺は驚いた。そもそも彼女の口からそんな言葉が出るとは思わなかった。彼女の落ち着きのない様子を見ても、何か変な違和感を持たざるを得なかった。
「ほら、悠真も高校生の時、恋愛したいなーって言ってたでしょ?」
「あれ、そうだっけ?」
「もしかしたらまた思い出せるんじゃない?人を好きになるっていう気持ちを……」
一瞬だけ彼女と目があった。その瞬間に彼女はハッと我に帰ったのか、突然言葉を途中で切り上げた。
「うん、まあ、誘ってくれるのは嬉しいけど、やっぱり俺は合コンを楽しめる人間じゃないからさ」
「そ、そうだよね。ごめん。私、悠真に言っちゃいけないこと言っちゃった」
彼女は落ち込んで下を向いてしまった。きっと善意があって言ってくれただろうに、結果的に彼女を傷つける結果になってしまいひどく申し訳なかった。
「そんなことないよ若葉。俺の方こそ断っちゃってごめん」
彼女は俺の過去を知っている唯一の人だ。事故のことも、そのせいで後遺症があって俺が特定の感情を持てないことも知っている。それでも、幼馴染のよしみでいつも助けてもらっている。
でも今日の彼女はやはり何か変な気がする。今までは彼女の方からそのことについて話すことはなかった。ポロッと勢いで喋ってしまうなんてことはしない人なのだ。
「ごめん。じゃあ私、帰るね」
「うん。バイバイ」
彼女はそう言い残すと、足早に駅の方へ向かって行った。その後ろ姿はどこか重そうに見えた。
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