建都記念祭
この世界に来て五年、俺は五歳になった。
現在、この世界に来てから初めて乗る馬車に揺られている。
今日は王都ガルスに行く。
王都は文字通り、王が治める城郭都市だ。この他に皇帝が治める帝都ガラニス、聖都ガレルスがある。
かつて人が神との決別を決断した時代、決別した結果できたのが人都ガロス。その人都の中で自らを王と名乗る者と、皇帝と名乗る者が現れた。
王を都市の頂点としたのが王都、皇帝を絶対としたのが帝都である。
その後しばらくは二つの都市だけだったが、両方の都市から失われた神の庇護をもう一度望む者たちが台頭し、そんな者たちが創りあげたのが聖都だ。
歴史の中で分裂していったが元は人都という一つの大都市だった。名前が似通っているのはそれが理由だろう。
また、驚くことにこの世界には神都があるという。その玉座には神が座っている。神話の時代から存在している神であり、三つの人が治める都市と友好な関係を結んでいるという。
それを聞いたとき。聖都はともかく、王都と帝都の神との決別とはなんだったのだと思った。
しかし、神からの決別とはつまり神の庇護下を脱すること。現在の神との対等な関係は神の庇護を受けない、一つの決別の形なのだという。
せやろか。
そんな栄光と歴史ある王都に向かう理由は、建都記念祭があるからだ。
その名の通り、建都記念日に合わせて都市全域を挙げて祭りをするというものだ。
一年に一度行われていたが、これまでは参加していなかった。興味があったが、不幸体質の俺が家族と共に行動すると悪いことが起きるのではないか、そう無意識に思っていたのだろう。
前世とは違うだのと言っておきながら、情けないことである。
しかし、自分が転生者であることが露見した日。あの日以来、避けてきたことにも挑戦しようと考え始めた。露見した日の時点で記念祭は過ぎていたため、去年参加することは叶わなかったのだが。
今年こそ、と待っていた。
「見えてきたな。ほら、アルマ見てみろ」
御者の背中の向こうに立派な城壁が見える。
城壁は高く、王都の町並みは全く見えない。遠くから眺めるだけで威圧感が感じられる。あれならば、外部からの敵襲などものともしないだろう。
「いよいよ王都の中へ入りますよ」
御者が馬車に乗車している人たちに知らせる。
遠くから見ると綺麗な城壁だったが、近くに寄ると傷があるのが分かる。
おびただしい数の傷が王都の歴史を雄弁に語っていた。
王都内部へ続く城門を抜けると、そこには思わず声を上げてしまうほどの光景が広がっていた。
壁は白で塗装され、屋根が煉瓦色の背の高い建物ばかり。まさに中世ヨーロッパの町並み、そのものだ。
その中で一段と目を引くのが、王都の中心に堂々と構えるガルス城だ。自然と目を引く荘厳な城は、王都をより一層きらびやかに飾りつける。
そして行き交う人々が異様なまでの活気を見せている。今日が記念祭ということもあるだろうが、ここに住む人々に活気があるというのは、ここが良い都市だということの証だろう。
しかし、その人種は人間のみ。てっきりエルフやら獣人やらがいるかと思っていたがそうではないらしい。
「すっごいね!お父さん!お母さん!」
「ええ、そうね。来れてよかったわ」
都会のきらびやかな雰囲気にあてられて、いつもよりも声が大きくなる。
すでに記念祭は始まっている。精一杯楽しんでやる。
馬車を下りて、王都の地面を踏む。サンタナ領の無造作な道とは違い、しっかりと整備されている。
「ねえ、お父さん!お母さん!早く行こう!」
興奮を抑えられず、その場で足踏みをしながら、父と母に一緒に祭りを回ることを促す。
父と母と手をつなぎ、祭りを回る。
露店を巡り、食べ物やおもちゃ、雑貨などを見ていく。
おいしそうな食べ物を見つけては三人で食べ、美味しいと言いあったり。
おかしな仮面が売られているのを見かけては、面白いと笑いあい。
おしゃれな雑貨が目に付くと、お洒落だと魅入ったり。
きれいな女性とすれ違うと、目を引かれ、父が母に睨まれたり。
サンタナ領とは全くの別物。
異常なまでの賑わいを見せる人々に同調するように、俺の気分は上がっていた。
楽しい!楽しい!楽しい!
こんなに楽しいのは初めてだ。これまでの自分じゃ絶対に体験できなかった。
なにより、自分の親と思い出を作っている事実に頬が緩む。
「楽しいね!お父さん!お母さん!」
勢いよく後ろを振り向くと、そこには父と母はいなかった。
二、三度瞬きをした後、ある疑問が湧いた。
まさか、迷子になったのか?
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