2話 ヴェルデバランの愉快な家族(2)
「それではお前にはこれを渡そう」
そう言って、ダグラスはおれに変な色をしたブロンズソードを渡してくる。
色としては青と緑が混ざったようなものだ。
おれはダグラスがサビまくっている剣を渡してきたのではないかと勘違いした。
まったく、大人げないやつだなと。
しかし、よく見てみるとこれはブロンズソードではないな。
おれは前世の記憶を頼りに剣を握り、感触を確かめる。
「これは《魔剣》と言ってな。持ち主を魔力を吸い取ってしまうのだ!」
ほう……。
これは魔剣というものなのか。
確かに、体内からふわふわとした魔力がドンドンと魔剣に流れ込んでいく感覚がある。
それに、おもしろいな……。
こいつはいくらでもおれの魔力を吸収してくれそうだ。
「この魔剣は吸収した魔力を増幅して斬撃に加えることができるのだ! お前にはハンデとしてこの魔剣を使わせてやろう。俺はこの普通の剣で十分だがな! ハッハッハッ」
ダグラスが高笑いしながらおれを挑発してくる。
なるほどな。
ハンデか……。
「おい、ダグラス! ならば、おれからもハンデをやろう!」
おれはダグラスに向かって叫ぶ。
「はぁ? ヴェルからハンデだと!?」
予想もしていなかったのか、ダグラスは普段見せないような驚き顔を披露する。
「一本だ……。 一本でもその剣でおれに入れてみろ!」
おれは一度でも攻撃を当てられたら負けでいいと宣言する。
だが、言葉として口に出してから思い直す。
「いや、それすら必要ないな……。その剣でおれに一度でも触れられたらお前の勝ちでいいぞ」
こうして、おれはダグラスに勝利条件を突きつけた。
ダグラスの頭には血管が浮き出ている。
これは流石にプライドが傷つけられたようだな。
「ヴェル……言ってくれるじゃねぇか。お前が父親を越えるのは千年早いってことを教えてやろうじゃねぇか!!」
ダグラスはそう言っておれに襲いかかってきた。
こうして、おれとダグラスの模擬戦は始まったのだった。
◇◇◇
ダグラスはおれをめがけて必死に剣を振り抜く。
しかし、その剣先は一度もおれの身体を捉えられない。
「クソッ! どうしてだ!? どうして当たらない!!」
ダグラスにとっては想定外の出来事だったのかもしれない。
あれだけ毎日のように剣を振るってきたはずなのに、生まれたばかりの息子に触れることすらできないなんて……。
だが、この状況はおれにとって想定内。
いや、ある意味では想定外であった——。
怪物に生まれ変わったと知ったときから、もしかしたらとはずっと思っていた。
しかし、実際に今になってそれが確信へと変わった。
この身体は人間のときよりも圧倒的に動きやすい!
おれは一度も魔剣を振るうことなく、ダグラスからの攻撃をただひたすらに
見える!
まるで、自分だけ
ダグラスのなんちゃって剣術は無駄な動きが多い上、次の動作への切り換えも遅い。
怪物へと生まれ変わったおれはその持ち前の身体能力だけでダグラスの剣技に対抗することができた。
「はぁ……はぁ……。ヴェル、お前なにをやってるんだ……? 」
ダグラスは既に息を切らし、限界を迎えたようだ。
何をやっている……っか。
確かに、模擬戦である以上はおれも攻めなくてはいけないな。
ダグラスから勝利条件を提示されたわけではないが、それでもこちらはまだ剣を振るっていない。
剣術の指導者としてダグラス以外の者を要求するのならば、おれの実力も少しは見せないとだな。
「ダグラス、それでは少しばかり見せてやろうではないか……。これがおれの実力だ!」
おれは魔剣に魔力を込める。
おれの身体から流れ出る魔力がどんどんと魔剣に吸収されてゆく。
だが、ここでもまた想定外のことが起きる。
おい……こいつには限界がないのか!?
まるで底無しの沼だ。
おれの握る魔剣は魔力を吸っても吸ってもその吸収をやめようとしない。
身体から魔力がごっそりと奪われる。
いきなり自分の体重が10倍になったかのように身体がダルくなり、動かなくなる。
やばい……このままだと死ぬんじゃないか?
とりあえず、何とか魔剣を離さないと!
おれは魔剣を放り投げようとして一振りした。
すると、おれの魔剣からドス黒い闇の斬撃が解き放たれる。
それはこの世界のすべてを呑み込んでしまうのではないかというほどに黒く、そして美しかった。
ゴゴゴゴォォォォォォオオ!!!!
闇の斬撃は爆音をたてながらダグラスの真横を通過する。
ダグラスは何が起きたのかできていないように唖然として口を開けていた。
そして……。
ドゴォォォォッッッッン!!!!
ここから数十キロは離れていると言われている大樹に激突するのだった。
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