第21話


 花火は盛大に打ち上げなければならない。それでいて最高のタイミングであることが最低条件だ。


 つまり、敵本陣で打ち上げる大爆発こそにロマンがあるんよ。


「最高のショーにしてやれ!! 散れ!!」


 俺の命を聞いて信者たちがそろって聖術を唱える。


 そして強固な守りを持っていた大聖堂は壊滅した。


「無茶をするものです」


「そうか? これが最適解だろ?」


 瓦礫の上に立っていられるのは俺と男だけ。


「貴方には数ある信者の十数名なのでしょうが、私にはやっと洗脳できた十数名なのですよ」


「俺にはあいつらが死んでくれてすっきりしたよ。今の気分はすこぶる良いね」


「女神様の信者を殺してその態度。貴方は悪魔ですか?」


「さあね。少なくとも善人を気取る気はないよ」


「そうですか」


 男は呟くと虚空から杖を取り出す。


「どちらにせよ貴方は邪魔です。死んでください」


 杖を地面に叩きつける。同時に都市のいたるところから光の柱が立った。


「ここは私の陣地です。貴方に勝つ術はありません」


 光の柱はそれぞれが上空で一点につながり合う。まるで都市を覆うドームのようだ。


 中心となった一点から光の弾丸が俺に向かって落ちてきた。


「人殺しの技にしては奇麗だな」


 どれだけの威力があるのかはっきりしないが、ただの攻撃でないのは明確だ。


 だが、


「弱点をばらしながらの攻撃に威力なんかないぞ」


 光の弾丸が俺に当たる前に消滅する。


「な、なぜだ!!」


 今まで余裕を保っていた男が狼狽した。


 明らかな隙だ。見逃すわけがない。


「馬鹿だよお前」


 俺は瞬時に近づいて男の胸に聖槍を突き刺した。


「あ……、ぁああ」


 ――ザク、ザク、ザク、


 一本ではとどまらず、二本、三本と突き刺していく。


「人の心は……ないのか……」


「うるせぇよ。お前たちに向けるのは憎悪と復讐心だけだ」


 ――ザク、ザク、ザク、


 十本、二十本、三十本。俺は差し込めるだけ聖槍を突き刺す。


「貴方は――」


 ――ザク。


「その口はもういらないだろ」


 やがて男は動かなくなった。


「は? まだ足りねぇよ。殺したりねぇ。こんなので俺の復讐が終わるとでも思ってんのか? 俺がこんなゴミを殺しただけで満たされるとでも思ってんのか?」


 女神はとうの昔に神によって投獄された。そして、悪意を持った腐れた信者も殺し終えた。


 これで復讐は果たされたはずだった。


 なのに――


「どうしてこんなに満たされない」


 まだ殺したりないのか? 違う。俺はあいつらみたいなゴミじゃない。でも、まだ、満たされていないんだ。


 周囲を見渡す。そこには崩壊した大聖堂の瓦礫の山に立つ俺を何人もが見ていた。


 中には親子や兄弟といる人もいる。


「……俺は、まだ、大丈夫だ。人の幸せを壊すようなことは――」


 俺は聖槍を取り出した。掴み、投げる構えを取る。



 壊してやる。



 その瞬間全身から力が抜けていった。


 ――カラン


 聖槍が俺の手から離れ落ちる。



「はは、頼んでおいてよかったよ。ほんとよかった」


 俺は膝を折ってスイネとフィーに感謝するのだった。

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