第19話


 大聖堂内。初老の男は部屋で一人呟いていた。


「あの少年は恐らく私と同じ立場であると思われます。そうでなければあれほどの神聖を纏った力を行使することはできません」


『だが女神は先日神界で捕らえられ今は牢の中だ。己の信者に強力な加護を与えるほどの力はもう残っていない』


「でればあの少年は。御身と同格の神聖を持つものなど他にいないと聞きますが」


『……女神が捕らえられることを予見して手を打っていたのかもしれん。俺達の計画に気付き信者を盗られまいとあのガキを使って抵抗しているのだろう』


 男が話しているのは男神だ。


 その声を聞いて男は思考する。


 最初におかしいと思ったのはドラゴンを街にけしかけた時だ。突然女神を名乗る声が聞こえたと思ったら、急に聖職者がドラゴン退治に走っていた。


 そのせいで長い時間かけてこちら側に引き込もうとしていた優秀な駒が死んだ。


「女神の宗教を消して御身の宗教で満たす計画に気付いたと? 私には女神にそれほどの知恵があるとは思えませんが」


『だがそう考えるほかない。お前が育てていた聖職者を全員殺されたのだろ? 女神は裏切りや異教徒には敏感だ。それ故、処分としては納得できる』


 『それにだ』と男神は続ける。


『今も刻々と聖職者の弾劾が行われているようだ。俺が加護を与えた伏兵がことごとくつるし上げられている。この残虐で徹底した支配は女神にそっくりだ』


 苦い声だった。釈然と構えるように払っているのだろうが所々に焦りが見える。


 今までは順調に乗っ取りが進んでいたのに急に特大の反撃があったのだ。その勢いは衰えることを知らずに今まで男たちが積み上げてきたものを破壊し続けている。


 屈辱を感じるよりも先に浸食の速さに恐怖してしまう。


「いずれ大聖堂にまで流れはくるでしょう。その時はいかがなさいましょうか」


 幸い大聖堂内の聖職者は全て男たちが支配している。それにより女神の加護がなくとも男神の加護で戦えるので守りは十分と言えた。


 他にも大聖堂には様々な仕掛けがある。迎撃に関しては負けることはないだろう。


『潰せ。この国の信者は全て俺が貰う』


「仰せのままに」


 女神の思うままにさせてはおけない。


 男は他に誰もいない部屋で跪いた。


 ――ダァアアアァアン!!!!


「ッッ!!」


 突如鼓膜を破壊するかのような大音量が部屋全体、ひいては大聖堂全体を襲った。


『襲撃か』


「どうやらそのようです」


 男は聖職者たちの叫びから判断し答える。


『丁度いい潰せ』


「お任せください」


 男は加護を纏って出るのだった。

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