第197話 第一王女、エイナ
クロと別れ、俺はとある部屋の前にやって来た。
さてさて、起きてるかなぁ〜っと…………。
確認のため、中に居るであろう人物向けて扉を二、三回ノックしようとした。
が、手の甲が扉に触れる直前、意図せず開いたそれによってすかっと空ぶった。
"えっ………?"と思ったのも束の間、胸部に大きな衝撃が走った。
「お兄様!」
「ごっふぅ!?」
ものすんごいデジャブだ。
肋骨からピキって音がしたのは気のせいだろうか。
この世界の女の子って皆こんな感じなのかな…………。
よろけながらもなんとか襲撃犯を支え、俺は苦笑いする。
こんな朝から元気よく俺の胸に飛び込んで来たのは、オルメスト王国第一王女、エイナ・エウロパ・オルメストである。
父親譲りの美しい金髪蒼眼に、ご覧の通り活発な性格。
昔と変わらず何にでも興味を持つ程に好奇心が旺盛なため、日々使用人の皆をハラハラドキドキさせているそうだ。
もっと小さな頃は気づいた時には行方不明になっていて、本当に大騒ぎだった。
ちなみに実は最近、皆に黙って城下町に行くのがブームらしい。
メイド長の胃のキリキリと引き換えに、数時間の自由を手に入れたという訳だ。
対して王族ならではの厳しい教育の末、素晴らしい気品と知性、剣術など、まさに文武両道と言うにふさわしい才も持ち合わせている。
前もどこかで話した気がするが、エイナの剣術は異次元だ。
実際に戦ったことはないが、ルイスに歴代最強とも言わしめる程である。
なんか剣からビーム的なのが出るらしいよ?
本当かなぁ…………。
また少々世間知らずな一面もあり、庶民料理や俺達のスローライフに興味を持つことも結構あった。
そのため、城下町に行った時は決まって露店に並んだりするそうだ。
「まったく、もう良いお年頃のお姫様なんですから、あまり異性にこういう事をしてはいけませんよ?」
「むっ…………大丈夫ですよ。こんな事をするのはお兄様にだけですから」
満面の笑顔。
可愛いけどそういう事じゃないのよ…………。
俺も異性の一人なのよ。
昔から一緒に居たせいかあんまり自覚がないのかもしれないけど、俺も男なのよ。
こんな所を見られたらなんて言われるか分からない。
特にルイス。
あいつはエイナを宝物のように大切にしてたし、もし男がちょっかいをかけようものなら、マジで国家戦力を上げてでも抗いそうだ。
あまりにも親バカすぎてお婿さんが見つかるか大変心配なのは周知の事実である。
「お兄様、それよりもです!」
思考に耽っていた俺を揺さぶって現実に引き戻すと。
頬をぷくぅ〜!と膨らませ、不満さをめいいっぱい表現したエイナ。
それはもうパンパンだ。
可愛い。
「もうっ、敬語はやめてくださいって言ったじゃないですか!お兄様とは、もっと昔みたいに普通に話したいです………」
「いやでも、一応執事ですので………」
「このまま敬語なら泣きますよ?」
「えぇ………」
それは困った。
確かに昨日、再会した時に敬語で話しかけたらものすっごい悲しそうな顔をされた。
でも慌てて普通の話し方に変えたら、すぐに機嫌が良くなった。
分かりやすいことこの上ない。
でも俺がエイナに敬語を使わないとか、立場上完全にアウトではないだろうか。
なぜエイナはそんなに敬語じゃないことにこだわるのか……………いやまぁ、俺も仲の良かった人に急に敬語でかしこまられたら悲しいけどさ。
……………うーん、まだ公の場じゃないからセーフ………か?
逞しく育ったなエイナ。
「分かった、次から気をつけるよ」
「はいっ!ではお兄様、一緒に朝ごはんを食べましょう!」
「そうだね。確か朝ごはんはパンってレミアさんが言ってたよ?」
まぁ、結局はお姫様のご命令とあらば断る訳には行かないけどね。
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