第195話 王城で迎える朝






「ふわぁ…………ねむい……」



日が登り始めた早朝、俺はベットから体を起こして腕を伸ばした。

窓から差す日差しに目を細め、盛大な欠伸を一つ。


そこでふと、右半身にのしかかる重みに気がついた。

見るとそこには、幸せそうな寝顔でむにゃむにゃと呟くノエルの姿が。

いつもとは違うシンプルな白いパジャマを着て、ギュッと俺の腹部に抱きついて離れない。




ケルンとの模擬戦の後、俺達は無事に認められ、しばらくの間この王城で過ごすこととなった。

ここは王城内にある、使用人のために用意された部屋の一つだ。


落ち着いた色合いの空間に、主に茶色ベースの家具が配置され、窓の横にはソファーの大きさに合わせた机や少し小さめなクローゼットなどもある。


当たり前だが、そんじょそこらの宿とは格が違った。


まぁ比べる対象として明らかにおかしいんだけどね…………。

ベットもありえないくらいふかふかだった。

ここって本当に使用人の部屋であってる?



昨日から俺達はこの豪華な部屋に住まわせてもらっていた。

ちなみに部屋割りは俺とノエル、ミリアとリーン、アイリスとクロとイナリ。

計三室を借りた形だ。


この部屋割りを決めるのが本当に大変で…………。

誰が俺と同じ部屋になるかでひたすらに大揉めした。

話し合いで決まるはずもなく、挙句の果てには大乱闘に発展した。

少なくとも訓練場がボロボロになるくらいの死闘。


周囲の皆さんがドン引きする中、大人気なく全力で勝ちをもぎ取ったのはノエルだった。

よって現在のような部屋割りが決まり、こうして朝を迎えたと言う訳だ。


あれは凄かった…………ある意味、皆の実力を知ってもらう良い機会となったと言えなくもないが…………。

あ、ちなみに訓練場は全員で平謝りしながらすぐに直しました。




なんとかノエルの捕縛から逃れ、顔を洗ってスッキリした俺はクローゼットを開く。

中のハンガーにかけられていたのは、いくつかの執事服とメイド服だった。

これらはもちろん俺達が着るようだ。

たぶん他の部屋のクローゼットもこんな感じだろう。



俺達は今日から、基本的に三つのグループに分かれての行動となる。



一つ目のグループ。


クロとイナリ。

主に問題の財務大臣の監視や城内の巡回などが役割だ。



そして二つ目のグループ。


ノエル、ミリア、リーン。

エイナの遊び相手だったり、訓練の相手。



最後に三つ目のグループ。


俺とアイリス。

エイナ専属の執事とメイドとして傍に控え、執務を含む様々な仕事。




以上。

しかしこれはあくまでも主な仕事内容であって、その場に応じて臨機応変に対応することが求められる。




早速手前の執事服を手に取り、ささっと着替えて手袋をつける。


さて、今回の護衛の期間は明確に定められていない。

例の財務大臣を逮捕するに至る証拠が見つかるか。

はたまた脅威の対象であるドラゴンや原初を追い返した時か。

下手すれば数ヶ月に渡る長いスパンになるかもしれないと言うのを、頭に入れておいた方が良いだろう。

早めに執事の仕事に慣れないとな…………て言うか本当に大丈夫か?


当たり前だけど、今まで執事なんてした経験はない。

敬語や礼儀作法も結構怪しい。

"エイナの要望"で専属執事になったは良いものの、迷惑をかけないか大変心配である。


だ、大丈夫、昨日マニュアル的なのは頭に叩き込んだし、アイリスに関してはたぶん俺よりできるから心配はいらないはずだ。

堂々と振る舞うことを意識しなければ。


まぁ、最初からそんなおおやけの場に行くわけでもあるまいし………今は緊張する必要はないよ、うん



「じゃ、行ってくるね、ノエル」

「んぅ〜…………いってらっしゃい……なのだぁ……………」



夢の世界と現実の狭間を行ったり来たりして目をトロンとさせたノエルが、力無く手を持ち上げてぶらぶらと振る。

可愛いなぁー、もう。


ノエルの頭を撫でてから部屋を出て、左側の通路を進む。



「ん、おはよう主」

「おはようクロ。ご苦労さま」

「んぅ〜」



しゅぴっ!と天井から黒い影が降ってきたかと思うと、それはしっぽを左右に振りながら駆け寄ってきた。

影の正体は言わずもがなクロ。

頭を撫でると気持ちよさげに声を漏らした。



「クロのメイド服姿はレアだね」

「ん………恥ずかしい」



こんな忍者みたいな動きをしているが、服装はれっきとしたメイド服である。

踊って戦えるメイドさんだ。

とりあえず可愛い。


クロは先程も言ったが、城内の巡回及び警備が担当だ。

夜と昼でクロとイナリが交代交代に担当してくれている。

そのため、今はクロの番という訳だ。

あと一、二時間ほどすればイナリに交代し、クロは仮眠を取るそうだ。

たぶん俺達の中で一番大変だし、神経を使う仕事である。

いくら感覚の鋭い獣人が適正の仕事とは言え、全て任せてしまうのは申し訳なさすぎる。



「大丈夫。主が思ってるほど大変な仕事じゃない」

「でもイナリが涙目だったよ?」

「修行が足りないだけ」



曰く、修行してたら動き回らないでも、王城全体の気配を監視できるくらいにはなるらしい。

正確に言うと異端な気配を感じ取れるとの事だ。


意訳すると…………自動認識センサーみたいな効果を得られるらしい。

だから例え昼寝をしていたとしても、少しでも変な気配を感じた途端、すぐさま動き出すことが可能なそうだ。

なんかもはや異次元すぎる。


まぁそれでも大変なものは大変なのに変わりない。

できる限りクロやイナリの要望には応えて、なるべくストレス無く過ごせるようにしないとね。

今こうしてモフりまくってるのもその一環だから。


こんな感じで、目的の部屋に着くまでひたすらにクロをモフった。




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