第192話 オルメスト王国騎士団






「俺はこの男を認めない!」

「えぇ〜…………」



大勢の騎士が遠巻きに見守る中、目の前に立ち塞がったイケメンがビシッと俺に指を向けてそう言い放った。

初対面なのにいきなり指さすとか、普通に失礼だなこいつ…………。




さて、どうしてこんな事になったのか、だが。



交渉を終え、ちゃちゃっと準備を済ませた俺達は村人達にしばしの別れを告げ、王都へと転移した。

今は王城に入って、たまたま訓練所の横を通り掛かったところだ。

本当ならここは素通りして、護衛対象である王女様に会いに行くはずが、どこから聞きつけたのか訓練していた騎士の一人、生真面目そうなイケメンこと"ケルン"が待ったをかけた。


彼は騎士団長、副騎士団長に続く実力の持ち主で、その真面目で仕事に対して全力な姿勢と、それにともなった実力が評価され、入団から数年で現在の地位まで登り詰めたハイスペックイケメン。

法や規律を重んじ、それを破った者には容赦しないという一面もあるものの、尊敬する存在たる王には並々ならぬ敬意を払って仕えているのだとか。

そのため皆からの信頼も厚く、次期騎士団長候補とまで言われている。

おまけに身長も高い。


ちなみにまだまだ現役である現騎士団長のカルマとは幼なじみらしい。





そんな彼がなぜ、わざわざ敬意と畏敬の念を持つ王を引き止めたのか。

当然理由は俺だった。

でも正直、今回に関しては引き止められても仕方ないと自分でも分かっている。

何せ任務が任務なだけに人数が必要で、今回はノエル達にも付いてきてもらっていたのだ。


つまり俺は今、六人の少女達を連れている。

彼が尊敬する王の横で、敬意なんて一ミリも感じられない態度をしてる。

そりゃあ怒りたくもなるだろう。

特に彼のような性格の持ち主なら尚更だ。

ぶっちゃけるとこう言う性格の人は少し苦手なのだが、全面的に俺が悪いので何か言うつもりは全くない。




さて、どうしたものかねぇ…………。


一応護衛の件はどうせなので、先程ルイスの口から騎士達に話してもらった。

もちろんちゃんとした発表はまた後で。

詳しいことはまだ話せずにいる。


身分は謎、実力は確か。

もちろんそんなので納得出来るわけがないだろう。

さっきからケルン君の鋭い眼差しがグサグサ刺さって痛い。

これは今逃れても、今後さらに面倒くさくなるパターンだ。

後ろの騎士達も今は黙っているが、何か不満があるかもしれない。

当たり前だ。

急に見知らぬ男が現れ、大事な王女様の護衛をするというのだ。

信頼できるはずがない。

この前の賊の一件があったなら尚更の事。

ううむ、ピリピリするのは嫌だなぁ。

カルマも頭抱えてるし…………。



「…………よし、ここは一丁勝負するのはどうだ?マシロ殿とタイマンすりゃあ、お前も実力が理解できるだろうよ」

「確かに俺より弱ければ話になりません。ですが、実力があれば良いと言う話でもない。彼は何者ですか?」



先程も言ったが、ケルンはカルマ達に次ぐ実力の持ち主。

彼が認め、カルマ達が後押しすれば少なくとも猛反対はされないはずだ。

…………………実力と言う一面においては。

実力は申し分無し。

でも身分は謎です。

そんな人、一般企業でも中々雇ってもらえないはずである。

実力だけの人間なんて、表にも裏にもわんさか存在するのだから。


副団長グルサスの言葉に頷いたものの、的確に痛いところをつく返答に思わず閉口してしまった。

グルサスはちらりとカルマに目を向ける。


"言ってしまっても構わないのか?"と確認のジェスチャーだ。

抱え込んでいた頭を離してため息を着くと、カルマは重い腰を上げて騎士達全体を見回す。

自然と彼らを束ねる騎士団長に視線が集まった。



「この人は、俺の師匠なんだ。こんな見た目だけど、実力で言えば俺達より圧倒的に上だよ」

「…………!?この男が?」



騎士達からざわっと声が上がる。

どうやらケルン君もこれには驚いたらしく、驚愕で目を見開きながら俺を見つめる。

ううむ、見定めるような視線はあんまり好きじゃないんだけどな…………。


まぁこれで実力に関しては騎士団長からお墨付きを貰った事になる。

若干気になる一言は混じってたけどね?


何が"こんな見た目"だよ何が!

悪かったなちっちゃくて!

てかカルマも人のこと言えないだろ、身長百六十センチ仲間!



「後は身分だけど……………身分………?」

「ちょいまち、そこで間を作ったらあかん」

「でも師匠、身分って言ったって……………あ、前国王陛下に公爵位をたまわっていませんでした?」

「いや、あれは結局断ったからなぁ…………」

「いっそもう"草原の剣聖"だって言っちまえば良いじゃないんすかね」

「うん、今グルサスが言っちゃったね。まぁ隠したい訳じゃないけどさ」



俺達がコントじみた会話をしているうちに、さらにざわつきが大きくなった。

おっと、草原の剣聖の名はどうやら王国騎士団の間にも広まっていたらしい。

効果はてきめんだった。


騎士団長の師匠、"草原の剣聖"、過去に公爵位を与えられた経験あり。

これだけで結構身分の証明にはなるのではないだろうか。


実際に後ろで控える騎士達のうち八割が一旦剣呑な気配を収め、一割が未だ疑いの視線。

そして残り一割は、"草原の剣聖"のファンだったらしく何やら話しながらうずうずしていた。

とりあえず見なかった事にした。



さて、当のケルン君だが、彼はまだ納得していない派のようだ。



「なるほど…………でしたらグルサスさんの言う通り、模擬戦をしましょう。そこであなたの真意を試させていただきます」

「…………おいケルン、さすがに師匠に失礼──────」

「カルマ、いいよ。その模擬戦、受けて立とう」





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