第164話 後日談






窓から暖かな陽の光が差し込む穏やかな朝。

珍しく早起きした俺は欠伸をしながらリビングの扉を開ける。



「あ!シロ様おはよう!」

「お、おう。おはよう」



なんか、凄いナチュラルにエプロン姿のミリアが居て驚いた。

ううむ…………やっぱり何回見ても慣れないな……。


この新妻感が半端ない光景は実は数日前から続いており、毎度見かける度に色んな意味でドキッとしてしまう。

ミリアは持っていた小皿を机に置くと、そのまま腰を下ろしてソファーに座った俺の内側にすっぽり収まる。



「これ、アイリスさんに教えてもらって作ったの。食べてくれる?」

「もちろん」



まさかのミリア手作りのクッキー。

早速手を伸ばそうとするが、その前にニッコリ微笑んだミリアがあ〜んしてくれたので、それをパクリと一口。


めっちゃ美味しい。

凄いな、ミリアがお菓子作りが得意なタイプだったとは。

もはやここだけ見るとただの女子力の塊なんだが。

なんか最近、オシャレにも気を使うようになったみたいだし…………。

あの"シロ様"ってのも、自分だけの呼び方が欲しくて考えたそうだ。

あのつんつんしてたミリアはどこへ行ったのやら、完全に俺を仕留めに来ている。


やはりミリアはあの戦い以降変わった。

もちろん良い方向で。

だが────────。



「疑いは晴れたんだし、それ外せばいいのに」

「もう、また言ってる。良いのよこれは。むしろ"私はシロ様のものだ"ってアピールできるもの」



覆い被さるように後ろから回していた俺の腕をギュッと抱きしめ、ミリアは愛おしそうに自身の首輪に触れる。



「…………最初はさっさとこれを外して、皆の仇を取りたかったわ。でもね?」



一旦言葉を切って上目遣いで俺を見つめ、クスリと微笑むと。



「皆が"本当にそれを望んでいるか"、って考えたの。で、少なくともお父さんとお母さんは、私が幸せになることを望んでるんじゃないかな〜、って」

「……………まぁ、そっちの方が危なくないもんな」



俺はミリアを両腕で抱き寄せ、ポンポン頭を撫でながらソファーに背を預ける。

最初は驚いて目を見張っていたミリアも、すぐに幸せそうな表情で身を任せた。

お互い何も喋らない。

しばらくの間、俺とミリアの間を静寂が支配した。



「ふわぁ…………おはようございますぅ…………って、ミリアちゃんだけずるいです!主様、私も混ぜてください」



これまた珍しく早起きのリーンが扉を開けて俺達を見つけるなり、頭部のアホ毛をピクリと反応させていそいそ俺の隣に座り、その豊満な胸に腕を埋めてご機嫌そうに笑みを浮かべる。

こてんと頭を俺の肩に乗せるのもまた可愛らしい。


……………が、若干まだ寝ぼけているせいか、いつも以上に無防備に押し付けられる胸の破壊力は非常に可愛くない。

もちろんパジャマから覗く谷間も。

平静を保つのだけでもすごく大変だ。


いやでも逆に、この柔らかさに抗うのなんて普通無理だって。

健全な男子たる俺が無反応を決め込むなんてのは夢のまた夢。

なんなら今だってこのまま揉みt──────はっ!

いかんいかん、こんな朝っぱらから何考えてるんだ俺は。


内心で欲望を殴り飛ばし、何とか耐え抜いた理性で【ストレージ】を開く。

実は二人に渡したいものがあるのだ。


何もしてなかったら、またひょっこり欲望君が顔を出すかもしれないからね。

こういう時は他のことをして気を紛らわせるべきよ。


ちょうど良いタイミングだし………………ってやべ、開いたはいいけど取り出せない………。

両腕が幸せな感触に包まれていて動かせなかった。

これは予想外。

しょうがないので、残念そうな顔をする二人に一旦離れてもらい、目的のものを取り出して机の上に乗せる。



「ネックレス、ですか?」



そう、机の上で光を反射して輝くのは二種類のネックレス。


片やミリアが手に取ったのは、グラジオラスと言う花を模した赤とピンクの宝石がはめ込まれたもの。

もう片やリーンが眺めるのはハートの形をした、ピンクの宝石をリングが囲んだフルエタニティリング状のもの。


どちらも自作のアイテムである。

これには魔力の保管や魔法の威力を増幅する効果などがあり、いわゆるブースターの役目を果たす優れものだ。

もちろんその他にも色々と便利機能はあるのだが、一番大事なのはそこではない。



「ノエル達にも同じようにプレゼントしたんだ。……………………その………として……」

「へぇ………………………え?」



「きれい………」と呟きながらネックレスを眺めていたミリアが、少し間を空けてから気の抜けた声を漏らし、きょとんと俺を見つめる。

まだ思考が停止しっぱなしなのか、イマイチ状況が頭に入らずポカンと口を半開きにしている。


そんなに見られると恥ずかしいんだけど……………。

思わず視線を逸らすと、ちゃっかりネックレスを手にまだかまだかと待ちきれない様子でソワソワしているリーンと目が合った。

………………………無言でネックレスを受け取り、リーンの首にかけて首輪の隙間から下に通す。

自身の首から垂れ下がる宝石を再び手のひらに乗せ、リーンはうっとりとそれを見つめる。


さて、後はミリアだが…………。

視線を戻す。

ミリアはあわあわしてた。

やっとこさ全てを理解し、それでも尚、どうしていいのか分からず右往左往。

反応が実に可愛らしい。


狼狽うろたえるミリアは言われるがまま俺にネックレスを渡し、付ける間も頬を赤く染めてしおらしくモジモジしていた。

だが、肌に宝石が当たって改めてその存在を実感し、次第に頬が緩んでいった。



「ふふっ、これで二人そろって主様に嫁入りですね」

「そうね…………幸せすぎて、まだ実感が湧かないわ……」



俺の腕をギュッと抱き、心底幸せそうにはにかむミリア。

うむうむ、二人とも喜んでくれて何よりだ。

丹精込めて作ったかいがあるってもんよ。



「では主様。約束通り、今夜は二人共々、いただけますね?」

「──────────ふえ!?」

「………………………おう」



驚愕で奇声を発したミリアを前に、俺はたっぷりと間を空けてから頷いた。








          ◇◆◇◆◇◆







時は進んで夜中。

辺りはすっかりと真っ暗になり、廊下も唯一の頼りである明かりが消えると何も見えない状態になってしまう。

そんな中、俺は扉の隙間から光が漏れる部屋の前に突っ立っていた。


心臓の鼓動がバクバクうるさい。

相変わらずこういうのは慣れん……………いや、てか慣れたらダメだろ………。


この薄い扉の向こうに二人が待ってる。

たぶん向こう側でも俺が来たのは分かっているだろう。

深呼吸。

何とか高鳴る鼓動を抑え、進めば明日まで引き返せないであろう扉を開けて中に入った。



「ごめん、おまたせ─────────ってえぇ!?ちょ、なっ…………!?」



部屋に入って早々、俺は目の前の光景に言葉を失った。

……………………一応言っておくけど、イナリの時みたいに奇怪な格好をしてたとかそういう事じゃないからね?



「お待ちしていました、主様。どうでしょうかこの衣装。二人で一生懸命選んだんです」

「うぅ………やっぱり恥ずかしいわ………」



そう話すリーンとミリアはなんと、艶めかしいネグリジェ姿だったのだ。

しかも生地が極限まで薄いシースルーのやつだから肌が透けてて色々とヤバい。

微塵も恥ずかしがらないどころか、むしろぺろっと裾をめくって中を見せてきたリーンのは水色のネグリジェ。

圧倒的に生地で隠された面積が少なく、その豊かな胸とむっちりした太ももを惜しげなく晒した姿はとにかくエロい。


対してそんなリーンの後ろからひょっこり顔を覗かせるミリアが着ていたのは、前面がはだけて可愛らしいおへそが覗く、薄いピンクのベビードールに近いもの。

控えめの胸と細い腰周りが強調され、なんと言うか…………………危うくそっち系に目覚めそうになるほどエロ可愛かった。


リーンのように堂々としているのも妖艶で大変素晴らしいが、ミリアみたいに恥じらっているのもまた……………。

たまらずゴクリと喉を鳴らした俺を見つめて艶然と微笑むと、早速二人して俺の手を引いてベットへといざなう。



「主様…………さあ、夜が明けるまでたっぷりと愛し合いましょう?」

「まだ下手くそかもしれないけど、頑張るから………………その、私もいっぱい愛してね……?」




ベットの上に寝っ転がり、ネグリジェをはだけさせた二人を前に、俺の理性なんぞ無に等しかった。





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