第160話 造られた真実(2)
俺は顔を上げたミリアの目を見つめ、先程の願いに応えるべく───────。
おでこに狙いを定め、ジト目でデコピンをお見舞いしてやった。
中指でやる超痛いやつ。
バチコーンッ!!
と、それはもう綺麗な音と共に、シリアス展開ごとミリアの頭部を激しく仰け反らせた。
「いっ───────!?あ、あんた、こんな時に何すんのよ…………!!」
あまりの痛みに悶絶して転げ回っていたミリアが復活し、ものすごい剣幕で力強く胸ぐらを掴んでくる。
内蔵が傷んでいるのか「ごほごほっ」とせきこむ。
しかし、その瞳にもう影は無い。
と言うかむしろ俺に対する怒りで燃えてる。
「だいぶ楽になったんじゃない?」
「え…………?あ、ほんとだ…………」
きっと体力的な意味でも
回復魔法で内蔵やら骨やらを修復し、
「さっきまで精神に干渉する魔法で、良いように煽動されてたみたいだね」
「ちっ」
おっと、エビルから舌打ちが聞こえたので図星のようだ。
確かに他者を取り込む時、相手の自我や意志が弱ければやり易いことこの上ない。
まぁ今回のはあまりにも過剰すぎると言わざるを得ないが。
たぶん、わざとえげつない風にやってたんだろうな。
本当に性格が悪い。
「ミリアが埋め込まれてたのは"罪悪感"。あいつが言ってた事は気にしなくていい、あんなの完全に責任転嫁だ。ミリアは悪くない」
「……………っ!で、でも………あいつが故郷に来た原因を作ったのは………私のせいで…………!」
再び瞳に影が指しかけたミリアの腕を掴み、問答無用でこちらを向かせる。
「思い出せ、本当の記憶を。あいつに造られた物じゃない。頭の奥底に眠ってる」
「ちょ、近いわよ………!だいたい本当の記憶って、何言って───────」
突然、言葉を切ってミリアが顔を顰めた。
頭痛。
(頭の奥がズキズキする……………痛い………。何よこれ…………!)
「落ち着いて。ゆっくり、思い出すんだ」
「ちっ!させるかァ!」
さすがに黙って待っていてはくれないか。
漆黒を纏った大剣を振り上げ、エビルが突っ込んできた。
頭を抱え痛みに耐えるミリアをそっと降ろし、間近まで迫った大剣を手の甲で
浮かぶ驚愕の表情を見据え、漆黒とは相反する純白を纏った拳でエビルの頬を殴ってぶっ飛ばす。
神気による一撃。
まだ〈絶界〉によって拒絶されぬ最初の一撃。
だがこれ以上は効かないだろう。
まぁもともと倒す気なんてない。
威力は限界まで下げて、とりあえず時間稼ぎのために遠くまでぶっ飛ばした。
たぶんあいつの性格なら一直線に戻ってくるはずだ。
「…………あ、あの日………私は本当にあそこに居たの……………」
「もう少し時間がかかるか………?」
「─────────でも…………でも、封石を割ったのは………………」
俺はミリアがブツブツと口に出したその言葉を耳にした途端、ピクリと反応した。
──────────────あの日。
例の祠が気になって行ってみたら、そこには鎧を着込んだ
見たことない鎧。
子供の好奇心を十分にくすぐった。
しかし、近づこうとした瞬間。
"なっ!?"
"馬鹿野郎!何してる!"
"逃げるぞ!"
兵士の一人がうっかり封石を割ってしまった。
中から溢れたのはナニか。
それは一目散に逃げ出した兵士達には目もくれず、岩陰に隠れた少女へと───────。
気がついた時には空が暮れていた。
前後の記憶が不自然に無くなっていて、その時は壊れた封石を前に自分がやってしまったと思い込み、そのまま記憶の一部として今まで。
「………………うそ………」
「本当。ちなみにあいつに同類を感じ取る能力なんてのも無いから。あいつがミリアの故郷に現れたのは、自分が狙っていた力を何者かに横取りされて、それに怒って手当り次第周辺の国を滅ぼして回っただけ」
最近、二つの国が半壊した。
どちらも滅びたミリアの故郷に隣接する国だ。
今では復興も進みだいぶ落ち着いてきたらしいが、当初はかなり酷かったと聞く。
だが、一つ怪訝な点がある。
「一国だけ、全く被害を受けてない国があるんだ。どこか分かる?」
「………………………私を、奴隷にした兵士達の国」
ミリアは震える拳を力いっぱい握りしめる。
記憶に出てきた兵士達。
彼らの鎧もまた、その国の紋章が刻まれており──────。
裏で"破邪の魔王"と繋がっているのか。
だとしたら大騒ぎだ。
国と魔王が繋がっているなんぞ大大大事件。
そして仮にそうだとしたら、なぜ封石を壊したのか。
疑問はたくさん湧いて出てくる。
だが、今はひとまずどうでも良い。
「……………………確認するわよ」
「おう」
「封石の封印を解いて、故郷が滅びるきっかけを作ったのはあの兵士ども。エビルが言ってたのはほとんどがでまかせ…………って事で良いのよね?」
「ああ。もう一度言うけど、ミリアは悪くない」
「そう」
端的に答えると、ミリアはぐしぐしと涙を拭って立ち上がり、傍らの片手剣に手を伸ばす。
「ねぇ、あんた。私はどうしたら良いのかしら…………。死ぬほどあいつが憎いわ。でも、悔しいけど、私じゃあいつに勝てない……………」
「そんな事ないさ。それはスキルが今のままだったらの話だ」
「え………?」
ミリアのスキルはまだ
これからどんな風にも進化する。
だけどそれは使用者の実力、そして精神次第。
高潔な魂の持ち主ならそれが顕著にスキルに反映され、邪悪な気持ちでいっぱいなら、当然その方向へとスキルは堕ちて行く。
一心同体なのだ。
特にユニークスキルともなると一層。
だからエビルは〈絶界〉で
このまま怒りと憎しみに任せれば、ミリアもその道を辿ってしまうのではないか。
出会ったばかりの頃ならそう考えていただろう。
しかし、今は───────。
ドゴォン!!
遥か向こうで土煙が立ち上った。
飛び出してきたのは全身に漆黒を纏い、明らかに数段パワーアップしたエビルだ。
どうりで遅いなと思ったら…………。
「ミリア、自分の魂を感じるんだ」
「記憶の次は魂って…………もう少し分かりやすいのにしてくれればいいのに」
「!?」
「ふふっ、冗談よ」
「あれ。もしかしてミリアさん意外と余裕ある?」
おーい…………。
俺を無視して目を閉じたミリアは、迫る恐怖の気配にも頬を撫でる生暖かい風にも目もくれず、己の深淵へと手を伸ばす。
無視は若干悲しいがまぁ良しとしよう。
俺はミリアの背中に手を添えて、ピクリと反応した体に神気を流し込む。
「っ!?あんた、こんな時にセクハラとはいい度胸してるわね…………」
「無駄口叩かない。これで少しは簡単になったはずだけど?」
「………釈然としない…………」
罵倒の代わりに足を踏まれたかいもあって、どうやら無事に掴んだらしい。
エビルはもうすぐそこまで迫ってる。
目を見開いたミリアは一歩前に出ると。
「………………ねぇ、あんたさ…………」
「ん?」
「私が
不安げな声色。
"国を敵に回す"、か。
…………………俺はため息気味に肩をすくませ。
「何言ってんだ、当たり前だろ。見捨てる訳ないっての」
むすっとした表情から一転、目を丸くしたミリアは「あんたらしいわね………」と呟いてくすくす笑い声を上げた。
笑いすぎて涙まで出ている。
そんなに…………?
別にウケを狙って言った訳じゃないんだけども。
ミリアは最後にどこかつっかえが取れて晴れ晴れとした顔で微笑み、再び正面のエビルを見据えて深く深呼吸。
次の瞬間。
膨大な深紅の閃光が迸った。
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