第139話 王都に転移





「あ」

「え」

「きゃっ!?」




三者三様の驚きを荒野に残し、シュンッ!と姿が掻き消えた。

一時的に視界が真っ白に染まり、続いて徐々に鮮明になった景色は王都の見慣れた街並みだった。

どうやらメインストリートの脇道に転移したらしく、日差しの差す向こう側からは賑やかな人々の声が聞こえてくる。



「出来たね…………」

「ですね…………一体何が原因だったのでしょう」



俺とリーンは首を傾げつつ、思わず顔を見合わせる。

少女に着替えをさせた後、散々抵抗する少女を何とか王都に店を構えるダグラスさんに引き渡すべく試行錯誤している過程での事だ。


フシャー!と爪を立てて、気性の荒い猫のような抵抗をする少女をどうやって王都まで連れて行くか。

触ろうとすれば当然引っ掻くし、割と普通に接しているリーンに交渉を頼んでも中々話は進展しなかった。

何も無い荒野のど真ん中なので時折魔物が襲って来たりもして、さすがにいつまでもここには居られない。


そこでふと思い立った。

"転移魔法で行けば良くね?"、と。

文句を言われる前に問答無用で王都に転移すれば触れなくて済む。


しかし今、なぜかは知らないが肝心の転移魔法は使えない。

前言ったように転移する直前にノイズが走ってキャンセルされてしまうからだ。

それが少なくともダグールに着く前までは続いていた。

だけど今もそうかは分からない。


まぁものは試しだ。

転移出来なかったら出来なかったで何とかするし、とりあえず試してみよう。









で、今に至る訳で。

まさか成功するとは……………。

座標の設定はお粗末なものだが、転移自体はちゃんと出来ている。

う〜む、マジでどういう基準で転移が阻害されてるのかがイマイチわからん。



「えっ、え!?ちょっと、どこよここ………!」

「ぐえっ!?」



転移は初体験らしく取り乱した少女が俺の服の襟首を掴み、ぐわんぐわんと前後に揺さぶる。

元気だなぁ。



「どこって、王都だよ。王都アインズベルン」

「はぁ!?」



いや、"こいつ何言ってんの?"みたいな顔されましても……………。

少女が疑うような眼差しでじーっと俺の事を見つめる。

転移魔法が使える人なんて相当限られてるし、突然王都に連れて来たと言われても疑いたくなる気持ちは分からなくもない。


まあまあ、自分の目で確かめてみれば良いじゃないの。

もはや俺への抵抗よりも戸惑いが勝ったらしい少女の背を押して、光の射すメインストリートへとを進める。


両側を建物に挟まれた脇道を出て視界が開け、がやがやと喧騒の絶えない王都の街並みを前に少女が面食らったように息を飲む。

まさか、本当に王都に転移していたとは夢にも思っていなかったのだろう。

不意をつかれて唖然とその景色を眺めていた。

良い反応をありがとう。




さて、無事に転移も成功した事だし、早速ダグラスさんの所に…………………ってあれ、事前にアポとか取ってなくて大丈夫かな?

なんか割と忙しいらしいし……………。

どうしよう、そこはちゃんと考えておくべきだったな。

もしダグラスさんが居なかった場合、わざわざここまで来た意味が無い。


そもそもなぜこうしてまで王都に来て、少女をダグラスさんに引き渡したかったかと言うと、今も少女の首元で黒光りする"隷属れいぞくの首輪"が理由の一つだ。


改めて、あれの効果をおさらいすると。



・"隷属の首輪とは奴隷の証であり、主と奴隷を繋ぐ大切な媒体"。


・"対象が奴隷であることを示す印は首輪に刻まれ、奴隷商が保有する特殊なスキルと魔道具でのみ上書きが可能"。


・"首輪にはとある魔法が刻まれており、自分で首輪を取ったり主を攻撃したり出来ないようになっている"。


・"奴隷の譲渡または売買、印の上書きは成立する。また、この制約は魔法によって厳守される"。




お分かりいただけただろうか。

そう、問題は最後の"主の許可があった場合のみ"ってやつだ。

確かにさらってきたなど不当な奴隷の売買を避けるためには必要不可欠であるが、では、そのはどうするのだろう。


基本は奴隷と契約した際に主が書いた遺書に従い、まあ色々と道はある訳だが、今回はそうも行かない。

何せ最後に首輪に登録していたのは仮の主である奴隷商で、当然遺書なんて残していない。


こういう時はどうするのか。

残念ながら俺はあまりこっち方面の話は詳しくない。

やはりプロに頼るのが一番だ、という訳でして。

さすがにこんな子供を荒野に一人置いてく訳にも行かないので連れては来たが………………。








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