第22話 王都への旅路(2)





「うわーっ!すげぇ美味しそう!」

「マシロお兄ちゃんもアイリスお姉ちゃんもすっごーい!」


「ふふふ、驚くのはまだ早いよ諸君」




辺境の地で奴隷として働いていた時は、こんなに豪華なご飯を食べた事はなかったという。

基本、パサパサしたパンや携帯食のようなものだったようだ。


そんな彼らからすれば、ただのシチューでも一生に一度ありつけるかどうかのご馳走に感じるのだろう。



だが甘いな!

これで完成ではないのだよ!


首を傾げている子供達の横で、【ストレージ】からおもむろにある食べ物を取り出す。

そう、それこそは村で買っておいたふかふかのパン。


俺はこれを熱々のシチューにひたしてハフハフしながら食べるのが、シチューの食べ方で一番美味しいと勝手に豪語している。

が、アイリス含め子供達には上手く伝わっていない様子。



「えぇい、食べたら分かるよ!」

「そういうものなんむぐっ!?」



何か言おうとしていたアイリスの口に、シチューとひたひたのパンが乗っかったスプーンを突っ込む。

きっと口で言うより実際に食べてもらった方が早いはずだ。


良い子は真似しちゃだめダヨ!




最初は突然の俺の行動に目を白黒させていたアイリスだったが、すぐに口の中に広がる美味しさに気を取られて、目を輝かせながらもっもっ、と口を動かす。

その様子を不思議そうに眺めていた子供達にも食器によそったシチューとパンを渡し、浸して食べてもらう。


するとどうだろう。

恐る恐る浸したパンを口に入れた子供達が一度停止し、すぐに復活した彼らは競うようにシチューとパンを平らげていく。

どうやら皆にも気に入ってもらえたようだ。


うむ、ご飯にシチューをかけるのも王道で大変美味しいけど、やっぱり一番はパンだよなぁ………。



あっという間に一杯目を食べ終え、おかわりさえも次々と胃に収める子供達。

中には泣きながら食べている子もいて、少し複雑な心境になったのは内緒だ。


こんなに小さな子供達が過酷な環境で労働を強制されていたと思うと…………。



今だけはいい思いをさせてあげたいと思うのは俺の偽善だろうか。

まぁたとえ偽善だとしても、やらない善よりやる偽善。

何もしないよりは良いのかもしれない。




人数も人数だったので鍋の中のシチューは一瞬で無くなり、最後の一口までうまうまと食べた子供達は満足気な顔でとこに着いた。

熱々のシチューのおかげで体の芯まで温まったため、食べ終わってすぐに眠たそうに目をこすっていたのだ。


きっと今日一日に色々とあったせいで疲れたのだろう。

食後すぐに寝るのは健康上あまりよろしくないが、今日くらいは何も言わずに寝かしてあげよう。




むにゃむにゃとヨダレを垂らしながら寝る子供達に、【ストレージ】から出した掛け布団をそっとかぶせ、音を立てないように馬車の荷台から降りる。


今回ので改めて思ったけど、本当に【ストレージ】って便利ね…………。

次からあらかじめ色んな物を入れておこうかな。


整理は面倒だが、何か緊急事態があった時にすぐに取り出せれば便利なことこの上ない。



「マシロさん、ありがとうございます………。皆はちゃんと寝れていましたか……?」

「うん、ぐっすり寝てたよ。よほど疲れてたんだろうね………」



子供達を起こさないように声のボリュームを下げて話しながら、アイリスの隣に座って、パチパチと音を立てて燃えるき火を眺める。

さて、万が一にでも魔物に襲われたら大変だから、今のうちに〈気配感知〉を発動させておいちゃおう。



スキルを発動させて、マップを自分にだけ見えるように可視化する。

えっと…………うん、どうやら今は近くに魔物はいないみたいだ。


少なくとも半径数キロ圏内には、魔物の反応を示す赤色のアイコンは表示されていない。



「マシロさん。改めて、今日はありがとうございました」



アイリスは焚き火に向けていた体を少し俺の方に向け、改めてそう感謝の意を示した。


律儀りちぎな子だなぁ………。

ちゃんと昼間に"ありがとう"はたっぷり貰ったから、もう気にしなくていいんだよ?

当たり前のことをしたまでなんだからさ。



「いいえ、そういう訳には行きません…………。もしあそこでマシロさんが助けてくれなければ、私も子供達も、きっと死んでいました。マシロさんは命の恩人なんです。むしろこれでも足りないくらい、いっぱいいっぱい感謝しているんですよ?」


「むぅ…………そう言われるとなんか照れる」

「うふふ、可愛い反応ですね……。あの時は、颯爽さっそうと現れて……かっこよかっ…たけど………かあいぃ……一面………もぉ…………すぅ………」


「おろ、寝ちゃったか」



徐々に呂律ろれつが回らなくなり、ついに眠気が限界に達したのか、こてん、と頭を俺の肩に預けたアイリスは静かに寝息を立て始めた。


無防備であどけない寝顔に思わずドキリとしてしまう。

周りには悟らせないようにしていたが、きっと彼女自身も疲労が蓄積していたのだろう。


そりゃそうか、あの子達を拾いに行って、長い馬車旅で疲労が募る中あれだけの敵と戦っていたのだ。

ゴーレムとの戦いで結構魔力を消耗してたっぽいし、逆によく今まで普段通りに行動できてたな…………。


本当は交代交代で見張りをするつもりだったんだけど、こんなに気持ちよさそうに寝てるアイリスを起こすのは忍びない。

今日はこのままぐっすり休んでもらおう。







          〜次の日〜




「………んぅ……あふ……………」



馬車の方からそんなむにゃむにゃした声が聞こえてきてから少しすると、黒髪少女のステフが眠たそうに目を擦りながらやって来た。


子供達の中で一番早起きなのは彼女だ。

他の子供達はまだ馬車の中で気持ちよさそうに寝ている。


しかしまだステフもちゃんと夢の世界から覚めれていないようで、ふらふらしながら俺の隣に座ると、俺の腕を抱き枕にまたすやすやと寝息を立て始める。

迷いのないその行動に思わず苦笑してしまった。



「…………ふわぁ………おはよう、マシロ兄…………」


「ん、おはよう、ミル」

「…………マシロ兄、大人気だね」

「もうほとんど動けないけどね…………」




続いて欠伸あくびをしながら起きてきた少女ミルが、自身のくせっ毛をいじりながらステフの隣に座って笑顔でそう言う。


大人気なのは嬉しいのだが、こうなると一切動けないのでそれは考えものだ。

あと片方から異常なまでに感じる柔らかすぎる感触も!


むしろこれを一晩中耐えてた俺を褒めて欲しい。

ミルには寝起きで申し訳ないけど、二人が起きるまでは俺の話し相手になってもらおう。



「………むにゃ……………んぅ、マシロさぁん………」


「………マシロおにぃちゃん……あぅぅ…………」



俺とミルがこそこそ話している間に、そんな寝言を口にしながら幸せそうに頬を緩ませて眠る

両腕をアイリスとステフに塞がれた俺は、そのまま二人が起きるのをミルと話しながら静かに待つのだった。



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