第21話 王都への旅路






「時間も時間ですし、今日はここで野営しましょっか♪皆、お料理の準備を手伝ってくれる?」


「「「「はーい!」」」」



アイリスがそう言って馬車を道の端に寄せると、子供達の元気な返事が後ろの荷台から帰ってくる。


辺りは既に薄暗く、あと三十分もすれば夜闇に飲まれて視界が遮られてしまうだろう。

それまでに焚き火をやっとかないとな……..。


手網を握るアイリスの隣に座っていた俺は、止まった馬車から降りて野営に必要な道具を荷台から下ろしながら、数時間前にアイリスから聞いた話を思い出していた。





無事に近くにあった町の警邏隊けいらたいに盗賊を引き渡した後、感謝と共に語り始めた彼女の話を要約すると。



アイリスは王都に店を構える奴隷商の保有する奴隷の一人で、普段は商品の奴隷ながらオーナーの補佐として働いていた。

本来、言い方は悪いが売られる身である彼女とは無縁の役職だ。


しかし、アイリスの場合は奴隷になった経緯が少し特殊なのと、その技量を買われて補佐として抜擢ばってきされたらしい。

そのため他の奴隷に比べて行動の制限がほとんどなく、奴隷としての基本的な制約以外は無いに等しいそうだ。



また、エルフという種族であるが故に魔法が得意で、容姿も端麗ときた。

当然彼女を買おうとする客は多いものの、オーナーは何かと理由を付けて断っているそう。



そしてつい二週間ほど前、アイリスとオーナーの元にこんな知らせが入った。

"とある辺境の地が魔物の群れに襲われて壊滅し、たまたま近くの山に駆り出されていた奴隷達が運良く生き残っている"、と。


それがこの子達だ。


オーナーはすぐさま奴隷達を回収することを決意し、アイリスが派遣された。

報告通り無事だった奴隷達を保護したのは良いものの、王都に帰ろうとした矢先に盗賊に襲われてしまった、との事だ。



…………盗賊達には是非とも空気を読んで欲しい。

結果的には俺が間に合ったけど、もし王都に向かうのが一時間…………いや、数分でも遅ければ子供達はもれなく命を落としていただろう。


だいたい魔物の次は盗賊って、この子達が可哀想すぎる。

とても怖い思いをしたはずだ。




ちなみに"オーナーさんは優しい人だね"、って言ったら、苦笑いのアイリスいわくオーナーさんは商魂たくましい人で、今奴隷を見捨てるメリットと助けるメリットを比べて、助ける方が後々に得だと考えたからアイリスを送ったらしい。


な、なるほどね…………まぁ結果としてこの子達を助けたことには違いないし…………。




そしてこのあと色々と話して知ったのだが、そのオーナーさんとは俺の持っている機密文書の届け先でもあるダグラスさんだった。

まさかの偶然に二人して驚いたのは言うまでもない。


アイリスに頼まれたのもあり、ついでなので俺も馬車に乗って護衛しながら王都に向かうことにした。

時間はかかるけど、たまにはのんびり馬車に揺られるのもいいだろう。



と言うか、子供達が期待した表情で服の袖にしがみついてた時点で、俺に拒否する権利はもう無かった。




閑話休題かんわきゅうだい



暇だと思ってあげた遊び道具の争奪戦で盛り上がっている子供達を尻目に、俺とアイリスは二人して料理に勤しむ。



「げ、野菜切るのミスった。アイリスは…………うまっ!?すごいね、アイリスって料理もできるんだ」

「ええ。一応これでも、ダグラス様の食べるお料理は私が作ってますから」

「マジか。こんな美少女の手料理を毎日食べられるとか、ダグラスさん羨ましすぎる」



そう、アイリスは超絶美少女さんなのだ。

エルフ特有の美しい金髪碧眼で、男どころか女性さえもとりこにしそうなくらい容姿も端麗。


スカートから覗くムチッとした魅惑の太ももと、何とは言わないけど自己主張の激しい二つの膨らみがものすごい。

いや、ほんとすごい。


さらには高い家庭的な能力も兼ね備えるハイスペックぶり。

十人に聞けば九人が嫁にしたいと確実に言うレベルの女の子だ。



これで十六歳とか、将来は一体どんな魔性の女性になるのだろうか………。


ま、もちろん可愛さで言えばうちのノエルの方が上だけどね!

結局はノエルしか勝たんのよ。



「あはは………マシロさんは本当にノエルさんの事が大好きですね」

「まーね。もうずっと一緒に住んでるし、お互いがなくてはならない存在みたいな感じかな」

「そうなんですか…………少し、ノエルさんが羨ましいです」



一瞬アイリスの表情に寂しさの影が差し掛かったが、それはすぐに消えて笑顔が戻る。


何となくそれが気になった。

しかし、出会ったばかりの俺がむやみにツッコむのもいかがなものか。

悩んだ末、俺は何も言わずに見なかったことにした。






共に切り終わった野菜や香辛料、俺が【ストレージ】に入れていた豚肉モドキなどをまとめて鍋に入れ、コトコト煮込むこと三十分。

かぶせていた蓋を持ち上げると、真っ白な湯気が溢れ美味しそうなシチューが顔を見せた。


味見がてらスプーンで一口食べる。



…………うむ、いい感じだね。

やっぱりシチューは豚肉が入ってた方が美味しいよなー。

【ストレージ】に保存しといてよかったよ、ほんと。




実は無属性魔法【ストレージ】に入れた物体は、その時点で変化を止める。

つまりは時が止まるのと同じ状態になるのだ。


できたてのスープを入れれば出す時にも同じ状態で湯気が立ち、凍った物を入れれば出すまで溶けることは一切ない。

要するにRPGゲームとかによくあるボックスとかストレージ機能と全く同じ効果という事だ。


そのため、何かを長期的に保存したい場合は【ストレージ】に入れるようにしている。


今回の豚肉モドキは、道中の食事に使おうと思ってたまたま入れてただけなんだけどね。

普段は家に冷凍保存して置いてあります。




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