第11話スタンピード(2)





「俺達はともかく、マシロとノエルちゃんは逃げなくていいのか?今ならまだ間に合うぞ」


「逃げないよ」

「同じく、なのだ」



本気で心配するようなシルバのセリフを一蹴。


ノエルを抱え軽くジャンプして建物の屋根に登り、目を細めながら遠くにポツポツ見える黒い斑点のようなものを眺める。

…………〈気配感知〉や五感で感じるのでもやばかったのに、実際に見るともっと圧巻だ。

これはまさに天災そのもの。



「なにせ可愛い嫁が応援してくれてるからね」

「旦那様がいるからなのだ」



えーっと、数は大体二万前後かな。


こんな数の魔物どっから来たんだか………。

わざわざ準備したシルバ達には悪いけど俺達が一気に殲滅せんめつしてしまおう。


この数はちょっと大変だけど、俺とノエルなら一方的に撃退することが出来る範囲内だ。

きっと数十分あれば終わるだろう。


それに、明らかにシルバ達に勝ち目は無い。

死ぬと分かっている戦いに、理由もなく黙って知り合いを行かせるほど俺は人でなしじゃない。



「ははっ、それは頼もしいこった。んじゃ俺も嫁さんが待っててくれるからには────────っておい、マシロ!?」


「真白ぉー!レッツゴー、なのだ!」

「おう!」



返事をしてサッと気持ちを切り替え、屋根に衝撃を与えないように踏み込んで空に飛び上がる。

驚くシルバやネイ達の声はあっという間に後ろに消えた。


一歩で村を飛び出した俺は、そのまま魔物の大群向けてすごい速度で距離を詰める。


む、ノエルが使った結界魔法が起動したな。


巨大な魔力を感じて後ろを振り返ると、ちょうど村がオーロラのような揺らめく虹色の結界に包まれている所だった。

これで村はどんなことがあっても無事だろう、っと。



正面から魔力の気配。



どうやら遠距離攻撃のできる魔物が俺達の存在に気がついたようだ。

途端にあちこちから様々な属性の攻撃魔法が雨のように降り注ぐ。




────────『魔法を斬る?』




俺はふと、修行時代に剣神さんと交わした会話を思い出していた。

修行の課題の一つとして、"剣神さんの放つ魔法を斬る"と言う物が出されたのだ。




『そう。君の行く世界では知る者がほとんどいないけど、魔法には"核"が存在するんだ。魔眼、あるいは神眼(魔力や神気を目に集中させた状態)でそれを見抜き、的確にその核を斬る事で魔法を無効化する事が出来る』


『また難しそうな事を平然と言いますね…………』


『頼むよ、これくらい出来ないと困る。これは初歩的な技にすぎないからね。腕を磨き続け自身のまことの剣に辿り着いたのなら…………この世に存在するあらゆる物質や存在、それどころか概念までも斬れるようになる。本当はそこまで行って欲しいんだよ?』


『…………あの、それって軽く人間卒業してません?』


『まあね。だけど、最近僕とがいなくて暇なんだ。ぜひ真白にはそこまで至って欲しいね』


『ちなみに、どれくらいの年月あればそこまで行けるんですか?』


『ん〜、ちゃんと数えてなかったけど………僕の場合は数百年かかったっけ』



『数百年!?』



『君はすじが良いからきっとすぐに習得できるさ。なんなら僕の後継にならないかい?君なら喜んで剣神の名を──────』


『あー!こら剣神、真白にくっつきすぎなのだ!まったく、修行をしているからと聞いて見に来たら…………怒ったのだ!ワタシはもう怒ったのだ!ワタシもギュッてするのだぁーー!』







……………………………とにかく。


ノエルを背中に移動させて、目の前まで迫った火球を〈魔法剣〉スキル使用状態の黒剣で真っ二つに斬り裂く。

そのまま縦に振り下ろして水刃、斜めにはね上げて岩の塊を。

一歩踏み込んで勢いよく右斜め下目掛けて黒剣を振り切り、放たれた剣閃は正面の魔法をあっさりと消し去る。



修行の末、魔法を斬る事は出来るようになった。

しかも結構簡単に。


あ、もちろんそう簡単に剣の境地までは至らなかったよ?

剣神さんが言うように、これは初歩的も初歩的。

ただ達人技な事には違いないので、この程度と言う表現は正しくないがまだまだ剣神への道は長い。

剣神になる気はないけど。


右目に宿る赤い魔力の軌跡きせきを残しながら、俺は次々に魔法を斬りながら魔物の大群に近づく。


サンダーバイソンにグランドウルフ、あと謎のスライムとかか。

先にあの厄介な遠距離攻撃する魔物達を片付けちゃおう。

遠距離からの攻撃って地味に邪魔だし、あと時々仲間を回復するヒーラー的なのも混じってるから。


視野いっぱいに立ち塞がる魔物の中から何種類かの魔物だけをマークし、剣を構える。




「はあっ!」




それは一瞬の事。


魔物達からすれば、突然姿を消した敵がいつの間にか自分達の後ろに回り込んでいたように見えただろう。

しかも、それを見れたのはちゃんと振り返れた魔物だけ。



あっという間に百を優に超える仲間が血を吹き出しながら倒れ、驚いた魔物達が次々に慌てた様子で足を止める。

さらにラッキーなことに、前の方の魔物は勢いを殺せなかった後ろの魔物達の下敷きになり、結構な数の魔物が自滅した。


よし、これで大幅に戦力ダウンだ。



『ゴオォォォォッ!!』


「おっと!」



脳天目掛けて振り下ろされたごつい拳をかわして、反撃の逆袈裟斬ぎゃくけさぎりで石製のゴーレムを真っ二つ。

さらに突進突きで亀型の魔物の甲羅を串刺して仕留め、真横に引き抜いた勢いで周りの魔物も一斉に斬る。


向こうからザッ、ザッ、と地を蹴る音がしたかと思うと、サンダーバイソンが他の魔物さえも蹴散けちららして、自慢の巨大な一本角に雷をほとばしらせながら突進してきた。



それを左手のてのひらを突っ張って受け止める。


突然止められたことによって有り余ったエネルギーが衝撃波として背後に突き抜け、地面に広く爪痕を残す。

心做こころなしか、サンダーバイソンの目が驚愕きょうがくで見開かれた気がした。


よほど自分がこんなに体格差のある人間に止められたのが信じられなかったのだろうか。

その隙に角を握力で砕き、火属性の魔法で骨まで焼き尽くす。




「ワタシも負けてられないのだ。【雷帝】!」




神の一声によって即座に立ち込めた暗雲から激しくスパークする虎が咆哮を上げながら落雷し、広範囲の魔物を蹂躙じゅうりんする。


さらに黄金の虎はその勢いを衰えず、次から次へと魔物達を飲み込んでは灰に帰していく。

その雷の皇帝を名乗るに相応しい存在感に、後ろでその様子を目の当たりにした魔物達が怯えたように二の足を踏んだ。


おおぅ、相変わらずすごい威力………。

俺も負けてられないな。



「はあああぁぁっ!!」



右に払い、上に振り上げ、真下に下ろす。


さらに進みながら赤い目が六つの狼を突いて、見た目がオーガ的な魔物は魔法で吹き飛ばした。




「剣技スキル、〈オクタグラム〉!」




神速で動くかたわら火属性の魔力を纏った剣で八連撃を繰り出し、その名の通り八芒星オクタグラムが完成。


放たれた紅の剣閃は止まることなく魔物を両断する。



そして、運良くその延長線に居なかったとしても、大気を焼き尽くす紅蓮の業火に巻き込まれ、灰燼かいじんと化す。

風に煽られてハラハラと舞い散る灰はまるでくすんだ雪のようだ。



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