第9話 前兆(2)
「皆さーん!そろそろお昼休憩ですよぉーー!!」
火を見守りながらそんな想像に
彼女はかつて冒険者ギルドの職員をしていたというシゼルさんで、皆と同じく故郷がスタンピードによって滅びてしまった被害者の一人だ。
ここに来てからは新設したこのギルドで開店準備に勤しんでいる。
最近本部との連絡事や書類の業務が多くて大変らしいけど、いつもその合間を縫って働く人達のためにお昼ご飯を作ってくれてくれるのだ。
正直過労で倒れてしまわないか心配ではあるが、非常にありがたい。
皆、毎日シゼルさんのご飯を楽しみに仕事をしてるくらいだ。
そのため声を聞いた途端、待ってましたと言わんばかりに仕事を中断して、我先にギルド前に殺到。
今日はどうやらネイやノエル達と協力しておにぎりを作ってくれたらしい。
シゼルさん達が、つまみ食いしようとするシルバの手を頬を膨らませながら防ぎ、大量のおにぎりが乗ったお盆を村の真ん中にある広場の机に置く。
皆に飲み物を配れば準備完了。
「「「「「いただきますっ!!」」」」」
日中働きっぱなしでお腹の空いた皆が一斉におにぎりに手を伸ばし、あっという間に一つ目のお盆が空になってしまった。
相変わらずすごい食べっぷりだ。
と、呑気にそんな事言ってたら無くなっちゃう!
俺も食べよっと。
新しく運ばれてきたお盆からおにぎりを取り、一口頬張る。
……………んむ、美味しすぎる!
労働した後のご飯は格別に美味しい。
これなんの具だろう。
味的にはおかかに近い感じ。
異世界におかかってあんのかな…………。
て言うかテンプレだと異世界ってお米が珍しいイメージなんだけど、みんな気にせず普通に食べてるのな。
ここら辺ではあんまり珍しくないとか?
ふとそんな素朴な疑問が頭に浮かんだが、今はそんな事よりおにぎりを食べたいのでスルーする。
バクバク食べる皆に負けじと俺もいっぱい食べる。
…………皆でワイワイガヤガヤ騒ぎながら食べるご飯なんて、前世じゃ考えられなかった。
こういうのも楽しいな。
「真白真白!私が作ったおにぎりも食べて欲しいのだ!」
「お、これノエルが作ったんだ。上手く出来たね」
手伝いが終わったらしいノエルが両手におにぎりを持って走ってきた。
これはお世辞じゃなくて、本当に上手く握れてた。
そう言えばこの前普通にシゼルさんの料理も手伝ってたし、ノエルって意外と手先が器用…………?
はっ、まさかやろうと思えばお菓子も作れるのでは!?
そうなるとやばい。
俺が禁止しても勝手に作って食べてしまう。
それは健康上あまり宜しくないので、ぜひやめて欲しいのだが………。
「真白!あ〜ん、なのだ」
「あ〜ん………ん!?」
言われるがまま口を開いて、ノエルが差し出したおにぎりをぱくりと一口食べる。
途端に、俺は思わず声を上げてしまった。
あ、いや、別に味がアレだった訳じゃないよ?
というか、むしろさっきのに比べて美味しすぎるくらいだ。
その美味しすぎるのにびっくりしたわけで。
使ってるものは違わなそうだし、これは一体どういう…………?
何か隠し味でもあるのかと、じっと欠けたおにぎりを見つめるが、見た目では他のと区別がつかない。
「おーおー、仲良しな
おにぎり片手にやって来たシルバが、
「む、違うのだ!ワタシと真白は兄妹じゃなくて、夫婦なのだ!」
「は!?そうだったのか!?」
「あれ、そういや言ってなかったっけ」
危うく飲んでいた水を吹き出しそうになったシルバが、驚いたように俺とノエルの間で視線を行ったり来たりさせる。
周りの人達も自分の耳を疑いながらこっちに顔を向ける。
特にネイの反応が過敏だった。
ピクピクッとエルフ特有の長い耳の先端が震え、勢いよくこっちを振り返っていた。
あ、これ言ってなかった感じだね。
ネイが膝から崩れ落ちた。
えっ、ちょ、どうしたの!?
「そうだったのか………俺ぁてっきり兄妹なんだと」
「俺も。でも確かに言われると、髪色も目の色も違うもんな」
「…………マシロ、もしかしてロリコンだったり───────」
「違うよ!?」
ネイのなぜかトゲのあるツッコミ。
たしかにノエルはロリだけども!
決してそんな理由で結婚を決めたわけじゃないからね!?
◇◆◇◆◇◆
昼食を終え、それぞれ自分の持ち場に戻って仕事を再開し始めた。
それから三時間くらい経った頃だろうか。
突然地面が小さく揺れだした。
地震かな………。
どうしよう、まだそれほどじゃないけど、火って消した方がいいのかな。
「危ないから一応消すか。ネイ、そっちの火を────ネイ!?どうした!?」
火事になってしまっては大変なので、とりあえず火を消そうと隣の窯を見ていたネイに声をかけたが、反応がない。
気になって見ると、顔を青ざめさせたネイが自身の腕を抱いて小刻みに震えていた。
急いで駆け寄って肩を支える。
いつも気の強いネイからすると想像も出来ないほど、彼女は何かに怖がって身を縮める。
「………ぁ……ぁぁ…………マシロ………!」
涙を目尻に溜め、
一体何が…………っ、遠くから複数の魔物の気配が近づいてる!?
しかもこの尋常じゃない数、まさか。
俺の予想した通り、すぐに揺れは大きくなり魔物の気配は近づいてくる。
その数は〈気配感知〉のスキル上だと、村の北西一面が敵意を示す赤黒い反応で染まってしまうほどだ。
これは地震なんかじゃない。
間違いなく魔物達が地を蹴る足音だ。
彼女達にとっては、トラウマを産み付けた悪夢の再来でしかない。
シルバやネイ達の町を壊滅させた、魔物のスタンピードがこの新しい村をも飲み込もうとしていた。
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