第97話 露天風呂(イナリ視点)
「ふわぁ…………気持ちいいですねぇ………」
「だなぁ〜……………」
夜空を見上げながら私が漏らした言葉に、ご主人様も頷きながら空に視線を移した。
「こっちの世界に星座ってあるのかな〜………」と呑気に呟くご主人様の横顔をちらりと見つめる。
完全に温泉の気持ちよさに
そんな姿も可愛くて、とってもキュンキュンします………!
でも、あまりにも平静というか…………こう、私に対してドキッ!とか
こんな無防備な格好で隣に居るんですよ?
少しくらい反応してくれたっていいじゃないですかぁ!
何ですか、私の事はそんな風には見れないって言うんですか!?
そんなの私だけドキドキさせられてばっかりで不平等ですぅ!
…………………正直に言います。
私、さっきからご主人様の裸を見てドキドキしてます。
ムラムラしてます。
ご褒美のちゅーの件もまだお預けですし!?
もうこのままご主人様を襲ってしまおうか本気で考えてますよ、ええ。
ベットインする準備は万端です………………………すみません嘘です全然準備なんてできてません、特に心の。
さっきから自分の鼓動がドクンドクンうるさくて、温泉とはまた別の熱が体の中で燃え上がるのをずぅ〜〜っと感じてて。
顔なんて、人様には見せられないくらい真っ赤になってるのが自分でもわかりますぅ……………。
なのに、ご主人様と来たらどうです?
………………ほっぺが垂れてて可愛い?
そうだけどそうじゃないですよぉ!
なんでご主人様はそんな無反応なんですか!?
うぅ…………そう言えば、ご主人様からちゃんと好きって言ってもらってないです……………。
あの後、ワルーダのせいですぐ戦闘になって言及できませんでしたし、今に至るまでご主人様の接し方も一切変わってません……………………あれ、もしかして忘れられてます?
おのれワルーダ、次会ったらとりあえず一発ぶん殴ってやりますぅ。
夜空を見るマシロにバレないように、イナリはムスッとした表情でそんな事を決めた。
腹黒キツネである。
─────────って、あんな奴の話はいいんですよ。
まだなぜか「先に行ってて」と言っていた皆さんが来ていません。
今なら二人っきりの甘いムードで、ご主人様から愛の告白をしてもらえる絶好のチャンスです!
私はバクバクと高鳴る鼓動を感じながら、意を決して隣に座るご主人様の腕に抱きついて、その小さくも頼りになる体に寄りかかった。
途端に細い体がピクリと震え、触れた場所からご主人様の温もりと鼓動が伝わってくる。
………………なんだ、ご主人様もドキドキしてたんですね。
ドックンドックン、私にも引けを取らないくらい速い鼓動。
そっか、ご主人様も私の事を──────────。
そこまで浮かれて鈍った頭で考え、次の瞬間、ボシュッ!と湯気を出して茹でダコのように真っ赤になってしまった。
あわっ、あわわ……………!ご、ご主人様が私の事を意識して……………!?
と言うか、私ってばなんて大胆な事をしてるんですか!?
改めて冷静になると、ご主人様の腕をぎゅっと抱きしめて自分の谷間に挟み、こてんと肩に頭を預けるのは、いくらなんでも攻めすぎじゃないだろうか。
も、もしかしたらご主人様の理性がなくなって、そのまま────────!?
あっ、んんっ…………ダメですご主人様………こんな所でぇ……………!
頭の中で悶々と広がる際限を知らない妄想のせいで、ついに私はシュー………と煙を上げてショートしてしまった。
「…………ん?ちょ、イナリ大丈夫!?もしかしてのぼせちゃった?」
「んぁっ、い、いえ、その……………」
ぎゅっと腕を抱きしめていた私の異変に気づき、心配そうにご主人様が私の顔を覗く。
はうぅっ……………優しい………すきぃ……………!
ひたすらにキュンキュンが止まらない。
────────そうだ、今なら…………いや、今だからこそ言うんだ────────。
ご主人様の顔は少し赤みがかって、伝わる鼓動はちゃんと真実を伝えてくれている。
もちろん、私の鼓動もご主人様に筒抜けのはず。
こんな至近距離で見つめ合って、お互いの鼓動は高鳴る一方で。
こんなの、恋の神様が「告白してそのままちゅーしちゃえっ!」って言ってるようなものですぅ……………!
「あ、あの、ご主人様………」
「えっと、なに?」
「その─────────」
ご主人様の目を見つめる。
吸い込まれそうな綺麗な赤色…………。
私は───────。
「……………その、もう少し、こうして居てもいいですか………?」
「……………うん、もちろん」
私は
………………なんで、私はこんな所でひよってしまったのでしょう…………。
あと少しだったのに。
やっと……………やっとですよ?
ご主人様に助けてもらって、好きになって。
必死にアピールして、でも中々振り向いてくれなくて………。
あの困ったような顔すらも愛おしい。
またと無いチャンス。
別に、今まで通りただ「好きです!」って告白するだけなのに。
断られるのが怖かった?
そんな訳ない。
手応えはあったし、なんやかんやご主人様は私の事を
でも─────────。
じんわり涙が浮かんでくるのを感じた。
ダメです、せっかくご主人様と一緒に居るのに……………。
「…………そうだ、イナリ」
「?………はい、何ですか──────んむっ!?」
今度は、ご主人様から声をかけてくれた。
急いで涙を隠して、顔を上げる。
次の瞬間。
ちゅーされた。
ご主人様の唇が優しく私の唇に触れる。
たったそれだけで、頭が真っ白になって何も考えられなくなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます