第96話 露天風呂
「あ〜…………極楽極楽〜………」
魂ごと持っていかれそうなくらい気の抜けた声が夜空に消えていく。
あれから少し経って祭りの盛り上がりも落ち着き、
表情は誰にでも分かるくらいゆるっゆるである。
幸せだ…………。
う〜む、やっぱり何としてでもうちの近くにも温泉作りたいな…………いや、温泉ってのはたまにしか入れないからこそ良い物なのか?
でもなぁ………温泉欲しいなぁ………。
全身を
もちろん誰が来たかなんて何も言わないでも分かる。
俺は内心軽くフィーバーを起こしてにやにやしながらも、必死にいかにも平静そうな表情を取り繕って振り返った。
「あ、あの、えっと…………お、お邪魔します………」
「や。待ってたよ」
さすがに裸を見せるのは恥ずかしいのか、体にタオルを巻いて現れたのはイナリだ。
顔は羞恥で真っ赤っかだが、相変わらずフサフサの耳としっぽは嬉しさを体現するかのごとくピクピク動いたり、左右にブンブン振られたりしている。
自分の体を抱きしめて本人は隠しているつもりかもしれないが、逆に押さえ付けられてぐにぃ!と変形した胸と、ぴっちり肌に張り付き体のラインを強調するタオルが相まってものすごくえっちい。
内心鼻血を流しながらサムズアップ!
キツネ耳もしっぽも実に素晴らしい……………。
もう今すぐここを貸切にしてくれたソウカに土下座して感謝を伝えたい程だ。
「んっ、結構熱いですね…………こうやって、少しずつ入れて慣らさないと………」
「ああそっか、初めてなんだっけ?」
「はい!だからこう、ちょっと怖いです」
「別にいつものと変わらないと思うけど………よっと」
「ひゃっ!?んんっ…………あふぅ………も、もう、ご主人様は乱暴ですぅ………」
「はいはい。でも、気持ち良いでしょ?」
「……………それはまぁ、そうですけど」
※エロい事は一切していません。
はい、今少しでもそういう事を考えた人は素直に挙手しなさ〜い。
……………………さて、話を戻そう。
いつもお風呂に入ってるんだから別に怖がる理由が無いだろうに、なぜかちょんちょんと足先で水面を叩いては引っ込めるイナリ。
このままではいずれ体が冷えてしまいかねないので、膝立ちでイナリを抱きかかえ、ゆっくりと、しかし強制的に湯船の中に体を沈めさせる。
最初はビクついて俺の首をぎゅっと抱きしめていたイナリも、次第に顔をだらしなく緩めて幸せそうな吐息を漏らした。
ふぅ、
俺は真横ではふぅ〜………と溶けかけたイナリに聞こえないように
実は、イナリをさっさと湯船に浸らせたのは半分本心、半分建前。
と言うのも。
…………………その、さっきイナリが水面をちょんちょんしてた時、しゃがんで足を伸ばしていたせいで、大切なアソコが丸見えになっちゃってまして。
まだ毛も生えてなかったね、うん…………………じゃなくて!
しかも前のめりになってたせいで谷間が強調されて視線は釘付け。
必然的に我が
あのまま湯船を覗いていたら、間違いなくその光景を発見されていただろう。
男の
そのため、ひたすら俺の理性を崩壊させようとする煩悩と、心の中で「えっ、行きますよね!?」と主張の激しい愚息をスープレックスで黙らせ、ちゃんと見えないように調節しながらイナリを湯船に入れたという訳だ。
………………何となく、イナリならそんな俺を見ても軽蔑せず、むしろ健気に……………いや、喜んで?
とにかく、ドン引きとかはしないはず。
もしかしたら案外乗り気で話が進むかもしれない。
と言うかその可能性の方が高い気がする。
自分で言うのもあれだけど。
そんな風に迫られたら、おそらく気持ちを自覚した俺の理性はそう長くは持たないだろう。
イナリは残念さが前に出てるせいでちょっとあれだが、それを含めてとても魅力的な女の子だ。
それに、前にクロに言われたように俺がイナリを嫌う理由もないし、きっと皆もイナリの事を歓迎してくれると思う。
しかし、俺はまだイナリへの気持ちをハッキリと彼女に伝えていない。
ご褒美のちゅーの件もまだお預けだし……………。
そんな状態で、"勢いに任せて、その場のテンションで"、なんてのはいかがなものか。
深い関係になる以上、ちゃんとしたケジメをつけてからにしたいというのが俺の考えだ。
「ふわぁ…………気持ちいいですねぇ………」
「だなぁ〜……………」
そんな俺の内心を知ってか知らずか、魂ごと持って行かれそうなくらい気の抜けた声で夜空を見上げるイナリ。
俺も釣られて、星がキラキラ輝く夜空に目を向ける。
……………………こっちの世界に星座とかあるのかな。
そう言えば気にしたこと無かった。
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