第36話 紅魔の魔王グレン(4)
「ぬうううう!!」
グレンの
光を閉ざした雲は暴風を呼び、グレンの体から溢れる魔力のスパークを受けて紫色の落雷を各地に発生させた。
莫大なエネルギーの中心たるグレンの
『オオオオオオオオオッッ!!』
閃光が収まると、そこにはあの
満ち溢れる紅黒い魔力はバチバチと弾けてグレンを覆い、エネルギーの
第二形態ってやつか…………。
変身しただけで天変地異が起こるほどの圧倒的な魔力に、倍以上に膨れ上がったステータス。
こんなの天災そのものだ。
もはや高すぎてステータス画面があてにならん。
これで「あと二回変身を残している」なんて言おうものなら完全にラスボスの風格である。
さすがは魔王、と言ったところだろう。
これだけふざけた魔力量の化け物なんて、ここ二百年間に一、二回程度しか会ったことがない。
かつてと同様に度肝を抜かれた。
次の瞬間、グレンの姿が
ボッ!という音すら置き去りにし、雷のようなソニックブームを率いたグレンが目の前に現れる。
大剣を両手で持って上段に構えた状態だ。
紅黒い軌跡を描いて、大剣がものすごい勢いで振り下ろされる。
圧倒的なエネルギーをモロに受けた地面に今までで最大級の亀裂が入り、ゴパッ!と光に飲まれて一瞬のうちに地中深くまで消し飛んだ。
さらに光は扇状にどこまでも突き進み、粉々になった瓦礫さえも飲み込んで辺り一帯を焦土と化す。
煙が晴れると、そこに地面はなかった。
爆心地は円形に消滅し、果てた大地は瓦礫だけが積もる見るも無残な姿に変貌していた。
その、ぽっかり空いた底なしの穴の上空で。
近距離でピタリと動かない影が二つ。
片や大剣を振り下ろした状態のグレンが、驚きと喜びが入り交じった表情で目の前の俺を見下ろす。
「う、動………かん………!まさか、これ程までとは!」
グレンが振り下ろした大剣は、彼がどれだけ力を込めようがカタカタと少し揺れるだけでビクともしない。
それもそのはず。
もう片方の俺が左手で大剣を受け止め、今も万力のような力でギチギチと捕まえているからだ。
これこそチート級のステータスにもの言わせたパワープレイ。
常人なら骨が粉砕するどころか、原子が組み替えられて他の物質に強制変換させられるレベルの圧力に耐えかねた大剣が悲鳴を上げる。
抑えている左手をそのままに、右手の黒剣をゆらりと揺らめかせると、次の瞬間にはグレンの体にいくつもの斬り傷が刻み込まれた。
『グオオッ!?』
グレンが思わず仰け反った隙に踏み込んで間合いに入り、渾身の拳を喰らわせる。
当たった瞬間に、あの硬くて剣ですら貫けなかった
本来なら明らかに致命傷レベルの傷のはずだ。
しかし、至近距離で見たグレンの双方はギラリと鋭利に輝き、かつてないほどの獰猛な笑みをこぼしていた。
『ぐっ…………そうだ!良いぞ、その強さ!だが…………貴様の力はこんな物ではないのだろう!?』
血を吐き散らしながらぶっ飛ぶグレンがそう叫ぶ。
無言のままそれに応えるように。
その場に残像を残してグレンに追いつき、剣を肩に担いだ構えをとる。
グレンも気づいた事だろう。
今から俺が放つ剣技が、先程自分が使っていたものだと。
「〈クロス・リーブ〉!!」
まず左肩から斜めに一閃。
切っ先が弧を描くように跳ね上がり、反対側から二度目の斬撃。
そして最後に、純白の軌跡を引いた一撃がクロスの中心に衝突し、一筋の閃光が爆ぜる。
────────────カッ!
無音の爆発。
遅れて暴れだしたエネルギーが轟音とともに拡散して、昼間の荒野を異様に明るく照らす。
太陽さえ霞んでしまうような極光は数秒………いや、十数秒の時間をかけてゆっくりと辺りに溶けて消えた。
そして。
一際大きなクレーターの中心には、左腕を失い体に大きな穴とクロスの傷を負ったグレンが横たわっていた。
おそらくあの様子ではもう虫の息だろう。
俺は剣を腰の鞘に収め、瓦礫と化した地上に降り立つ。
……………やべ、自分でやっといてあれだけど、被害が甚大すぎる上に土煙邪魔だな……………。
何も見えん。
とりあえず適当に風魔法で土煙を吹き飛ばす。
あっという間に視界が晴れた。
───────その視界の端で、のっそりと立ち上がる巨大な影が一つ。
「っ!?」
頭ではありえないとは思いつつも、反射的に横っ飛びして距離を取る。
見ると、なんとあれだけ重傷だったはずのグレンが立ち上がっている。
しかも、失くなった左腕と胸に空いた風穴が徐々に再生しつつあるのだ。
メキメキと腕が生え、空いた穴はまるで逆再生のように少しずつ修復され、ついには外傷がほとんど癒えてしまった。
ちょっと待って、それは聞いてない。
どう考えても〈自然治癒〉のスキルの
あれはたしかゲームで言う"持続的な回復"スキルみたいな感じで、ほんの少しずつHPを回復してくようなサポートスキルのはずだ。
こんなエリクサー使った時みたいに一気に回復はしない。
上位互換の〈超速再生〉かなんかのスキル…………?
いや、そんなのこいつは持ってない。
こいつ自身の能力か、それとも何かしらの魔法か…………。
何回再生できる?
魔力が続く限り?
それとも無限に再生?
何かしら条件がある?
なんにしろそれを解かないと、倒すのは難しくないが永遠に復活するなんて言う厄介な事態になりかねない。
警戒をしながら素早く剣に手をかける。
『…………貴様のその強さ………………やはり我の目に狂いはなかったか』
「…………なに?」
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