第30話 猫耳少女クロ(2)






『グルアァァァァァッ!!』



「うわああああああ!?」




クロのふわふわもふもふを堪能していたら、唐突にそんな悲鳴が聞こえてきた。

ハッと我に帰って目を向けると、なんか古城の方からラプトルみたいな魔物と、それに追われる若い冒険者らしき人影がこっちに向かって走って来ていた。


あの魔物…………名前はプラトスだっけ。


確かものすごく速く走れる魔物で、たまに移動方法として使われる陸竜の亜種だったはず。

あ、陸竜ってのは同じくラプトルに似た魔物なんだけど、他の魔物と違って明確な知性があって、人間や亜人、魔族と共存している数少ない魔物の一種だ。


上位の陸竜は乗る人を選ぶって言うしね。


移動スピードが馬車に比べて果てしなく速いので、長距離を短時間で移動したい時や急いでいる時に重宝される。

体感的には少し速度を落とした電車と同じくらいかな?

移動手段が乏しいこの世界では超重要な"足"なのである。


前に他の冒険者と集団で依頼を受けて初めて乗った時には、その速さと持久力にとても驚かされた。

速いだけじゃなくてスタミナもあるってのがすごいよなぁ。

種によっては半日走り続けるのも苦じゃないらしいし、人間には到底真似できない芸当だ。


おかげで休憩中にノエルと一緒に陸竜達と走って遊んでたら、他の冒険者達に軽くドン引きされた。


そろいもそろって「お前ら人間じゃねぇ!」って。

実際に人間じゃないので何とも言えないが、そんな事知る由もないあの時の冒険者達はさぞ驚いたことだろう。

ちなみになぜ皆がそのネタを知っていたかは謎だ。



「ん〜、もう終わり?」

「うんまぁ、さすがにあれは助けないとダメでしょ」

「助けたら、またやってくれる?」

「少しだけね」

「ん、分かった」



いかん、完全に我を忘れてもふもふしてたけど、よく考えたらここにはコカトリス討伐で来てたんだから先に依頼を済ませないと。


もふもふはその後にでもできるしね。



「よし、じゃあ手始めにあいつを…………ってあれー?」



気がつくと目の前にクロの姿はなく、いつの間にか遠く離れたプラトスと冒険者の間に割って入っていた。

どうやって一瞬であそこまで行ったんだろう。


驚愕で二の足を踏んだプラトスが勢いに任せて噛み付こうとするが、これまたいつの間にか抜いた漆黒のダガーが神速で一閃。

プラトスはあっさり崩れ落ちた。


おおぅ、なんという早業。

並のスピードじゃない。

てかそもそもどうやってあそこまで…………なんかますます忍者や暗殺者じみてきたな………。



「おーい。そこのお兄さん、大丈夫だった?」

「あ、ああ。助かったよ…………」



尻もちをついて放心状態だった男に声をかけると、はっ、と我に返って慌てて立ち上がる。


よく見ると男は傷だらけで、あちこちに血や何かで斬られたような斬り傷があり、装備はすでにボロボロ。

普通プラトスに襲われたらこんな傷じゃなくて、牙で噛み付かれたり爪がくい込んだりした痕が残るはず。

しかし、この傷跡は明らかに剣や斧などの刃物による傷だ。



「古城で何があったか話してくれる?」



なんとか落ち着いたらしい男にそう聞く。

すると。



「お、俺は、隣町でここに盗賊が居るって聞いてここに来たんだ。目撃情報の中には、懸賞金がかけられてる奴もいたからな。それで来てみたら、案のじょう奴らは居た。変な魔道具を使ってきたり、魔物も従えてたのは驚いたけどな」


「…………盗賊に魔物ねぇ。うん、心当たりしかない。もしかしてその魔物って、ゴーレムとかデュラハンとかだったりする?」

「あ、ああ、よく分かったな」

「oh…………」



俺は思わずそんな外国人みたいな反応をして額を押さえる。

なるほどね、アイリス達を襲った盗賊の仲間があの古城に潜伏していたと。

何たる偶然。

しまった、捕まえた奴らからちゃんと情報を聞き出しとけばよかった。


あの後全部、警邏隊けいらたいの人達に任せちゃったからなぁ。

まさか仲間が居たとは。

て言うか、よくコカトリスが居る城に住めたな…………。

もし遭遇したら石化しちゃうだろうに。


まぁ人が寄り付かないって意味では隠れ家的には最適なのか?



「俺はなんとか数人捕まえて撤収しようとした。そこで、ふと異様な雰囲気を放つ大きな扉を見つけたんだ。なんて言うか…………絶対に開けちゃいけない、みたいな厳重な扉が」

「いや、それ絶対に開けたら何かしらの封印が解かれちゃう的なやつじゃん」

「ん、定番のパターン」



こくりと頷いたクロの視線に耐えられなかったのか、男が上擦った声で。



「わ、分かってたよ俺も!でも俺は興味本位でそいつほんの少し開けて中を覗いちまった。そこには─────────そ、そうだ!こうしちゃいられない、早くギルドに知らせないと!」

「ちょい待ち。まさかとは思うけど、本当に封印解いちゃったの?」

「違う!は元々封印なんてされてない!だからこそ恐れられてるんだ!」

「ってことはコカトリスか…………」



そこまで喋ると男は何を思い出したのか、必死の形相でさっき俺達が通ったばかりの王都へ続く道に向かおうとする。


咄嗟とっさにそれを引き止めて、あそこで何があったのか問う。

すると男はもどかしそうに王都の方をチラチラ見ながら、切羽詰まった表情でこう話した。



「コカトリス?そんなもん比べ物にならないくらいやばいんだ。魔王だよ!"紅魔こうまの魔王"があそこに住み着いていたんだ!」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る