第32話 つかの間の癒し
という訳で、そんな危ない魔王が居ると思われる部屋がもうすぐそこなのに、こんなに騒いでいても大丈夫なのだろうか…………と思ったんだけど、今のところなんの反応もない。
むしろ静かすぎるくらいだ。
『ギャオオオオッ!!』
「一匹目………」
『ギャアァァァスッ!?』
「ちょ、待ったクロ!」
城の一番外側の繋がった通路を一周してきたプラトスとクロが反対側から走ってくる。
そして、ついに最後尾のプラトス向けて無慈悲な刃が振り下ろされる───────前に、すんでのところでクロを回収。
ギリギリ後ろから抱き上げるのが間に合い、漆黒の刃はプラトスの鼻先を
あ、危なかった………!
危うくグロテスクな光景が広がるところだった。
額の汗を拭う俺に対し、一命を取り留めたプラトスは涙目でへたりこんでプルプル震えている。
若干可哀想な………。
抱き上げられたクロが足をばたつかせたりダガーをその場で振ったりするが、手足が短いせいで届かず可愛くじたばたしているようにしか見えない。
次第に抵抗が弱くなり、最終的には俺に身を預けてだら〜んとぶら下がった状態に落ち着いた。
……………これ、どこかで見たことあると思ったら、完全に猫が前足の脇を持って抱き上げられた時の体勢だ。
「…………主、何で?」
「もうこの子達に戦う意思はないからさ。わざわざ倒す必要はないよ、きっと」
『クルゥン………』
俺がそう言って視線を向けると、プラトス達はそろって激しく頷きながらそんな可愛らしい声を上げた。
おおぅ、もう抵抗する気力が無いどころか、完全に心が折れちゃってるのね………。
「自分もう無抵抗っす!」と腹を見せて服従のポーズを取っている姿は、もはや大型の犬かなにかにしか見えない。
「よしよーし。大丈夫、怖くないよー」
なんとかこの空気を和らげようと、地面にへたりこんだプラトスの頭…………額?をなでなでする。
最初はビクッと震えていたが、撫でている間に落ち着いたのか「クルゥゥ……♪」と気持ちよさそうな声で鳴きながら頭を擦りつけてくる。
撫でやすいように体勢を低くさえもしてくれた。
うーむ、見た目的にざらざらしてるんだと思ってたけど、意外とすべすべなんだな………。
ゴツゴツしているが、触り心地は結構良い。
「あはは、くすぐったいよー」
『クルゥ♪クルゥ♪』
ご機嫌なプラトスがぺろぺろと俺の頬を舐める。
ずいぶんと懐かれたみたいだ。
遠巻きに様子を見ていた他の子も気になり始めたようで、少しずつこちらに寄ってくる。
よぅし、全員なでなでしてやるぞ〜。
「主のなでなで………」
十分後には、先程まで敵対していたはずのプラトス三体が気持ちよさそうに目を細めながら、俺を囲むように周りに寝転んでいた。
ちなみにクロはと言うと、ここは自分の特等席だと言わんばかりに、あぐらをかいた俺の足の上に丸くなっている。
…………さてさて、のんびりするのもこれくらいで終わりにしないと。
そろそろ魔王のところに行かないと、さっきの冒険者の男が増援を連れてきちゃうからね。
「そんじゃクロ、行こっか」
「ん」
淡々とした返事ですっと立ち上がったクロは、すでにいつもの無表情に戻っている。
あれだけ撫でた後でも、もう気が引き締まっているらしい。
『クルゥン………』
「ごめんね、もう行かなきゃいけないんだ。この後、大きな戦闘が始まるかもしれないから、早めにこの古城から出てね?」
『クルァ!』
「ん、また後で」
「え?プラトス達の言葉分かるの?」
「何となくなら」
獣人だからかどうかは
ちなみに俺は全く分からん。
もう一度"クルァ!"と元気に応えた三匹のプラトス達は、そのまま魔王が居る部屋とは反対方向に走って消えた。
それを見送った後、俺達もすぐに
さらにその先の一本道を真ん中くらいまで進むと、通路の右側に
扉からは古城から滲み出ていたのと同じ血色のオーラが感じられる。
おそらくこの奥に…………。
俺とクロは無言で見つめ合い、一斉に扉を押して中に突撃した。
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