第28話 危険な依頼





報酬が美味しいクエストを見つけたので、誰かに取られる前に取ってしまおうとすると、寸前で大男に掴まれて無理矢理下に下ろされた。


その声の硬さに思わず素直に従ってしまう。



「どうした急に。お腹でも痛くなったの?」

「やかましい。おい、コカトリスだけはやめておけ。あいつは準災害級…………いや、災害級と言っても良いくらい危険な魔物だ。現れる度に大量の犠牲者が出てる」

「やっぱり、目が合ったら石化するとかそんな感じ?」

「ああ。あいつの特性を知っているなら危険性も分かるだろ?たしかに報酬はうまいが、危険度に比べて割に合わなすぎる」



どうやらコカトリスという名前通り、特性も前世で聞いた通りらしい。


そもそもコカトリスとは鶏と蛇を合わせたような姿の怪物で、猛毒や石化などの能力を扱う厄介な魔物だ。

特に石化は"呪い"に含まれる強力な状態異常。

一度石化が始まればそれを止める手段は存在せず、解呪には特殊な魔法を必要とする。

当然だが、石化したものを砕けば二度と元には戻らない。

つまり喰らった時点でほぼ詰みなのだ。



危険度は計り知れず、それを知っているようで大男はかなり真剣な様子で説得を試みている。

俺が妥協しないと分かると、しまいには「俺もついていくぞ!」と保護者のようなことまで言い始めた。


初対面のはずなのにすごい心配してくれるな………。

人は見かけによらないってことがよく分かるね。



「あ、そう言えば名前聞いてなかったね。なんて言うの?」

「俺か?俺はバラン。一応Aランクの冒険者だ」

「俺は………はいこれ」

「うおっ!?」



俺は取り出した冒険者カードを軽く弾く。

不意打ちを喰らったバランは面食らいながらも、さすがAランク冒険者と言うべき反射速度でそれをキャッチ。

文句を言うべく俺の方を見るが、既にそこに俺の姿はなく、人混みをかき分けてクエストの書かれた紙切れを取りに向かっていた。



バランは呆れたような表情でため息を付きながら、冒険者カードを裏返して名前や能力値などが表示されている面に目を向ける。



「ほー、マシロ・ユメサキってのか。不思議な名前してんなぁ………………っ!?」

「そ。心配してくれるのはありがたいけど、これでも一応ランクXの冒険者だからさ」



驚いて動けないらしいバランから冒険者カードを返してもらい、右手に持った長方形の紙切れをピラピラと見せながらカウンターの方に向かう。



「じゃ、また今度ね〜」

「…………ったく、驚かせやがって。おいチビ、気をつけろよ!」

「ぶっ、だからチビじゃないって!」



颯爽と立ち去ろうとしていた俺は思わぬ言葉にズッコケそうになった。


振り返りながらそうツッコむと、バランは豪快に笑いながら酒場の方へ消えて行った。

どうやらたとえ冒険者カードを見せたとしても、最後まで俺がチビ扱いされることに変わりなかったようだ。


最後まで人の心配を欠かさないあたり、バランの優しさが滲み出ている。




なんてこったい、せっかくかっこつけて名誉挽回しようと思ったのに…………!

作戦失敗だ。


まぁいいや、このクエストをクリアして今度こそ驚かせてやろう。

そうすればバランだって俺の事をチビ呼ばわり出来ないはずだ。









「すみません…………マシロさんだけではこのクエストはお受けできません…………」

「え、なんで!?受注条件にランクS以上って書いてあるけど、ほら!」

「たしかにランクは申し分ありませんが、その…………」



まさかの受け付けに持っていったら駄目だって言われた。

なぜに!?

冒険者カードも見せたが、それでも首を横に振られてしまう。

ちゃんと受注条件も読んだし、問題はないはずなんだけど…………。



「こちらのクエストは、二人以上の"パーティー"ではないと受注出来ないのです。こちらに"パーティー専用クエスト"、と明記していたのですが……………」


「なん……だと……………」




俺は膝から崩れ落ちた。

まさかのぼっちバリア。


言われて見たらたしかにクエストの紙の上にそう書いてあった。

いやまぁ、きっとバランが言ってたみたいに危険なクエストだから、予防線を張ったんだよね。

油断して死なないようにギルド側が気を配ってくれた結果これが書かれたはずだ。


うん、これは見てなかった俺が100パー悪いわ。

名も知らぬ受付嬢さん、迷惑客みたいな事してほんとすんませんでした………。


まさかの出来事に落ち込んでいると、ふとそんな俺の横に誰かが来て小さな影がかかった。



「ん、クロも受ける。これで二人」



顔を上げると、黒髪にネコミミをちょこんと生やした獣人の少女が、冒険者カードを出して受け付けの上に置いていた。

十歳前半からなんなら一桁と言われても違和感がないくらいの少女だ。


よく見ると、彼女はアイリスと同じ"隷属の首輪"をつけた奴隷だった。

だが周りに主人らしき人は見つからない。

主人はどうしたんだろう。



俺がそんな疑問を抱いてるうちに、少女はさらに冒険者カードをずいっと前に出してクエストの受注を迫る。

彼女はわざわざ同じクエストを受けて、俺の事を助けようとしてくれているらしい。

女神かな?



「え、えぇ?まぁクロさんが一緒に行くなら安心なのですが…………一応、お二人の関係をお聞きしてもよろしいですか?」



受付嬢の口振りや周りの冒険者達の反応からして、このクロという少女は職員や冒険者の中でもそうとう有名な人物らしい。

俺よりちっちゃいのにそんなに活躍してるとか、普通に凄すぎません?



けれど、さすがになんの確認も無く許可はできないのか、受付嬢が俺とクロの間で視線を行き来させながら聞いてきた。

うっ、しまった、どう答えるべきか…………。


せっかくチャンスをくれたんだ、変なことして台無しにする訳には行かない。



兄弟とでも答えればなんとかなるでしょ───────────。



俺が気を取り直して立ち上がり、そう言おうとすると。

それよりも前にクロが口を開いた。



「主はクロの主。従者が主について行くのは当然のこと」

「あれ?」



「「「「「はぁぁぁぁぁっ!?」」」」」


「えぇ!?あ、主!?」



予想外の返答に驚いたのは俺だけでなく、受付嬢も目を丸くし、後ろで聞き耳を立てていた冒険者諸君までもが、信じられないものを見たとでも言いたそうな顔で叫び声を上げていた。



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