第180話・残りの黒魔結晶



『ゴムレス、アントニオさん、今まで発見された黒魔結晶は、現時点で何本なんですか?』


 アルバトスさんの質問に、ゴムレスさんとアントニオさんは指折り数えて、七本だと答えた。


「ビジードで一本、ガエールで二本、それからベルゼフ王国のキゼタで三本、合計六本だ」


 ベルゼフ王国っていうのは、オブルリヒト王国の北に位置している国だっけ。

 ガエールの街を北上すればベルゼフ王国との国境があって、そこを越えて最初のベルゼフ王国の街がキゼタらしい。

 あれ? 黒魔結晶の被害があった場所って、結構近くない?


『なるほど……。では、先ほどのエミリオ様の話が正しいとすると、黒魔結晶はあと四本残っていることになりますが……エミリオ様、残りの四本の行方を教えていただけませんか?』


「それは……」


 エミリオはすぐには答えずに俯いてしまった。


「俺たち光の翼がネーデの森から出たところで捕らえたときには、一本だけ持っていました。その一本は、ガエールの冒険者ギルドで浄化して消滅させました」


 それなら、あと三本ってことだね。一体どこにあるのだろう?

 何かの動物か魔物に突き刺したのかな?


「エミリオ、お前、どうしてネーデの森に行ったんだ?」


「エミリオ……」


 ユリウスの問いに答えるようにソフィーさんが促すと、エミリオは俯いたまま話を続けた。


「以前、僕はネーデの森のゴブリンに黒魔結晶を突き刺しました。だけどその後何の事件も起こっていないようなので、様子を見に行ったんです。でも……」


 ネーデの森に行ったエミリオは、ゴブリンの大量発生を目の当たりにして、驚いてしまったらしい。

 そしてゴブリンに見つかって逃げているときに、光の翼に捕まったのだという。


「それで、黒魔結晶は?」


「落としました……」


「え?」


「残りは、四本でした……。ジュニアス兄上やノートンからは、早く全部ばら撒いてしまえと言われていたのですが、だんだん難しくなってきて……黒魔結晶に直接触れるわけにはいかないので、一本ずつ布に包んでばらばらに持っていました。それが……ゴブリンに見つかって逃げているうちに、三本落としてしまったんです」


「落とした?」


 落とした黒魔結晶はどうなったのだろう?

 まさか、動物や魔物が自分で自分の体に突き刺したりはしないよね?

 でも、すごく嫌な予感がする。


『まずいですね……』


 そして、その予感は的中した。


『エミリオ様、黒魔結晶をばら撒く場所の指示も、ジュニアス様たちからあったんですか?』


 アルバトスさんの問いに、エミリオは躊躇いながらも頷いた。


『ゴブリンに黒魔結晶を使ったのも、指示ですか?』


「それは、指示はありませんでした。できるだけ強い動物や魔物に使えとは言われましたが、難しくて……。唯一、巨大熊に黒魔結晶を使いましたが、それも眠り粉を大量に使って眠らせなければできませんでしたし」


 エミリオの言っているのは、ユリウスが倒した巨大熊だね。

 ということは、あれよりも強い動物や魔物に黒魔結晶は使われていないから、大丈夫ってことだよね?

 だけど、そうではなかったようで、アルバトスさんは固い口調のまま、淡々と続けた。


『そうですか。それはある意味不幸中の幸いであり、同時に最悪でもありました。何故なら、ゴブリンは弱い魔物ではありますが、進化する魔物であるからです』


「え? どういうこと?」


『ゴブリンは弱い魔物です。だから、エミリオ様はゴブリンに黒魔結晶を使うことができました。だけど、ゴブリンは進化します。ゴブリンからホブゴブリンに、そしてそれ以上にも。今ネーデの森ではゴブリンが増殖しています。あなた黒魔結晶を使ったゴブリンは、ゴブリンジェネラル……いえ、おそらくゴブリンキングになっているでしょう。そして、森で落とした黒魔結晶は、新しい脅威を生んでいるでしょう』


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