第152話・ガエールからの問い合わせ
ゴムレスさんと話をするために、私たちは冒険者ギルドの応接室へと通された。
私たちのすぐ後に部屋に入ってきたゴムレスさんは、ユリウスの顔を見るなり、言う。
「ユリウス、お前、ガエールの冒険者と何かあったのか?」
「キヨラ草を探しにネーデの森に潜ってた時、ゴブリンに襲われていたのを助けたんだ。みんな怪我していて、その上女冒険者が一人ゴブリンに攫われて、大変だったみたいだから」
ユリウスがそう答えると、ゴムレスさんはガエール側も同じ事を言っていたと頷いた。
「それでガエール側の話だと、お前はテレポートの呪文で冒険者たちを街の前まで送っただけで、ガエールの街には入らずにまたテレポートの呪文でどこかに行ってしまったとの事だが、それは何故だ?」
「街の前まで送り届けたからそれでいいだろうと思ったんだ。怪我もオリエの特級ポーションを渡しておいたから、すぐに治っただろうしね。何か問題でもあったのか?」
「まぁ、特に問題があったってわけではないんだが……っておい、特級ポーションを渡したのかよっ」
「あぁ。手持ちがそれしかなかったからな」
ユリウスが頷くと、ゴムレスさんは呆れたような表情をした。
特級ポーションは、売値は確か、金貨三十枚だっけ?
三万ルド……日本円にすると三十万円……ものすごく高価だもんね。
「気前のいい奴だな。まぁいい、だが、そういう事があったというのは、この間聖水を納品に来た時にでも教えておいて欲しかったというのが本音だな。ガエールの冒険者ギルドから突然、褐色の肌で銀色の髪、金色の瞳をした男を知らないかって問い合わせがあって、何事かと思ったぜ」
問い合わせがあった時、本当に驚いたんだろうな、ゴムレスさんは疲れたように深いため息をついた。
「お前の事だってすぐにわかったから、怪しい奴ではないと答えてはおいたが、今、ガエールは黒魔結晶の件でもゴブリンの件でも、ピリピリしているからな」
「おいおい、まるで俺が怪しまれているみたいじゃないか」
呆れたようにユリウスは言ったけど、ゴムレスさんはまじめな顔をして頷いた。
「お前には黒魔結晶の件でも世話になったから話すが、ガエールの冒険者ギルドでは、黒魔結晶を持ち歩いている男の存在を確認しているらしい。だがその男は、何かの魔道具か、テレポートの呪文を使ったのか、突然消えてしまったんだそうだ。テレポートの呪文は、高レベルの魔導士でも使える人間はそう居ない。そんな中、それを使えるお前が現れたんだ。怪しまれても仕方がないだろう」
確かにそんな背景があるのなら、テレポートを使えるユリウスを怪しむのも仕方がないかもしれない。
だけど、あの黒魔結晶を持ち歩いている男って、つまり犯人って事だよね?
「黒魔結晶が見つかっているのは、ビジード、ガエール、そしてベルゼフ王国のキゼタだ。そんな中、黒魔結晶を持つ男が、またこの辺りで姿を確認されている。そして、ネーデの森で増え続けているゴブリン……不安要素しかねぇ。本当に、ルリアルーク王の宣言なんてやってる場合じゃねぇのによぉ」
本当に、ジュニアスは一体何を考えているんだろうね。
アルバトスさんも言っていたけれど、本当にルリアルーク王の宣言なんて、やってる場合じゃないよね。
この国……大丈夫? 王様も今回の事は知らないのかな?
「ゴムレスさん、冒険者ギルドでは、ネーデの森だけを調べているのか?」
「あぁ、そうだ。他の森の確認もしたいが、人手が足りねぇ。どこぞの王子のおかげで、冒険者がみんな王都オブリ―ルへと集まっていてな、ビジードでもガエールでも、冒険者不足になっているんだ」
このままだと、有事の際には対応できないというのに、冒険者の大半はジュニアスの元へと集まっているのだという。
「オリエちゃんの作った聖水は、うちとガエール、それからキゼタに回して、近隣の村の防衛強化に使っている。そっちの方は、ローレンスが仕切ってくれてなんとか上手く行っているんだが……冒険者の数が足りなくて、他の森の見回りができねぇんだ」
「わかった。じゃあ、冒険者ギルドはネーデの森を引き続き警戒してくれ。他の森にゴブリンが居るかどうかは、俺とオリエ、それからリュシーで行く」
「え? リュシー? なんで?」
リュシーさんの名前は意外だったんだろう、ゴムレスさんが不思議そうな表情をした。
「リュシー、しばらく店はガレアスさんたちに任せて、冒険者に戻るらしいからな。俺たちで、他の森のゴブリンの状況を確認しにいく」
「それは助かるが……大丈夫なのか?」
「あぁ、大丈夫だ。俺はテレポートの呪文が使えるし、オブルリヒト王国内なら、だいたい行ける。あと……」
ユリウスはちらりと私を見つめた。
どうしたのかと首を傾げると、彼は苦笑し、言った。
「あと、うちにはゴブリンホイホイが居るから……ゴブリンが居るかどうかは、すぐにわかると思う」
「サーチートだね!」
「オリエ、サーチートは必ず俺が守るから、協力してもらえないだろうか」
「いいよ、私からも頼んでみるね!」
でも……サーチートと一緒に森の中を散策するだけでも、近くにゴブリンが居たら、寄ってきそう。
だから、騙すみたいになっちゃうけど、改めて頼む必要もないかもね!
サーチート、ごめんね!
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