第141話・秘密の告白
二階に戻った私は、お茶を淹れようとキッチンへと向かった。
あと、何か軽く食べられる物でも作ろうかと思う。
リュシーさんもジルさんも、きっとお腹が減っているはずだろうし、キッチンをお借りしてもいいよね。
料理はソフィーさんがしているんだろう、キッチンはとても綺麗だった。
野菜スープとサンドイッチを作ろうと食材を出していると、
「オリエ、ごめん」
と、突然ユリウスに謝られてしまった。
「どうしたの?」
「リュシーに俺の事を話す事にしたんだけどさ、俺の事を話すと、オリエの事も話さなきゃいけない事になるかなって……構わないかな?」
「あぁ、そんな事か。大丈夫だよ。ユリウスの好きにしてくれたらいいよ。ユリウスがリュシーさんになら話してもいいって思ったのなら、私はそれでいいから」
私がそう言うと、ユリウスは少し困ったように笑った後、ありがとうと言って頷き、私を引き寄せて抱きしめた。
「俺、リュシーの事を、わりと……いや、すごく、好き、みたいなんだよね。自分の兄がリュシーみたいな人だったら良かったのにって、思っているんだ」
耳元でごにょごにょとユリウスが言う。
そうかぁ、ユリウスはリュシーさんがお兄ちゃんだったら良かったのにって思っているのかぁ。
なんか、可愛いなぁ。
背中をぽんぽんと叩いて、それ教えてあげたら? と言うと、頬を少し赤らめて、この事は秘密にしてほしいとか言うんだけど、ユリウスくん、ツンデレですか!
カッコいいのに可愛いなんて、ものすごく萌えてしまう。
私がそんな事を考えていると、ユリウスは、ふう、とため息をつき、真剣な表情をして小声で話を続ける。
「でも、全てを話しても、それからのリュシーの反応次第では、俺はリュシーの前から消えるつもりだから。申し訳ないけど、この事はオリエにも了承してもらいたい」
「どういう事? リュシーさんのことが好きで、信用しているから、ユリウスは自分の事を話すんだよね? それなのに、リュシーさんの前から消えちゃうの? それって、おかしくない?」
首を傾げる私に、ユリウスは真剣な表情で、おかしくないのだと頷いた。
「ユリウス……」
どういう事なのか聞きたかったけれど、リュシーさんとジルさんが二階に降りて来て、聞く事ができなかった。
「リュシーさん、キッチン、お借りしています!」
声をかけると、リュシーさんは、あぁ、と頷きはしたものの、首を傾げた。
どうしたのかと聞いてみると、ソフィーさんはどこに行ったのかと言う。
「俺の勝手な判断なのだが、ガレウスさんとソフィーさんには、三日ほど家を空けてもらったんだ。お金を渡して、宿でゆっくりしてもらうように言ってある」
ユリウスがそう説明すると、リュシーさんは少し驚いたようだけど、苦笑しながらありがとうとお礼を言った。
「お金返すよ」
「いいって。俺が勝手にしたんだから」
「そう? じゃあ、ありがと。アタシもガレウスさんとソフィーさんが戻って来る頃には、いつものアタシに戻るようにする。クソ王子のせいで、完全に自分を見失ってたよ。ガレウスさんとソフィーさんの二人には、悪い事をしてしまった。あと、ジル、アンタにもね」
リュシーさんは隣に座るジルさんを、優しい目で見つめた。
「いいのよ、リュシー……」
ジルさんは瞳を潤ませて、リュシーさんを見つめ返す。
ジルさんって、すごく健気な人だよね。
それでいてしっかりとした、素敵で大人な女性だ。
元の私よりも若いけれど、私はこんなふうに素敵な女性にはなれなかったから、すごく憧れちゃう。
「これ、どうぞ」
キッチンをお借りして作ったスープとサンドイッチを出すと、リュシーさんもジルさんも喜んで食べてくれた。
やっぱりお腹が空いていたみたいだ。
食後に紅茶を出すと、
「ねぇ、ユリウス。さっきの話なんだけど、そろそろ話してくれないかな」
とリュシーさんが言った。
ユリウスは、あぁ、と頷いたけれど、黙り込む。
「ユリウス?」
どうしたのかと聞くと、何から話そうかと考えていたらしい。
確かにユリウスの生い立ちは複雑だから、どこから話せばいいか悩むのも仕方ないのかもしれない。
「簡単に言うとさ、ローレンスさんが言っていた事が正解なんだけど、リュシーは覚えているか?」
「何だっけ?」
「俺がユリアナに似ているって言ってただろ? 覚えていないか?」
そう言えば、ローレンスさんがそんな事を言っていたなぁと、私も思い出す。
あの時は、ものすごく驚いたんだよね。
ローレンスさんって、なんて鋭い人なんだろうって。
「ちょ、ちょっと待って……。確かにそう言っていたけど、ローレンスさんが言っていた事が正しいって言うのなら、アンタがユリアナ王女って事になるんだけど……え?」
リュシーさんの言葉に、ユリウスは頷いた。
「だから、俺がユリアナなの。特殊な魔法で、本当は男なんだけど、女として生まれて育てられたんだ」
リュシーさんもジルさんも、驚き過ぎたのか、目を見開いてユリウスと私を見つめていた。
そしてユリウスは淡々と、彼と私の話をリュシーさんとジルさんに話し始めた――。
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