第125話・聖水が必要です
「まだ公表はしていませんが、各国の冒険者ギルドと商人ギルドでは、それぞれ現時点で最悪のケースに備えて動いています。冒険者ギルドでは、ゴブリン討伐の計画とその手配を、そして商人ギルドでは、街や村の防衛強化についての手配です。黒魔結晶の事もありますしね」
「村の防衛は、どうするんですか?」
オブリールやビジードのような壁を作る事は無理だろう。
確か工務店のおじさんたちは、丈夫な柵を作るって言ってたけど、それで魔物たちから村を守れるのかな?
「確かに、丈夫な柵と言っても街の壁のような強度はないでしょうし、できるだけ丈夫な木の壁を作るくらいでしょう。だけど、裏技がありましてね」
「裏技?」
「はい、聖水を使うんですよ。材料の……例えばロープなどに聖水を使って加護をつければ、防御力が上がるんです。弱い魔物なら、近寄る事はできないはずです」
ローレンスさんの言った聖水の使い方は、アルバトスさんが言っていた事と同じだった。
「だけど……聖水は今とても貴重なものなのです。さらに、聖水の材料はキヨラ草という植物なのですが、とても見つけにくく、作る事ができる人間も限られている上、僧侶や神官のような聖職者でも、作れる聖水のレベルは中級です。そして今、黒魔結晶の浄化に聖水が必要なのはわかっているのですが、ゴムレスさんに相談をして、今は村の防衛を優先して使わせてもらう事にしました」
ローレンスさんがそう言うと、ゴムレスさんが頷いた。
いつ見つかるかわからない黒魔結晶よりも、村の防衛の方が大事だと言う。
ゴムレスさんもローレンスさんも、街や村の事をとてもよく考えてくれる、頼りになるギルドマスターだ。
「ところで、オリエさん……」
「はい?」
「オリエさんは、さすがに聖水までは作る事はできないですか? まぁ、材料であるキヨラ草はないのですが」
「え、と……」
ローレンスさんに聞かれて、私は隣に立つユリウスを見つめた。
結論から言うと、私は聖水を作れたし、材料であるキヨラ草も持っていた。
「あの、作れ……ました……。これ、良かったら使ってください……」
アイテムボックスの中から聖水が入った瓶を二本取り出すと、私はローレンスさんに差し出した。
これは、サーチートがゴブリンホイホイを発動してしまったときに見つけたキヨラ草から、試しに作ったものだった。
「え? ええっ!」
瓶を受け取ったローレンスさんの目が、金色に輝いた。
さすが、商都ビジードの商人ギルドのギルドマスター、鑑定が使えるらしい。
その金色の目のまま、ローレンスさんが私を見た。
私のステータスを見られるわけじゃないとは思うけど、鑑定状態の目で見られると、すごく緊張する。
「オリエさん、あなた、何者ですか? こ、これっ……特級ですよ?」
「え?」
「あ、ははは、そ、そうなんですか?」
そう、ほんの少しの材料で、初めて作って、私は特級の聖水を作ってしまったのだ。
アルバトスさん曰く、文字通り聖なるものである聖水は聖女である私と相性が良く、その効果で特級の聖水が作れたのではないかという事だった。
「特級ポーションを作れるから、もしかしてとは思ったんですけど……でも、材料はどうしたんですか?」
「はいはーい! それはね、ぼくが、ネーデの森の中で見つけたんだよ! ほら、今も持ってるんだよ!」
サーチートが手を上げると、自分のマジックバックの中から、キヨラ草を取り出して、ドヤ顔をした。
「おい、それ、冒険者ギルドで……」
多分、ゴムレスさんは買い取ると言おうと思ったんだと思う。
だけどそれを、ローレンスさんが止めた。
「ゴムレスさん、商人ギルドから彼らに、新しい依頼を出します」
「え? 依頼?」
「えぇ、是非ともこの依頼、受けていただきたいです」
そう言ったローレンスさんの目はとても真剣で、ギラギラと輝いていて、私もユリウスも、否と言う事ができなかった。
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