第118話・依頼達成報告
「ユリウスさん、オリエちゃん、本当に助かったよ。サーチートも、ありがとうな」
私たちは、ネーデの森で会った工務店のおじさんたちが伐り出した木をアイテムボックスに入れ、商都ビジードにある工務店まで送ってあげた。
傷は治したけれど、ゴブリンに襲われたショックからか二頭の馬が興奮して、伐り出した木を載せた荷馬車を上手く引く事ができなかったからだ。
興奮した馬がいつ落ち着くのかわからないし、落ち着くまで待つには、ネーデの森は危険過ぎた。
馬は木を下ろした空の荷馬車ならなんとか引く事ができたので、私とユリウスはおじさんたちに、アイテムボックスの中に木を入れて運ぶ事を提案したのだ。
「うちの従業員が、本当にお世話になりました。本当にありがとうございました」
工務店の親方さんにも、何度も何度もお礼を言われた。
そんな大した事をしたつもりはないんだけど、私たちが間に合わなかったら、おじさんたちはゴブリンに殺されていた可能性もあるんだよね。
間に合って、助けてあげられて、本当に良かったよ。
「ユリウスさん、オリエさん、今度、改めてお礼をさせてください。ご馳走しますよ」
「え? お礼?」
「ご馳走? やったぁ!」
気にしなくていいのに……と思ったんだけど、ネーデの森から商都ビジードまでの道のりで、すっかり工務店のおじさんたちと仲良くなったサーチートが、飛び跳ねて喜んだ。
ちなみにサーチートのゴブリンホイホイは、ネーデの森から離れると効果をなくしたようだった。
もしかすると、ゴブリンが居るところで、サーチートの声が届く距離ならホイホイ状態になるけれど、ゴブリンが居ない場所や声が届かない場所では、効果がないのかもしれない。
「さてと、冒険者ギルドに向かおうか」
ゴブリン討伐の任務達成報告をしなきゃいけない。
というか、早く報告をして、麻袋にぎっしりと詰まったゴブリンの左耳とお別れがしたいっていうのが本音だ。
まぁ、ゴブリンの耳が入った麻袋は、ユリウスが全部持ってくれているんだけどね。
「ねぇ、オリエちゃん、ユリウスくん、ゴブリン、たくさんやっつけたね!」
「そうだね。ものすごーくやっつけちゃったね」
最初に十体くらい倒したんだっけ?
その後、サーチートのゴブリンホイホイが発動してからは、三十体くらいで、工務店のおじさんたちのところには、二十体くらい?
途中から数がわからなくなっちゃったけれど、もしかすると六十体くらい倒したのかもしれない。
この調子だと、そんなにかからずにFランクに上がれるかもしれない。
それにしてもゴブリンってあんなに居るんだね。びっくりしちゃったよ。
「こーんにーちは!」
冒険者ギルド内に入るなり、ユリウスの肩に乗ったサーチートが元気に挨拶をしたものだから、中に居た人たちがみんな振り返った。
注目されるのも、だいぶ慣れてきたなぁ。
ユリウスは居るだけで目立つし、サーチートは小さな体なのに結構声が大きいから、みんな振り返っちゃうしね。
「おう、どうした! お前ら、依頼を受けてたらしいじゃねぇか。どうなった?」
声をかけてきたのは、商都ビジードの冒険者ギルドのギルドマスターである、ゴムレスさんだった。
「任務を達成したから、報告に来たんだよ!」
ゴムレスさんに元気に答えたのは、サーチートだ。
私とユリウスは、苦笑しながら頷いた。
「おお、そうか。どれ、俺が見てやろう」
ゴムレスさん、ギルドマスターなのに、暇なのかな。
いや、多分忙しいとは思うんだけど……まぁいいか。
「じゃあ、これが依頼書だ。それからこれが、ゴブリンの耳」
「は?」
依頼書を出した後、どか、どか、とユリウスは三つの麻袋をカウンターに置き、それを見たゴムレスさんは、ぽかんと口を開けた。
「なんだ、これは」
「ゴブリンの耳だが?」
「これ、全部か?」
「あぁ。途中から数えるのやめたから、いくつあるのかはわからない」
「あと、これもあります」
私が預かっていた、ゴブリンの魔石が入った麻袋をカウンターに置くと、ゴムレスさんは驚いたように言った。
「お前ら、これだけの数のゴブリンの後始末も、ちゃんとしてきたっていうのか」
「えぇ。放っておいたら大変な事になるって聞いたし、それに、ポイントも報酬もアップなんですよね?」
「あぁ、確かにそうだが……かなり狩って来たな。一体どこで……」
「ここで教えてもらった、ネーデの森だが?」
「そ、そうか……」
ゴムレスさんは頷くと、どのくらいの時間でこれだけのゴブリンを倒したのだと聞いてきた。
多分、森の中に入って、一時間とちょっとくらいじゃなかったかな。
私たちの話を聞いたゴムレスさんは、眉間にしわを寄せて黙り込む。
「何か、あるのか?」
「いや、ちと数が多いのが気になってな……。調査させよう」
ゴムレスさんは受付の女の子にジルさんを呼ぶように言うと、執務室へと消えていった。
「あら、ユリウスさん、オリエさん、こんにちは。もう依頼を達成されたんですか?」
受付の女の子に呼ばれたジルさんは、ゴブリンの耳と魔石が詰まった麻袋を見ると、ものすごく驚いていた。
「こんなにたくさん……す、すごいですね」
少し口元を引きつらせながらジルさんが言った。
彼女のその表情を見て、私はものすごく申し訳ない気分になった。
だって、ねぇ……ゴブリンの切り取った左耳を持っているだけでも嫌だったのに、ジルさんは私たちへ報酬を支払うために、中身を確認しなければならないからだ。
「あ、あの、こんなにたくさん、ごめんなさいっ」
「い、いえ、大丈夫です。これが仕事ですし、慣れてますから。それに、ちゃんと後始末までしてくださって、ありがとうございます。この依頼を受けられた方は、後始末をされない方が多いので、本当にありがたいです」
数が多いからだろう、ジルさんは別室で確認してくると言って、ゴブリンの耳と魔石が入った麻袋を抱えて立ち去った。
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