第110話・商人ギルドのギルドマスター
ユリウスを待っている間、ソフィーさんが出してくれたお茶とお菓子をいただいて、サーチートとのんびりとさせてもらっていると、ソフィーさんが一人の男の人を連れてきた。
その男の人は、明るい茶色の髪にダークグリーンの瞳をした細身の、三十代後半か四十代前半くらいの年齢の人で、私とサーチートを見ると小さく会釈をしてくれた。
「初めまして、お嬢さん。私はこの商都ビジードの商人ギルドのギルドマスター、ローレンス・ボルクです」
と、自己紹介をしてくれるローレンスさん。
私も自己紹介しなきゃと思って立ち上がったんだけど、私、自分の事を何て言えばいいんだろう?
「えーと、初めまして、オリエ、です。えっと……」
なんと言うべきか……一瞬私が悩んでいる間に、テーブルに居たサーチートが小さな手を上げ、言った。
「こんにちは、ローレンスさん! ぼくの名前はサーチート。オリエちゃんのスマホだよ!」
「え? すまほ? なんですか、それ」
サーチートの存在に驚いたらしいローレンスさんは、私とサーチートを交互に見つめた。
きっと、サーチートそのものにも、スマホって言われたことにも、驚いているんだろうなぁ。
私はサーチートが私とユリウスに関して余計なことを言わないように、抱き上げてそっと口を塞いだ。
「この子は、私の従魔なんです。私、冒険者で……まだランクはGランクなんですけど」
「あぁ、従魔なんですね。ぬいぐるみが動いて喋ってるって思っちゃいましたよ。でも、従魔なら、そういう従魔も居るって事ですよね。その子、ものすごく可愛い子ですね」
ローレンスさんは納得しました、と言って笑った。
納得してもらえて良かったです、と答えながら、私は従魔って言う言葉の便利さを実感していた。
サーチートを従魔登録するように提案してくれたゴムレスさんに、ありがとうございますと心の中でお礼を言う。
「ところで、オリエさんとサーチートくんは、どうしてここに? スタイリッシュ・アーマーのお客様ですか?」
「あ、はい。お客である事には間違いはないんですけど……連れがリュシーさんに捕まってしまいまして……」
「お連れの方が?」
「えぇ」
ローレンスさんは不思議そうに首を傾げている。
ユリウスの事をなんて説明しようかと考えていると、軽いノック音のあと、リュシーさんが部屋へと入ってきた。
「ハーイ、ローレンスさん、いらっしゃいませ」
明るい声で、軽い挨拶をするリュシーさん……だけど私は、いや、多分ローレンスさんも、リュシーさんを全く見ておらず、リュシーさんの後ろに居るユリウスに目を奪われていた。
「わぁ、ユリウスくん、カッコいいねぇ。まるで、ルリアルーク王みたいだよ」
もぞもぞと体を動かし、口を塞いでいた私の手から逃れたサーチートが言った。
そうだね、と私は頷きながら、白い衣装を纏う今のユリウスの姿に、どこか懐かしさを感じて、思わず、
「ルリアルーク……」
と呼びかけてしまっていた。
「本当ですねぇ。これは、驚きました。思わず傅いてしまいそうになりましたよ」
そう言ったローレンスさんの声に、私は我に返った。
ユリウスは驚いたような表情で、私を見つめていた。
どうしたんだろうと考え、すぐに気づく。
私がユリウスのことを、「ルリアルーク」と呼んでしまったからだろう。
「ご、ごめん、ユリウス……」
自分がルリアルーク王である事が嫌だと思っているユリウスには、不快だったかもしれないと思いすぐに謝ると、ユリウスは優しく私を見つめたまま、首を横に振った。
「大丈夫だよ。オリエにそう呼ばれるとは思っていなかったから、少し驚いただけだ」
「そう? それならいいんだけど。あのね、ユリウス。その衣装、すごく似合ってる。すごくカッコいいよ」
「ありがとう。でも、俺に似合っていても仕方がないと思うけどね」
「そうかもしれないけど、でも、本当に似合ってるし、カッコいい」
ユリウスの褐色の肌に、白い軍服は本当に良く映えていた。
白い軍服を彩る金銀銅の刺繍は、華やかだけれどとても上品だ。
そして、マント……白の軍服のマントは、軍服と同じ白だった。
「リュシーさん、マント、白にしたんですね」
「うん。最初は、赤か青って考えていたんだけど、アンタが言っていたように、白にしたよ。どう? 良く似合っているだろう?」
「はい! とても!」
「うん! まるで、ユリウス君の服みたいだよ!」
「だから、俺に似合っても仕方ないだろ? これは、ジュニアスのために作られた衣装なんだからさ」
「いや、そうでもありませんよ。確かにジュニアス様より衣装を作れと言うご命令をいただきましたが、作る衣装はルリアルーク王の衣装ですから。私は、リュシーが作ったこの衣装は、ルリアルーク王が纏うに相応しいものだと思います」
ユリウスの言葉に首を横に振ったローレンスさんは、リュシーさんを見ると深く頷いた。
「リュシー、これは素晴らしい衣装だよ。選ばれないとわかっていても、私はこの衣装を堂々とジュニアス様にお見せするよ」
「そうでしょ! この衣装はアタシにとって、最高傑作になるよ!」
「あぁ、私もそう思う。頑張って仕上げてくれ」
「ありがとうございます」
がしりと固い握手をする、リュシーさんとローレンスさんなんだけど、今の二人の会話を聞いた私は、頭の中でクエスチョンマークを飛ばしていた。
選ばれないとわかっていても、と言うのは、どういう事だ?
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