第108話・ギルドもいろいろ大変らしい


「ところで、今日は何かありましたか?」


「あ! そうだった!」


 私はジルさんに、またポーションの買い取りをお願いしたい事を伝えた。


「今回は、中級と下級を作ってきたんです。よろしくお願いします」


 作ってきたポーションを差し出すと、はい、とジルさんは頷いて、私が渡したポーションを手に取った。


「鑑定」


 と言ったジルさんの目が、また金色に輝く。そして鑑定を終えると、


「中級、下級共に、(+)が付いている質の良いポーションですね」


 と、にっこりと笑って褒めてくれた。


「買取価格は、中級が一本九百ルド、下級が二百ルドでお願いしたいのですが、いかがですか?」


「はい、それでいいです」


 ポーション作りは楽しいから好きだし、結構簡単に作れる事がわかったから、値段はいくらでも構わなかった。


「では、これが代金です」


「ありがとうございます」


「ところで、お二人の冒険者ランクは、どうなりました?」


 ポーションの代金を渡してくれる時、ジルさんがこっそりと聞いてきたから、私もこっそりと、「Gランクです」と答えると、ジルさんは苦笑した。


「ギルドマスターから、ランクを上げて登録するっていう話は、ありませんでした?」


「それは、ありましたけど……みんなGランクから始めるものなんですよね? 何か申し訳ないし、それに裏がありそうだったから……」


 私がそう言うと、確かにねぇ、とジルさんは頷いた。


「どうかしたんですか?」


「いえ、実際、裏はありましたから……」


 ジルさんはそう言うと、だけどギルドもいろいろと大変なんですよ、言って苦笑する。

 今、高ランクを含め、大勢の冒険者が王都オブリ―ルへと向かってしまったため、この商都ビジードの冒険者ギルドでは、高ランクの依頼が滞ってしまっているのだそうだ。

 そんな時、謎の黒魔結晶が刺さった巨大熊を、一人で倒す実力があるユリウスが現れた。

 何故か冒険者ランクがブランクだというが、実力は確かなのだから、高ランクに上げて滞っている依頼を受けさせればいい――というのが、ゴムレスさんの考えだったらしい。


「そういう事だったのか……。そんな理由だったのなら、悪い事をしたかな……」


 ジルさんの話を聞いたユリウスが、ぽつりと呟いた。


「でも、他の方々と同じようにGランクからという事でギルドマスターが納得したのなら、それで良いのだと思いますよ。やっぱり、他の冒険者の事もありますから。ただ、冒険者ギルド側としては、早く上のランクになっていただきたいですけどね。あの、依頼の受け方の説明、しましょうか?」


「はい、お願いします」


 ジルさんの申し出にありがたく頷くと、


「本当に初心者なんですね」


 と笑われてしまった。

 まぁ、初心者といえば初心者であり、違うともいえる。

 ゲームでは何度も受けた事はあるんですけどね。


「依頼は、この掲示板から探して下さい。お二人はGランクなので、GとFの依頼を受ける事ができます」


 冒険者ギルドの壁にある掲示板には、何枚もの紙が貼りつけられていた。

 どんな依頼があるのだろうと見てみると、GランクとFランクは常時依頼のものがほとんどで、次のようなものがあった。


・G:薬草採取 五本一組 報酬百ルド 一ポイント

・G:毒消草採取 三本一組 報酬百ルド 一ポイント

・G:街や村での手伝い系 報酬二百ルド 一ポイント


・F:ツノウサギの狩猟 二匹 報酬二百ルド 二ポイント

・F:ゴブリン討伐 三匹 報酬三百ルド 三ポイント ただし、魔石もあれば報酬二百ルドアップ、ポイント二アップ


 この中で私ができるものっていったら、やっぱり薬草と毒消草の採集かなぁ。

 普段からやっているから、得意なんだよね。

 これにしようかと紙に手を伸ばそうとすると、


「薬草採集系の依頼は、一ポイントにしかならないんですけどね」


 とジルさんが言った。

 冒険者ギルドカードのランクが上がるシステムは、ポイント制なのだそうだ。

 各依頼を達成すると報酬の他に依頼ポイントが得られて、そのポイントが一定数貯まったら、上のランクに上がれるというシステムらしく、GからFへ上がるためには、百ポイント必要らしい。

 ちなみにポイントだけで上のランクに上がっていけるのは、GからEまでで、それ以上のランクに上がるには、ポイントの他、各冒険者ギルドの上層部の判断によるらしい。

 そりゃ、コツコツポイントを稼ぐだけで上がっていっても、そこに実力が伴っていなかったら大変だものね。


「依頼を受けるのって、先に依頼を受けておかなければいけないものなんですか? それとも、例えばこの薬草の採集なら、先に採ってきて、後から依頼を受けるって言うのでもいいんですか?」


「はい、それでも大丈夫ですよ。よく、別の依頼を受けたついでに薬草を持ち込まれる方も居られますから。ただ、薬草などの採集の依頼は、採集数に規定があるんです。例えば、薬草なら五本一組、毒気しなら三本一組という感じです」


「という事は……薬草を十本採ってきたら、依頼を二回したって事で、二ポイント貰えるんですか?」


「えぇ、大丈夫ですよ。Gランクの方は、そうやってコツコツ依頼をこなして、Fランクを目指してらっしゃるんです」


 なるほどね。冒険者ギルドのシステムは、だいたい理解した。

 薬草採集系は、たくさん採ってきた後で依頼を受ける事にしよう。

 いや、私の場合は、依頼を受けずにポーションにする方がいいかもね。

 となると今の私に受けられる依頼は、Gランクの街や村での手伝い系か、Fランクのツノウサギの狩猟かゴブリンの討伐という事になるんだけど……どうしようかな。

 冒険者ギルドのためにも、少しでもポイントが多い依頼を受けていった方がいいよね。

 それなら、ツノウサギかゴブリンか。


「少しでも早くポイントあげるか」


 ぽつり呟いたユリウスが、ゴブリンの依頼書へと手を伸ばした。

 どうやら私と同じ事を考えていたみたいだ。


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