第91話・商都ビジードの冒険者ギルドへ
この商都ビジードの二大ギルド――つまり、冒険者ギルドと商人ギルドは、この街の真ん中に、並んで建っていた。
街の真ん中に大きな塔が二つあって、白い塔が冒険者ギルド、黒い塔が商人ギルドなのだという。
ちなみに、冒険者ギルドが白いのは、いつも白星を上げるためで、商人ギルドが黒いのは、いつも黒字になるように、という弦担ぎからきているらしく、それを教えてくれたのは、ユリウスだった。
「ユリウス、この街に来た事、あったんだね」
白と黒の塔を見上げながらユリウスに聞くと、あぁ、と頷いた彼は、その後ごめんと口にした。
「何? どうかした?」
「あー、あのさー……これについては、ジャンやモネにも謝った方がいいのかもしれないんだけど、俺、テレポートを使えるようになってたんだよね。ステータス、あんまり見ないから気づかなかったんだけど」
「え? それって、つまり……」
「つまり、歩いてここまで来なくても、一瞬で来る事ができたって事。どうやら、元の姿に戻った事で、ユリアナの時には使えなかった呪文も使えるようになっているんだ」
という事は、ジャンくんとモネちゃんは、大荷物を持って歩く必要がなかったというわけだ。
これは確かに二人に知られれば、ちょっと気まずいかもしれない。
だけど私は、ここまで時間をかけて歩いてきた事が嫌だとは思わなかった。
「私はここまで歩いてきたの、楽しかったから大丈夫だよ。それに、テレポートでこのビジードまで来ていたら、確かに楽だっただろうけど、私はスモル村を知らないままだっただろうし、スモル村の人たちのためにあの熊を退治してあげる事はできなかったんじゃないかな。だから、これで良かったんだと思うよ」
私がそう言うと、ユリウスは安心したように笑い、私たちはこの事はジャンくんとモネちゃんには内緒にする事にした。
ユリウスの容姿が目立つから、私たちはかなり注目されながらビジードの街を歩いていたのだけど、冒険者ギルド内に入ると、中に居た職員の人も、冒険者の人も、みんなが私たちに――正確にはユリウスに注目した。
注目される事に少し疲れてしまったらしいユリウスは、はぁ、と深い息をついたユリウスは、カウンターまで進むと受付をしていた女の子に声をかける。
「聞きたい事があるんだけど、ギルドマスターは居るかい?」
「は、はいっ……」
女の子はユリウスを見てぽうっと頬を赤くしながら頷くと、斜め後ろに居た、身長二メートル以上ありそうな、全身傷だらけの五十代くらいの怖そうな男の人を振り返った。どうやらこの人がギルドマスターらしい。
「俺がビジードの冒険者ギルドのギルドマスターのゴムレスだが……兄ちゃん、お前の話を聞く前に、俺からお前に聞きたい事がある」
「なんだ?」
「お前、その髪は本物か? それとも染めているのか?」
「え?」
商都ビジードのギルドマスターだというゴムレスさんからの質問に、ユリウスも私も、ぽかんと口を開けた。
突然何を言い出すの、このおじさんは!
「だってよ、その姿を見たら、気になるに決まっているだろう。みんなも気になってるようだし、俺が代表して聞いてやろうかなと思ってよ……」
うーん、気持ちはわからなくもないけれど、ゴムレスさん、それ、聞いちゃいますか?
ユリウスは深い息をつくと、頷いた。
「あぁ、残念ながら、本物だ。でも、そうだな……やっぱり目立つから、髪を染めるってのも有りだな。検討するよ」
「兄ちゃん、悪かった。気を悪くさせてしまったな。許してくれ」
ゴムレスさんは素直に謝ると、それで、とユリウスを見つめる。
「で、兄ちゃん、何の用だ? 俺に何が聞きたい?」
先程は悪戯好きなお茶目なおじさんだったのに、がらりと雰囲気を変えたゴムレスさんに、ユリウスは苦笑した。
「俺はスモル村でゴヤの森の魔物討伐を受けた者なのだが、気になる事があって、話をしにきたんだ」
「ほう……気になる事とは?」
「黒い魔結晶の事だ」
声をひそめたユリウスがそう言うと、ゴムレスさんは一瞬目を見開いた。どうやら何かを知っているみたいだ。
「わかった。兄ちゃん、詳しく話を聞くぜ。こっちに来てくれ。おい、ジルとヴォークを呼んでくれ」
ギルドマスターは受付の女の子にそう言うと、受付カウンターの隣にある階段を下りて行った。
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