第88話・注目の的



 いろんな人に心配をかけただろうから、お詫びに行こうと、体調が戻ったユリウスと部屋を出ると、部屋の外に居た人たちはみんな口をあんぐりと開けて、がユリウスを見た。

 サーチートだけが呑気に、


「ユリウスくん、元気になって良かったねぇ~」


 と言って、小さな手をパチパチと叩いて喜んだ。


「えと、どうしたの?」


「どうしたのって、それ……」


 そう言ったジャンくんが指差すのは、ユリウスの頭――つまり、髪だ。

 目立つという理由からユリウスが髪を隠したがっていたのは、ジャンくんもモネちゃんも知っている。


「あぁ。もう、隠すの止めようと思って」


「そう、ですか」


「あぁ」


 ジャンくんもモネちゃんも、驚いているようだった。

 そしてこの二人以外の人は、みんなユリウスに見惚れていた。

 そりゃそうだよね。だって、この世界の人なら誰だって憧れる、創世王の色を全て持ったカッコイイ男の人が目の前にいたら、見惚れちゃうよね。


「女将さん、カッコ悪いところをお見せして、すみません。いろいろと用意してもらっていたみたいなのに」


 ユリウスが声をかけると、宿の女将さんはハッとして、首を横に振った。


「そんなの、構わないんだよ。もう、体は大丈夫なのかい? 毒って聞いたけれど」


「えぇ、大丈夫です。もう大丈夫です。心配をかけてすみませんでした。俺、カッコ悪いですよね」


 そう言ったユリウスに、女将さんは首を横に振った。


「あんなのと戦ったんだから、仕方ないさ。でも、大丈夫で良かったよ。ところで、アンタ……」


「何ですか?」


「その……本当にもうバンダナはしなくてもいいのかい?」


 女将さんから問われたユリウスは、えぇ、と頷いた。


「今までは、この色のせいで、いろんなところで絡まれていましたが、今、この世界には色は違うらしいですが、創世王の再来ではないかと言われている、ジュニアス様が居られます。だから、もう絡まれる事はないかと思ったので、隠すのはやめたんです」


 まるで用意していたかのように、すらすらとユリウスは言った。

 いや、実際、用意していたんだろうけど、開き直ったユリウスは、ある事ない事まくしたてていた。


「ジュニアス様は、きっとルリアルーク王ですよ。だって、創世の王の色を全て持つ、現オブルリヒト王の子供なんですから! ジュニアス様が居れば、これからの未来は明るいですね!」


 私は女将さんに熱弁するユリウスの隣で、笑いそうになるのを必死にこらえていた。

 開き直り方が激しすぎるよ、ユリウス!


「そうかい? でも、その姿のせいか、私にはあんたの方が、ルリアルーク王っぽいと思っちゃうんだけどねぇ」


「いやぁ、俺なんて、ジュニアス様の足元にも及びませんよ」


 ユリウス本人は、全くそんな事を思っていないはずだ。

 開き直りって本当にすごいと、思わずには居られなかった。






 この日の夜は、昨日行うはずだった宴会が開かれた。

 スモル村の村長さんによって、私たちは村の人たちに紹介されたんだけど、当然、村の人たちの視線はユリウスに集まるわけで、村の人たちは熱い視線をユリウスへと向けていた。

 中でもとびきり熱い視線を向けていたのは、独身と思われる美女たちで、私は髪を隠すのをやめたらと言ってしまった事を、早速後悔してしまう。


「なんて顔をしているんだい?」


 と聞かれたけど、別に、としか答えられなかった私を、ユリウスは嬉しそうに見つめる。

 どうしてそんなに嬉しそうなのかと尋ねると、彼は甘ったるい笑みを浮かべたまま、私がヤキモチを妬いてくれるのが嬉しい、と囁き、大勢のギャラリーの前で私の首筋に唇を寄せたのだった。


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